劇団☆新感線「メタルマクベス Disc1」の感想の前に

舞台の感想を話す前に、まずはこのことに触れたい。
橋本さとしさん、おかえりなさい!」

待った、待ってたよこの21年間。さとしさんが新感線の舞台に再び立つ日がいつか来ないだろうかと。私が新感線にハマったのは94年、初めて観た「スサノオ〜武流転生〜」でさとしさんは古田新太さんの手下・オロチの一員だった。公演ごとにさとしさんは存在感を増していき、オロチロックショーではセンターにいたし、本公演主演作の「野獣郎見参!」もあった。退団直前の時期は古田さんについでほぼNo.2のポジションにいたと記憶している。熱狂的なファンが多かったこともあり、劇団内でも勢いのある存在だった。「ゴローにおまかせ3」のビリー役では客席に降りる演出中に衣装におひねりが多数ねじこまれていたのを覚えているし、あの辺をピークにして「さすがにちょっと行き過ぎではないか」とファンに役者がキャーキャーされる演出を劇団が控えるようになったという気もしている。
一時はそんな風にアイドル的人気を誇ったさとしさんであったが、新感線が劇的に動員をのばすきっかけになった「髑髏城の七人」のまさに直前、「直撃!ドラゴンロック〜轟天」を最後に、劇団を離れてしまった。

退団後、一時はロックシンガーとして売り出していた時もあったが、これはうまくハマらなかったようで、しばらく方向性を模索しているような時期もあった。映像作品に出演している姿を見て「少し……太った……?」と心配になる時期もあった。そうこうするうち、さとしさんはミュージカル界に根を下ろし、帝劇のセンターに立つ「ミュージカル俳優」になった。堂々たる体格、押し出しの強い芸風と歌声、そしてトーク上手でお茶目な素のキャラ、主演も行けるしアクの強い敵役も似合い、脇固めもできる、いい意味での「使い勝手の良さ」がミュージカルの世界にうまいことハマったのだろうと思った。ミス・サイゴンレ・ミゼラブルといった大作で堂々とセンターを張るさとしさんの姿に「ああ、こんな晴れがましい日が来るなんて」と胸を熱くしつつも、それでも常にどこかで「ああ、もうこんなに立派になったんだし、そろそろ新感線にゲストとして戻ってきてくれないかなあ。もう今ならいいギャラもらって真ん中に立てるはずだよ」と、そんなことを思っていた。

改めて数えてみると「新感線の橋本さとし」を観ていたのはたったの3年間だ。そして、その実に7倍の時間が流れている。それでも、ファンになりたてで新鮮だった気持ちの時に観ていた「新感線時代の橋本さとし」の記憶は鮮明で、思い出すとちょっと切ないような気持ちになる。新感線のあの衣装を着てシャウトするさとしさんは、本当にカッコ良かったのだ。

劇団35周年の「五右衛門vs轟天」の時も「お祭り公演だし、もしかして?」と思ったけど実現しなかった。「髑髏城の七人Season月」で羽野晶紀さんが17年ぶりに劇団復帰したときも、「じゃあ極でさとしさんが復帰する可能性もある!?」と色めき立ったが、結局これもかなわなかった。いにしえの新感線ファンは、かすかな希望を何度も抱いては、それが叶わず落胆してきたのだった。

それが、ついに、「メタルマクベス」の舞台で実現した。正直企画概要が発表されたときはさとしさんの劇団復帰よりも「やっと髑髏城の年季奉公が終わったと思ったのに、まだ豊洲に通わなきゃいけないの!?」「もうぐるぐる劇場はお腹いっぱいだよ!」という衝撃が大きくて素直に喜べなかったのだけど、それでもあのランダムスター役には間違いなくハマるだろうと思った。「キレイは汚い、ただし俺以外」を歌うさとしさんの姿や声は用意に想像できた。完璧だ。仕方ない、これは観ざるを得ない。豊洲は遠いが、俺は行くぜ!とチケットを握りしめて、台風吹き荒れる中をずぶ濡れになりながらステージアラウンド東京へ向かった。

冒頭、主役の登場を告げる「マクベスが蘇る!」のセリフが、「橋本さとしが帰ってきた!」に聞こえた新感線ファンは少なくないと思う。「METAL MACHBETH」のLEDタイトルを背中に背負い、高々とギターを掲げるさとしさんのシルエットを観た瞬間、たぶん、90年代の新感線ファンはもれなく心の中で叫んだと思う。
「さとっさん、おかえりなさい!」と。

芝居の感想は、また別頁にて。