ニンゲン御破算


出典:阿部サダヲ+岡田将生+多部未華子ら競演、松尾スズキ史上最大の幕末大河エンタテインメント『ニンゲン御破算』が開幕 | SPICE



あらすじ:頃は幕末。加瀬実之介(阿部サダヲ)は、人気狂言作者・鶴屋南北松尾スズキ)、河竹黙阿弥(ノゾエ征爾)のもとへ、弟子入りを志願していた。大の芝居好きで、成り行きとはいえ、家も侍分も捨て、狂言作者を志している実之介。「あなた自身の話のほうが面白そうだ」と南北に言い放たれた彼は、自分、そして自分の人生に関わってくるニンゲンたちの物語を語りだした―。もともとは元松ヶ枝藩勘定方の実之介は奉行から直々の密命を受けていた。それは偽金造りの職人たちを斬ること。幼馴染みのお福(平岩紙)との祝言を済ませた実之介は、偽金造りの隠れ家へ向かい、職人たちを次々に殺めたのだった。その様子を目撃していた、マタギの黒太郎(荒川良々)と 灰次(岡田将生)の兄弟は殺しのことは黙っている代わりに自分たちを侍にしてくれるよう、実之介に取り引きを持ちかけた。そこへ駆け込んできた娘が一人。黒太郎たちの幼馴染みで、吉原へ売られていく途中のお吉(多部未華子)だった。ちょうどその頃、実之介は、同志の瀬谷(菅原永二)や豊田(小松和重)から、悪事の責任をすべて負わされて切腹を迫られていた・・・・・。
公式サイトより引用)

再演すると聞いて「ああーちょっと前に初演観たなあ、あれは勘三郎さんが主演で……ん? あの当時はたしかまだ『勘九郎』さんだった頃だよな? じゃあ結構前だな?」と思ってよくよく見たら初演が2003年。もう15年も前(!)の作品だったのですね。当時は「歌舞伎役者の中村勘九郎松尾スズキの新作で主演」ていうインパクトがとにかく強かった記憶があります。今はもうすっかり商業演劇の人としても定着した松尾さんですけど、当時はまだコクーン2作目くらいで「小劇場界の気鋭」というポジションだった気がしますからね。
初演は正直「中村勘九郎」という役者のキャラの強さと熱量が物語の強度に勝ってしまっていた気がして、正直物語の内容をはっきり覚えていなかったんですよね。良くも悪くも勘九郎さんがひとり目立ちすぎていた気が。覚えているのは「鶴屋南北が松尾さんで河竹黙阿弥が宮藤さん」というキャスティングに「お、おう……」と思ったことくらいで。あとは大人計画を中心とする小劇場系メンバーと勘九郎さんの芸風の違いが、うまくしっくりなじんでいなかったように受け取ったのは覚えています。(これは今映像観るとそうでもないかもしれないけど、当時の状況的にそういう受け止め方になったということかもしれません)

それに比べると今回はメンバーの芸風や熱量に凸凹が少なく、まとまりの良い座組だったと思います。おかげで初演よりも物語が飲み込みやすくなっていました。主要キャストは松尾作品経験者がほとんどなので見てる側にも安心感もありますし。初演では正直「小劇場演出家の作品に出演する歌舞伎役者」とか「南北と黙阿弥の関係をこのふたりに当てはめるのか」とかいうメタな方向に意識が行ってしまって物語が頭に入ってこない感じがありましたが、今回は素直に役を役として観ることができたと思います。当時は宮藤さんが上り調子の時だったのでその関係性になにかこうヒリヒリする部分があったのですが、世代的に若いノゾエさんは「師匠(南北)と弟子(黙阿弥)」の関係がしっくり落ち着いて見えますからね。

阿部サダヲさんの主演力すごいし、あのてんこ盛りの設定を引き受けてなお説得力のある芝居はすごい。終盤で発覚する「実之介は実は女」の件も、初演のときは「もうコレ以上設定盛らなくても!もうお腹いっぱいだよ!」と思った記憶がありますが、今回は家父長制度の被害者として「ああー」と腑に落ちる部分がありました。そこはやはり勘九郎さんとサダヲさんのキャラの違いなんでしょうね、勘九郎さんの時は「芝居の作り手の業」みたいな部分が強かった気がしたので「実は女」の部分がなんだか余計に感じられたのですが、サダヲさんの場合は「女として子を生み育てることを奪われたためにその分のエネルギーが明後日の方向に向いてしまった」という人物像に見えたように思います。

下座音楽風の邦楽と、バイオリン・キーボード・サックスの編成の生演奏が素敵でした。ゴーゴーボーイズゴーゴーヘブンの時も邦楽バンドの演奏がありましたが、より無国籍感が増した感じで楽しかったです。奥行きと高さをうまく使った舞台美術も好きでした(が、あれはコクーンシートや立ち見席から奥が見えたんだろうかという疑問も)。全体的に初演よりショーアップしてわかりやすい物語になっていた気がします。わかりやすいといえば、途中で南北と黙阿弥が「これまでのあらすじ」を整理して説明する場面があったりして「おお……商業演劇……!」って思ったりしましたね。「観客を馬鹿にしてんのか」って思う方もいるでしょうけど、個人的にはちょっと集中力切れかけてきたところだったんで確認するのに助かりました。てへ。