ブラックパンサー



MCU新作、シビル・ウォーにちらっとでてきたあの国王陛下の物語をまるまる一本で。「国王がマスクを被ってヒーローに」っていったらそれこそ身をやつして平民にまぎれて悪いヤツをやっつける、という暴れん坊将軍的な物語をうっかり想像してしまいそうですが、全然違いました。アフリカ大陸の中で科学技術が発達した超先進国のワカンダ王国で、父の死により王位を継いだティ・チャラが外交と内政の間で揺れ動いたり、王家の血を引く切るモンガーに正当な手続きで王位を奪われたりという状況に追い込まれながらも、国王として目指す道を見定めていくという物語。現代の社会問題を反映した状況設定の中で「国王とは」「国家とは」「政治とは」という問題を観るものに問いかけてくる、ヒーロー物とは思えないほど社会派な色合いの物語でした。

「国王たるものまず国の平和を最優先に守るべき」「自国の利益を優先させるのではなく世界平和のために資源と技術力を活かすべき」という命題については色々考えざるをえないところですが、まあその辺のテーマについてはいったんおいといても魅力的なキャラクターがわんさと登場するので単純にヒーロー物、アクション物として見ても楽しいです。

悩みもがきつつも誠実で志の高い主人公のティ・チャラはまっすぐな正統派ヒーロー。女スパイで国王陛下の元カノ・ナキアと誇り高い女戦士オコエ、国王の妹で科学技術者のシュリ、女性陣がみんなカッコよくて魅力的! 決して男尊女卑な社会ではなくちゃんと女性がカッコよく職業人として男性と対等にある社会だというのが、なによりもこのワカンダが先進国であることを表すところだと思いました。主人公のライバルとして登場しつつも最後には……というテンプレのようなキャラですが胸熱!なエムバクもいいし、カメオ出演程度かと思いきやがっつり活躍してキュートな表情をみせてくれたエヴァレット・ロス捜査官(=マーティン・フリーマン)! 好き! いやーほんと終盤大活躍でした。可愛かった。

そしてなんといってもですよ。今回のヴィラン、エリック・キルモンガーが本当にまあ魅力的でして。まだ見ぬ故郷の地を思いながらも、父を殺された憎しみをたぎらせ、貧しい中から軍人として這い上がり、MITを出て工作員に……ってもう設定盛り過ぎだし、アシンメトリーなドレッドヘアに眼鏡っていう冒頭のビジュアルからしてもうなんか出来過ぎだし、ちょっとまって、今すぐキルモンガーのスピンオフ用意して? って思いましたよね。私に絵心とセンスがあればキルモンガーが幸せに日常を生きる世界線の二次創作描いて同人誌作るわ、っていうキャラでした。やーもう、ティ・チャラと最後に夕日を見るあの場面、泣くわあんなのー!

ラストはワカンダが鎖国を解き科学技術力で世界に貢献していくことを表明するところで幕。これはMCUの次作以降、ワカンダの技術力がいろんな面で活躍していくってことでしょうね。楽しみです。

ブラックパンサーの社会派な部分や設定についてのレビューは読み応えのあるものがあったのでこちらのリンクを置いておきます。中途半端に私が書いてもアレなんでリンク先をご参照を!(ネタバレしてますので映画鑑賞後の方だけどうぞ)

『ブラックパンサー』はなぜ傑作なのか ヒーローへ昇華された黒人の歴史 - KAI-YOU.net
映画『ブラックパンサー』は、なぜ全米に熱狂の嵐を巻き起こしたのか──人種を越えた「社会現象」の理由|WIRED.jp
@mhd_sutereoさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)


余談なんですけど、国王が主人公の映画としては「バーフバリ」と比較すると対照的で色々おもしろいですね。完全に思考停止してただひたすら王(=カリスマ)を称えたくなる圧倒的熱量のバーフバリ、国家の一員として国や王のあり方について考えたくなるブラックパンサー、比べていくとそれだけで論文が一本書けそうな気がします。