宝塚月組「カンパニー/BADDY」おかわり




前回はとにかく初見の衝撃で書きなぐった「BADDY」の感想、お友だちがツイートしたやつがヅカクラスタ界隈に少し広まったみたいで、ありがたいことに「私の気持ちを代弁してくれてる」「自分が書いたのかと思った」「泣いた」「また観たい」などの感想をいただきました。あんなマンガみたいなショー見て泣いてるのはウエクミ信者をこじらせた私だけかと思ったら結構みんな泣いてたんですね! 

リピート観劇キメた後に読み返したら「このひとすごいなー、あのBADDYみてこんなに語彙力ある文章書けるんだ……(ばぶー)」って他人事のように思いました。いやもうBADDYの中詰以降のドラッグ感がものすごくて、ただひたすら「\バッディ/\バッディ/」「さいこう」「たまさまかっこいい」「ちゃぴかっこいい」「みやさますてき」とかひらがなの感想しか出てこない状態になりましたよ(いやまあ初回観劇後も本当はそんな感じだったんですが)。というわけで今回は頭のわるめな感想だけシーンごとに書いていきます。もはや人に見せる目的ではなく自分のための覚書で、「ここがおもしろかった」「ここかっこいい」しか書いてない感想です。(カンパニーの感想は最後に!)

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■S1 オープニング

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

舞台はピースフルプラネット「地球」の首都、TAKARAZUKA-CITY。飲酒や禁煙が禁じられ犯罪も戦争もない平和な世界。王家の王子は「ワルイ、ってなあに?」と、「悪」に関する概念すらない。女捜査官グッディの活躍で地球の平和は守られているのだ。一方、月には「地球にいられなくなった悪い人たち」が送り込まれている。その月から一筋の煙が立ち上り、ロケットが飛んでくる……

女王の説明で地球の状況が語られる場面。ピースフルプラネットという名前といいハッピーな見た目といい一見平和な世界に見えるけど、「悪」が完全に排除された管理社会のような近未来ディストピアSF感のある社会。「わ、る、い、って、なあに?」とめっちゃ頭わるそうにいう暁千星さんがとってもあざとかわいい。さっきまでカンパニーでは「月がきれいですね」とか言ってたのに「月がキレイなんてとんでもない!」とか言っちゃう女王サマ。けっこうこういう「カンパニーとBADDYで対になってる小ネタ」があちこちに仕込まれてます。カンパニーでは「先生、ここ禁煙ですよ」「東京オリンピックまでに東京はどこも禁煙になってしまうのかしら」みたいな台詞もあったけど、それがBADDYでは「全大陸禁煙」にまでなっちゃってますからね。

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■S2 バッディ着陸(プロローグ)

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


ロケットから出てきたのは大きな宇宙服。宇宙服が左右に割れるとタバコを手にしたバッディが登場!「邪魔だ!どけ!誰も俺をとめられない」とタバコをくわえながら手下を率いテーマ曲を歌い上げる。ベロアのスーツがかっこいい。続いてバッディの恋人・外見は男性だけど女性の心を持つスイートハートも「誰もボクを止められない」と歌いながら登場。男同士に見えるふたりが堂々とキスをするのでグッディたちは大混乱。グッディは喫煙を取り締まろうとするがバッディに至近距離で「かわいい名前だ」と言われて胸を撃ち抜かれる。バッディは禁煙マークを撃ち落として喫煙OKマークに変えてしまう。

ここで開演アナウンスがはいって「皆!ずいぶん待たせたようだ!ハハッ、上田久美子作・演出。ショー・テント・タカラヅカ BADDY―悪党は月からやって来るー10場は、指揮・井上博文により、とっくの昔に開演中らしいなあ!」って来るのが好きです。そうだった、開演アナウンスまだだったし「とっくの昔に開演中らしいなあ!」ってこの人を食った感じワルいわー。そして「バーン!」と効果音のしそうな珠さまの登場。サングラスにくわえタバコのインパクトすごい。だいぶ舞台写真で見慣れてきてたけど初日に見てたらウワッと思っただろうな。スイートハートの美弥サマも素敵。この男だか女だかわからないけどそんなのどうでもいいのって雰囲気で自分に正直であることだけは解るスイートハート像、ほんと好きです。動作は男で語尾は女で一人称はボク、って成立させるの難しいと思うんだけど上手いなー。スイートハートが歌ってる間、バッディは銀橋センターに腰掛けてスイートハートを眺めながら指揮者にちょっかいだして指揮棒うばったりしてる。自由。バッディとスイートハートが銀橋でシガーキスする場面が絵になりすぎて! 最高! カンパニーでついさっきまでみや様にキスされそうになって動揺して「男同士が惹かれあう場面があるということですか…」なんて言ってた珠さまが、ガバッと美弥さまに男らしいキスをキメるのがおかしい。しかもこのキスのあと美弥さまは口を半開きでベロっとしてるし、珠さまも口元ぬぐうような仕草するし、一体どんなキスしてたんですかあなたたち……

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■S3 ポッキーの片思い(三番手銀橋ソロ)
真面目でちょっとヘタレな堅物・ポッキー巡査はグッディに思いを寄せているが、グッディはバッディを取り締まろうとするのに必死でポッキーは眼中にない。切ない片思いを歌謡曲風に歌い上げるポッキー。

真面目で堅物なポッキーを演じるのは月城かなとさん。眼鏡がカワイイ。今回はカンパニーでもBADDYでも朴訥としててちょっとヘタレ感の漂う役。しばらく「悪い人たちのチームリーダー」みたいな役が続いてたから新鮮。ここでスクワット&ツイスト&腕立てで筋トレしている愛希れいかさんがスゴツヨで可愛い〜。こんな場面みせちゃっていいのかな、次回のエリザベートではトレーニング中に貧血起こして倒れるんでしょう?

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■S4A レストランブルーラグーン「恋の食い逃げ事件」

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


海辺のシーフードレストラン、ブルーラグーン。カラフルな服を着た人々がリゾートを楽しむお店にバッディも女性をふたり引き連れリゾートスタイルでやってくる。バッディを追って潜入捜査をするポッキーはオマール海老の着ぐるみで後を追う。退屈しのぎのために王子もロブスターを着て潜入捜査、オイスターの着包みをきたじいやも付きそう。帆立貝コキーユの姿のグッディに心を奪われたバッディは彼女を金も払わず彼女を連れ出そうとするが、「お持ち帰りならお代を」と言われて逃走する。

バッディがカラフルなリゾートスタイルのお洋服に着替えて登場。かーっこいいー。女性ふたりを侍らせて銀橋に横になって舞台を眺めてる。赤い衣装で銀橋をビョーンと跳ねながら走っていく王子の躍動感よ! パトロールバードたちのコーラスやピヨピヨした感じの台詞、なんかほんと80〜90年代アニメっぽい懐かしい感じで好きです。

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■S4B 恋の鎖
銀橋でコキーユのバッディとふたりきりになったバッディ。おとり捜査であることを明かしたグッディはバッディと自分に手錠をかける。バッディは「こんなに追いかけてくるなんてこいつは俺のことが好きなのか?」と勘違い。ポッキーはふたりの距離に嫉妬して手錠の鎖を断ち切る。チャンスとばかりにバッディはポッキーを人質に取って逃走。

逮捕してやった!とドヤ顔のグッディも可愛いし、バッディに勘違いされてなんとなくうれしい気分になっちゃって自分に戸惑うグッディも可愛い。ここの後ろでクールさん(宇月颯)と王女(早乙女わかば)の恋物語も進行しているんだよねー可愛い。ポッキーの「うわあああああああ!」って叫びながら鎖をロブスターのハサミでちょんぎっちゃうのもカワイイ。(何から何までカワイイしか言ってない)

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■S5A バッディのアジト「スイートハートの嘆き」(二番手男役ソロ&群舞)
スイートハートは地球に来てからバッディの犯す罪のスケールが小さいことに物足りなさを感じていた。もっとデンジャラスな男になってほしいと嘆く。そこへバッディがオマール海老ポッキーをつれ、「酔っぱらいの折り詰め」をさげていい気分で帰ってくる。
惚れた男が自分のところに帰ってこないのを嘆き悲しむ女性って雰囲気の曲調なんだけど、ここの見どころは二番手ソロと男役群舞! けだるげな曲調を歌い上げる美弥さまもカッコイイし、後ろのダンスもかーっこいいー! ダークカラーのシャツにベスト、ソフト帽にガンホルダーってなんかもう……本当にごちそうさまです(拝む)。帽子を使う男役群舞のカッコよさたまりませんね、大好きです。そして群舞が決まったーと思った瞬間に、折り詰め下げて完全に酔っ払いの絵面で帰ってくるバッディとスーツ&頭だけ海老のポッキー。カワイイ。そしてそのふたりを見た途端、怒った声で「その人、誰」ってバッディを問い詰めるスイートハートさんがかわいい。(またカッコイイとカワイイしか言ってない)

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■S5B バッディのアジト「悪のレッスン〜デンジャラスな男になるために」

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


グッディに振り向いてもらえず泣くポッキーに「モテる男=デンジャラスな男になるため」のコツを伝授する。ジゴロになってマダムから金を巻き上げる、銀行強盗、パスポートの偽造などのやり方を教える。ポッキーもだんだん乗り気になってきたところで、アジトがグッディによって包囲される。

バッディーズによる悪事指南。でもやっぱりやることが「ジゴロ」「銀行強盗」「パスポートの偽造」とか若干スケール小さいw 大勢がいろいろ小芝居してるからオペラが忙しい場面。ここでも後ろのクールさんと王女のやり取り見ちゃうんだよねえ、最初は普通にスマートなジゴロやってたクールさんが、相手が王女と気づいた瞬間にものすごく動揺してて、「お嬢さん……あなたはこんなことしちゃいけませんぜ……」みたいな雰囲気になって王女が差し出す札束をそっと押し戻すの、ああーたまらない。萌えます。

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■S6A 「カオス・パラダイス」(中詰:路線歌い継ぎからの群舞)

出典:TCA月組「カンパニー/BADDY」Blu-ray・DVD・CD

善の世界だった地球と、悪の世界だった月の人々が入り乱れて、相反するお互いの世界を知ってしまったことに混乱する。「悪いことがしたい いい子でいたい」とぐるぐるする気持ちの葛藤を歌う。

黒い衣装のバッディーズ、白い衣装の地球市民が入り乱れながら「悪いことがしたい いい子でいたい」とテンポよく歌い上げる場面の中詰。背景LEDパネルも「◯」と「×」が出たり消えたり。「愛と憎しみ入り乱れる それこそパラダイス」と歌うとおり、月と地球、白と黒、善と悪、愛と憎しみ、対立するものがぐるぐるぐちゃぐちゃしてる状態が一番楽しいよね? と問うてくるこの場面、歌詞はシンプルでキャッチーなメロディにもかかわらずやたら深いテーマだし、全員揃っての中詰ナンバーだけにめちゃくちゃ気持ちが高揚するしで、なんだかもう言葉にならない気持ちでいっぱいになります。王子役・暁千星さんの伸びのある歌声と大きく身体を動かす躍動感がキラキラしてて、「ああーこれはエリザのルドルフ役が楽しみなやつ!」と思いましたね。

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■S6B 「ポッキーの悪事〜バッディ覚醒〜」(トップさん銀橋ソロ)
ポッキーは生き生きと偽造パスポートを売りさばいてあやしげな宇宙人たちを地球に入国させてしまう。グッディはあわててポッキーを追いかける。自分よりもポッキーを追いかけようとするグッディを見てバッディはショックを受け、この世で一番悪いことをしてみせると宣言する。

すごいノリノリで悪いことしてるポッキーの罪悪感の無さがおかしい。それをおっかけるグッディのスローモーションの動きとかもとってもマンガっぽい。そしてバッディに失望するスイートハートの嘆き、グッディが自分ではなくポッキーを追いかけていってしまったことにショックを受けて「がびーん!」って顔をしてるバッディのマンガっぽさ(効果音と集中線が見える)! 「はっ、おれは何をやってるんだ、俺はバッディ……俺はバッディ……」みたいな雰囲気で自分のほっぺたたくバッディが可愛いんだけど、その後覚醒した瞬間のバッディの顔が一瞬で雰囲気かわっててめっちゃカッコイイ〜。

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■S7 「ビッグシアターバンク式典舞踏会」

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


惑星予算が収められることになったビッグシアターバンクの舞踏会。バッディは黒燕尾にバラを差し、スイートハートとポッキーは女装で、それぞれドレスアップして侵入する。スイートハートとバッディが頭取を誘惑してたらしこんでいる間に、バッディは頭取の姿に変装して金庫の番号を夫人から聞き出す。正体を表したバッディは金庫の鍵をあけ、惑星予算を強奪した上にポッキーと王子たち、銀行員の宇宙人までを誘拐して逃げ去る。

舞踏会に入り込むために黒燕尾を着たバッディのあまりのカッコよさに変な声がでるところだったこの場面。さっきまで汗光らせながら表情コロコロ変えてたバッディが、黒燕尾にバラさして髪もオールバックに整えてタバコくわえて、というこの変貌ぶり! さっきまでガラが悪かっただけに急にこのフォーマル&スマートな格好するの反則! かっこよすぎて心停止しかけました。スイートハートさんも妖艶な女装してガーターベルトに大胆スリットだし、そんなので黒燕尾バッディと踊ってがっつり足上げてるからヤバさ倍増(上手席からだと足上げた時にぱんつみえちゃう)。一方女装がアレでおかしなことになってるポッキー巡査……中の人本当に美形だから普通にやれば普通に美人になるはずなのに、なんでこうなった感がすごいw ここ振付もいいんですよね、男女が踊る時に手を顔の前にかざす仕草がちょっと仮面舞踏会っぽくていちいち好きです。なんで金庫を破られた時にグッディは「……バッディ!」ってようやく気づくんだろうと思ってたんですが、あとからBlu-rayの映像みてて気づいたんですけど、ここの振付ちゃんとバッディがグッディに顔を見せないようになってるんですよね。グッディ目線で想像すると「すごくスマートな振る舞いのたくましい男性と踊ってるけどお顔がよく見えない……ちょっと素敵かも……一体誰なのかしら……」と思ってたら手の甲にキスされそうになってときめいた瞬間に振り払われて、あれが憎きバッティ、って気づくってことなんですよね……た、滾る……。

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■S8「グッディの怒り」(ロケット)

出典:ステージナタリー


まんまと出し抜かれたグッディは怒りに燃える。しかし怒りの感情の一方で、いま自分が生きているということを初めて実感する。

ここのちゃぴ本当にかっこいい! 怒りに満ちた表情で熱唱するのぐっときますね、あのカッコよさをなんて表現したらいいのか。これほんと名シーンでした。詳しくは前回散々書いたのでそちらで。書いた後で「自分の感情で曲解しすぎかな?」とも思ったんだけど、冷静に見てもやはりこれは「グッディの個人的な怒り」じゃなくて「女性全体の気持ち」としての表現だと思いました。だって「グッディひとりで怒りを歌うソロ」じゃなくて「娘役をほぼ全員(バッディーズの6人以外)登場させて、しかもロケット出演の若い子だけじゃなくて上級生の娘役たちも花道で歌わせる」っていう構成だものね。ロケットにトップ娘役が出るのも珍しいけれど、上級生たちが両サイドの花道で一緒に歌うのもまず無いし。研2くらいの若い子は一部男役もロケットに入ってるけど、意図的に「この場面は娘役の場面」と印象づけられるようにできてるなあと思いました。

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■S9A バッディのアジト「悪の華」(大階段男役群舞)

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


すっかり悪に染まった王子やポッキーたちもまじえて踊るバッディと手下たち。(本来の姿を取り戻して全宇宙の生命体を巻き込んで悪を増幅させていくバッディ……!)しかしアジトが突然大爆発。ポッキー巡査が自らを犠牲にしてアジトを爆破し、グッディのための突破口を開いたのだ。倒れたポッキーを抱いて「彼こそが最もデンジャラスな男だった」と気づくスイートハート。

ウワー! 大階段男役群舞! かっこいいー! 男役だけじゃなくてバッディーズの女性も出てはくるけど、立ち位置が別れてるので実質的には定番の男役群舞の印象。路線男役が階段に腰掛けて足ひらくカッコイイあれも見られる。わかってらっしゃるとしかいいようがない。ひたすらただかっこいいを煮詰めて濃縮した場面。しかしバッディの衣装の背中に「BADDY」の名前とハートマークがあるのが一点だけちょっと「ふふっ」ってなっちゃうところ。

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■S9B バッディのアジト「罪」(デュエットダンス)

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

燃え落ちようとするバッディのアジトで対峙するグッディとバッディ。銃口を向けて降伏するよう迫るグッディだが、最後まで悪事を貫くと宣言したバッディ、激しくもみ合うふたりは溶け合うように炎の中へ消えていく。

大階段群舞に続いてデュエダンとかお約束すぎるが、ちゃんとこのお約束の手順を踏むのがすごいわウエクミ先生……。燃え盛る大階段で愛憎が激しく渦巻くデュエットダンスとか、ほんっとうにウエクミ節! ありがとう大好き! 銃口を向けて降伏を迫るグッディ、その銃口に自分の胸を押し当ててグッディを見つめるバッディ……この「お互いに惹かれ合ってるんだけど、それでもそれぞれの信念の元に対立して銃口を向ける」っていうこの状況、ああーオタク女子が本当に好きなやつだよー。燃え盛る業火に焼かれようとするふたりのバックに流れる影ソロの歌詞が「地獄に堕ちても共に行け 罪人ふたり」ってもう本当にウエクミ節すぎて。ラストのリフトでくるくるはもうアレだよね、完全に何かの暗喩だよね……!
「金色の砂漠」も「BADDY」もそうなんですけど、上田久美子先生の作品では愛と憎しみが正反対のものではなく非常に近い位置で同時に存在してるんだよなあ、とそんなことを思いました。

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■S10 「ピースフル・パラダイス」(パレード)

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


地球には平和が戻り、人々は天国へ。しかしそんな天国へ再びバッデイがやってきて「冗談じゃねえ!」と叫んで……

バッディとグッディを死なせてあっけらかんと天国フィナーレ。中詰からぶわーっと感情が乱高下を繰り返していたのが、ここで一度ほっぺたひっぱたかれて正気に引き戻される感覚。初見の時は気づかなかったけど、歌詞も劇中の歌詞の繰り返しじゃなくて各キャラの気持ちがちゃんと仕込まれているのですよね。「この素敵な世界は思ってるほど平和な場所じゃない」「必ずしも愛の花は咲かない」なんてグッディが歌ってるんだものー。しかし、もう写真で散々見てたから驚かないけど、大羽根背負ってサングラスのトップさんは初めて見ましたね。あの絵ヅラのインパクトはすごい。初日に観た人は本当に衝撃だったんじゃないでしょうか。「ここはどこだ、天国!? 冗談じゃねえ!」と叫んだバッディ、階段を降りて「邪魔だ!どけ!」と周囲を蹴散らすのイイ。ジュリ扇かと思ったシャンシャン、たたむとタバコ&煙になるのスゴイ。小道具さん頑張った! さっき一度正気に戻ったのにまたバッディのサングラスで何かが弾けて「バッディ! バッディ!」っていいながら踊りだしたくなる高揚感。いやーほんと終わった後に「私は一体何を観たのか」って気分になるようなジェットコースター感覚ショーでした。


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出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


順番が前後しますが最後に「カンパニー」の感想を。第一印象としては「うーんやはり石田先生……!」というヤツでした。ベテランの先生でちょっと昔のタカラヅカ的演出だけに、暗転が多くて思わず天井を見つめてしまう箇所がそこかしこに。以前から石田先生の脚本は「デリカシーに欠ける」というのがよくファンの間で言われてますが、今回も「お前が孕ませたんだろうが」「あなたの遺伝子(が欲しい)」といったような台詞にそういう点がみられました。ジェンダー観がどうしてももうアップデートされないんでしょうね、昭和の世代の先生だなーと思いました。高野がウィーンで唐突に「ユイ」って下の名前で呼んでトレーナーの由衣が喜ぶ、とか、青柳が本番前に緊張してる美波を抱きしめちゃうあたりとかもね、現代社会の感覚で言えば完全にセクハラMeToo案件ですからね。まあ宝塚だからラブストーリーを仕込んでいかなきゃいけないのは解るし必要だとは思うんだけど、リアルにサラリーマン社会の話やってる時にはもうちょっと愛情表現の仕方には気を使って欲しい感じです。

アイドル的マラソンランナー・まいまいのエピソードはサイドストーリーとはいえ、「思わぬタイミングでの妊娠でキャリアが閉ざされ、会社にも多大な金銭的損失を与える」とか、まあリアルな話っちゃリアルな話なんですけど、そういう息苦しさを宝塚で観たくねえなっていう気持ちもありました。妊娠出産のタイミングとか今の20代30代には結構センシティブな話だし、周囲に妊娠をネガティブな受け入れられ方するのほんとツライんですけどね。原作にあるエピソードなのかちょっと未読なのでわかりませんが、いずれにせよこの辺の表現の仕方、もう少し優しく丁寧に扱って欲しいと思います。青柳の亡き妻トモミのことを美波が「ライバルは幽霊」って言う台詞も、ちょっとヒロインの台詞にしちゃあデリカシー無いなと思いますし、それを言う相手が死んだトモミの友人でもあるサラってところもどうなんだと思いますよね。亡くなった友人のことを「幽霊」みたいに言われたらあんまりいい気分しないと思うんですが。サラとトモミがまったく面識なくて知らない間柄ならまあわからんでは無いんですけれど。

「ネットごっこ」とかSNS周りの用語もちょっとふふってなっちゃうところもありますし、フラッシュモブもあれはフラッシュモブなのか、バーバリアン呼んじゃったらむしろゲリラライブなのではないか、とか色々とツッコミどころもありますし、ヒット曲といわれるバーバリアン「ブレイクスルー」の歌詞が「イエスマンな大人になりたくない」「指示待ち人間なんてまっぴらごめん」「俺は誰かの奴隷じゃない」とか「昭和かーーーー!」「もう平成も終わるのに!」って思いますし、こういう現代物をベテランの先生にやらせるのはやはりちょっと感覚的にキビシイのではないか、せめてもうちょっと若い先生に脚本書かせるべきだったんじゃないのか、と思います。

脚本の構成的にも時系列が「?」となるところが多かったですね。例えば高野がグラビアアイドルに迫られる場面、「ホテルの部屋の前ですったもんだ」→「スポーツ新聞で記事になる(翌日になってる)」→「ホテルの部屋の中で4人が話す(前日に戻ってる?翌日以降の話?)」ってなっていて。せめて小道具がスポーツ紙じゃなくてスマホのネットニュースならわかるんですが。終盤の展開も、「サラお嬢様と高野負傷、那由多凹んでる、どうしよう」と状況的に追い詰められた青柳に呼びかける亡くなった妻の声(亡き妻が励ます声って演出もどうかと思うんだけど)の場面で、背景に美波が踊る白鳥が出てくるから「あ、代役で突破したのかな」と思ってたらただの心象風景みたいで意味不明だし、その後バーバリアンが即席ライブで舞台を繋いでる場面に続いて(白鳥の湖の公演でバーバリアンでてきて歌ったら客席が気持ち的に混乱しない?)、さあ高野も那由多も美波も舞台に出るぞ!公演を成功させるぞ!ってなった後にその本番の舞台はまったく描写されず有明の企業パーティの場面に移っちゃって、「本番やんないのかよ!」ってなりますもんね。さっきの心象風景みたいな美波の白鳥の湖と青柳の妻の声、時系列的にはここに入れるべきだったんじゃないかと思います。

と、まあ色々文句は次から次に出てくるんですけれど(ひとことだけ文句書こうと思ったらついつい長くなった)、それでも生徒の魅力の引き出し方や出番の割り振り方には愛があるなあと思うので、そこは素直に石田先生ありがとうと言いたいところです。今回はBADDYと対になる台詞も多かったですし。石田先生も上田久美子先生も、「生徒のここがいい」と思ってる魅力の部分、キャラの解釈は意外に共通してるように思ったんですよね。珠城りょうさんの役柄なんか今回「誠実で真面目なサラリーマン」「宇宙一の悪党」と芝居とショーで真逆でしたけど、「ちょっと滑りかけのことをやらせたときの珠城りょうの可愛らしさ」っていうニッチなツボをついてきたあたりは共通してるなーと思いました。美弥るりかさんの色気とか、月城かなとさんのややヘタレな感じとか、暁千星さんのあざと可愛さとか、宇月颯さんの大人の男感とか、キャラは違えどアテ書きで書いた役にそれぞれ共通項があるように思いましたね。

珠城りょうさんのスーツにグレーのコートでリュックを背負ったスタイリング、「ああーこういうサラリーマンいるー」感があってとても良いです。まあなかなかあそこまでの好青年は実際にはいませんけれどね。その辺にいそうという夢をみせてくれるのは良かったなあと。サラリーマン物とはいえなんやかやでスーツ、ワイシャツ姿、空手の胴着、浴衣、燕尾といろんなお衣装が見られたので、コスプレ物だと思って観るのは楽しかったです。あとフラッシュモブとか最後のパーティのシーンとか社食の場面とかカフェの場面とか、背景のモブ芝居を眺めてるとみんな細かく小芝居していて退屈しないな、楽しいなーと思いました。なんやかやで組のファンならこれリピートできるやつですね。