劇団☆新感線「修羅天魔 〜髑髏城の七人Season極〜」



出典:ローチケ演劇宣言!



観劇前は、ぐるぐる劇場(IHIステージアラウンド東京)という小屋も、髑髏城の七人バージョン違いの立て続けの上演も、正直ちょっともうお腹いっぱい……という気持ちになっていました。が、修羅天魔、面白かったです。やはりセンターに立つ天海さんが絶品。ひたすらカッコよくって見応えありました。そして脚本が大きく書き換わっていたのもあって「どうなるのかな?どうなるのかな?」と新鮮に観られました。セットの使い方も変わって舞台の開口部が広くなり、この劇場で感じるストレスがだいぶ軽減されたように思います。やはり上演を重ねることで見せ方や小屋の使い方が洗練されてくるんでしょうね。ミュージカルのパロディみたいな場面もあり、「ああ新感線を観てるなあ!」という気持ちになりました。




以下、ネタバレあります。未見の方はご注意を。





捨之介、天魔王、極楽、蘭兵衛のキャラ設定が大きく変わりました。捨之介ポジションにあたるのが天海祐希さん演じるお蘭(極楽太夫)。かつては信長と信頼関係のあった女狙撃手、という設定になっています。古田さんは「生前の信長」と天魔王の二役。しかし信長だと思っていた人はずっと影武者だった天魔王だったのか……という謎が最後までひっぱられます。そして、極楽と蘭兵衛が融合したようなキャラが夢三郎。「若衆太夫」ということで男なんだけど太夫として舞い踊り無界の里をまとめ、でもその正体は天魔王の息子であり手下であった……という設定。トリッキー! あれっ7人からひとり足りなくなったぞ……ということででてきたのが川原正嗣さん演じる新キャラ・清十郎。伝説の97年髑髏では天魔王の中の人(ポージングがめっちゃかっこよかった)を演じていた川原さんが……と思うとなんかこう感慨深いものがありますね。清十郎は家康の手下の忍びでお蘭の監視役的ポジション。お蘭とどこか分かり合える気持ちもあるけれど、家康様の害になるなら遠慮なく殺しますよといわんばかりの忠実さから出る緊張感もまたいい。これ、お蘭と清十郎の間に流れるドラマをもう少し観たかったですね、この関係性すごく好きでした。

沙霧、兵庫、三五、磯平は大きな変更はなくほぼオリジナルを踏襲。贋鉄斎はアオドクロバージョンのカンテツがそのまま復活した感じでした。ざっくりした展開の大枠はオリジナル同様ですが、キャラ設定が変わったことにより関係性や展開もかなり変更されています。ラスト、天魔王を倒した後のエピソード、今回はとてもすっきりスピーディになっていたのでとても良かったですね。花鳥風となんかクライマックスの後に報奨金もらうとこまでの話が少し長くなってた気がするので、余韻を削がない展開で良かったと思います。

信長はもともと天魔王だったのか否か、で蘭が「昔のように私に……」と天魔王を試すクライマックスのあそこ、脚本上の展開としてはいいんだけど、絵がだいぶ地味だったのが若干モヤッとしました。ふたりの心情からすると、芝居にリアリティはあるんだけど「家康もすぐそこで見てんのに何でキスしちゃってんの?」「今なんの時間?」とちょっと思ってしまいました。なんかもっと熱気と勢いでねじ伏せる系の場面だったら良かったのになー。細やかな芝居で見せる演出にしたのかもしれないけど、後方席から観てこの場面成立してたんでしょうか。うーん。

主演・天海祐希さんのカッコよさ、ほんと最高でした。大きい舞台でどこから見ても隙なく絵になるの、さすが元タカラジェンヌと思います。ラストの走馬灯演出の時にもキレイに涙を流して泣いていて「ウワー! 女優さんだー!」って思いました。(4列目センターだったので近くでよく見えました)さすがに捨之介みたいに大きく股を割ったポージングはできないし、刀での殺陣もないのでアクション面ではかなりハンデがあるはずなんだけど、立ち姿だけでばっちり絵になるのがすごい。もうほんと魅せ方を心得てるという感じでした。武器が剣でなく銃になったのは殺陣の負担を減らすためでしょうかね。最後の「浮世の義理も昔の縁も、三途の川に捨之介!」の台詞、天海さんが名セリフを言ってくれるのはそれはそれで嬉しいんですけれど、「でも名前捨之介じゃないし?」って気持ちが少しあったりなかったり。


古田さんの天魔王、久しぶり! なんですが、ちょっと冒頭のほうの説明台詞があやしげだったような……まあいつものことですかね(ファンなので織り込み済み)。きっとご本人新感線でこういう役やるのはもう飽きてるんじゃないかなーとちょっと思うし髑髏城はもういいよ〜って思ってるんじゃないかとお察しするんですけれど(ファンですら正直もう……と思ってるところがあるし)。今回は二幕冒頭の天魔王が蘭兵衛を口説くところが無かったので、印象に残る大きな見せ場が無かったきがしますね、そこがちょっと残念。天魔王の場面よりも信長としての力の抜けた感じのほうが良かったように見えたのは、単に初めて観る場面が新鮮だったからでしょうか。今回の天魔王はちょっとホンの時点での書き込みが薄かったような気がするんですよね、古田さんの役者力で埋めてくれることを信じたのかもしれないんですけれど。正直ちょっと今回の天魔王は魅力が薄い人物だなあとそんなことを思いました。ホンのせいなのか演出のせいなのか演技のせいなのかはわかりませんが。


夢三郎の竜星涼くん、全然ノーマークな役者さんだったのにすごく良くて印象に残りました。終盤のあの髑髏党の甲冑姿の立ち姿、絵になってて良かった。もうちょっと最後の悪あがきのところで悲壮感悲哀感がうまく出るようになると完璧ですかねー。アクションも良かったし、また出て欲しいですね。 だからこういうこと思っちゃうの失礼なんだけど、こういう設定こそ早乙女太一くんでやるべきやつじゃない? ってちょっと思いましたね。冒頭の踊りとかもっと男だか女だかわかんない中性的になってすごく良かったはずだよ?って……まあとはいえ太一くんだとしっくり来すぎて逆に新鮮味がなくなっちゃいますかね。

原慎一郎さん(アナ雪のクリストフ役)が率いる髑髏党のやたら声のいいミュージカルシーン、長々やっといて一撃であっさり倒されるの、ほんと新感線!て感じで好きでした。まあでもこういう場面追加してるから長くなるのよね〜とも思うんですが。ちょっと話に対して尺が長い感は否めなく。どうしても場面展開でスクリーン閉じて客席回してまたスクリーン開けてってやってるから時間がかかっちゃう部分はあると思うんですけれど。やっぱり間に休憩いれても3時間くらいに収まってほしいなあと思ったりします。(なにせ最近は一幕目だけでそのへんの芝居一本分の長さだから……)

しかし、花鳥風月の4バージョンの「髑髏城の七人」が作られる、という当初の発表で「4回豊洲に行って同じ芝居を観ねばならんのか……!」という気持ちになり、そしてSeason月のダブルキャスト、Season極の発表があった時は「ろ、6回豊洲に……_:(´ཀ`」 ∠):_」ってなりましたよね。劇場も遠くてほんとソワレに向かう足がめっちゃ重かったです。「遠い……何度来ても遠い!」って。しかもこの後またメタルマクベスで3回、と思うともうなんか気の重さしかありません。なんだろう。何かの試練かな。試されているのかな。とか劇場に向かう電車でいろいろ考えてしまいましたね。メタマクの発表の時のTwitterでも、橋本さとしさん久々の新感線出演って言ったらいにしえの新感線ファンなら狂喜乱舞するところなのに、「またステアラかよ!!!」の憂鬱のほうが勝ってしまってましたからね。メタマクの後もまたステアラ新感線だったらさすがにもうなんかちょっとつらい。つらいです、豊洲。しかしいのうえひでのりさんのインタビュー記事読むと、もう新感線がやれる劇場というのがなくなってきているという切実な事情もあり(さらっと書いてるけどシアターオーブの方針が変わって貸してくれなくなったことにも触れてる)、仕方ないことなのかなあと思ったりもします。年間数十万人動員する劇団てもう専用劇場持ってるところくらいしか無いですもんね。こちらのインタビュー、演劇界の状況や観客の変化にも触れていていろいろと考えさせられる記事でした。

http://l-tike.com/play/dokurojo/shuratenma/
https://spice.eplus.jp/articles/178684