宝塚月組「ON THE TOWN」@東京国際フォーラム ホールC

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出典:宝塚ジャーナル : 新トップコンビお披露目で華やぐ宝塚歌劇月組公演ミュージカル『ON THE TOWN』上演中!

 

娘役新トップ美園さくらちゃんお披露目公演。おめでとうございまーす!
作品は映画「踊る大紐育」で知られる古き良き時代のブロードウェイ・ミュージカル。NYの街に降り立った若い水兵3人組が、24時間の限られた時間を有意義に過ごそうと奮闘するお話。ゲイビーは地下鉄で「ミス・サブウェイ」のポスターを見つけ、その美女アイビィ・スミスに出会いデートの約束を取り付けようとします。仲間のチップとオジーもそれに協力してNYの街に飛び出すけれど、チップは女性タクシー運転手のヒルディと、オジーも人類学者のクレアと出会い、それぞれの家に連れ込まれ……といった展開。

 

初演が1944年ということで第二次世界大戦真っ只中の設定だと思うんですよね。一応セリフにも少し「戦争」の単語はあったような気がしますが、全体的に戦争の影を感じる演出ではありませんでした。時代背景を知らなければ、ただただ享楽的な雰囲気で、ストーリーも内容もちょっと薄味に感じてしまうのでは……とも。登場人物も「街に降り立ったヤンチャな水兵たちが女漁りをしてる」「ヒルディやクレアもやたら積極的に水兵に言い寄りナンパしてる」といった感じで性に奔放なアメリカンの狂騒的な物語に見えなくもないです。もう少し戦争の影を感じる演出がされていれば、単なる行きずりの恋愛じゃなくて、水兵たちが「せめて今日だけは女の子と過ごしたい」と願う切実さや悲壮感が伝わりますし、女性たちが行きずりの水兵とすぐ仲良くなるのも尻が軽い印象にならないんじゃないのかな……と思うんですよね。現代の草食的な恋愛状況からするとみんなやたら肉食に見えてしまいますけど、戦時中はもしかして「明日をも知れぬ兵隊さん」に対して女性が身を差し出しやすい雰囲気があったりしたのかなあ、とふと思ったりしました。漫画「この世界の片隅に」では、すずさんの幼馴染・水原哲が入湯上陸した時に、すずさんの夫が水原とすずさんを離れにふたりきりにして母屋に鍵をかけてしまうエピソードがあって、まあ言うたら「兵隊さんに妻を差し出した」状態を作ってるわけなんですよね。今だったらありえない話ですが、戦時中はこの辺の価値観がいまと違ったんじゃないかなあ……と、ちょっと思いました。クレアの婚約者・ピットキンがオジーとクレアのキスを見て怒り出すでもなく「わかるよ」と理解を示すのも、最初はピットキンが風変わりなキャラなのかと思って見てたんですけど、時代背景を考えたら「わかってるよ、兵隊さんのお相手なら仕方ないね、それに怒るほど私も野暮ではないよ」ということだったのかなあ、と後から思いました(まあ、振り回されすぎてピットキンも最終的にはキレてしまうんですけど)。
 
個人的には、もう少し戦争が社会に影を落としていることがわかる演出だったほうが良かったんじゃないのかな、作品に深みが出たんじゃないのかな、とも思いましたが、宝塚は夢々しい世界だからただただ楽しい作品として演出したかったのかなあというのもまあわからないではないです。パンフレットで演出家の野口先生も「契約上アダプテーション(潤色・脚色)はできない」「原作のまま上演」と書いてあったので、まあ色々制約があってやりたいようにできない部分はあったのかなあ、と。
 
さて生徒さんについて。
ゲイビー役の珠城りょうさん、実直で単純で、真面目で不器用で、というキャラなので当然のようにハマっています。アイヴィにデートをすっぽかされてしょげかえっている姿がまあかわいいことかわいいこと! あんまり見たことのない表情だっただけに新たな扉が開きそうに(あるいは沼の深みが増しそうに)なりましたよね。娘トップお披露目の美園さくらちゃん、全体的に露出の多いお衣装でしたが、足が折れそうに細いタイプじゃなくてしっかり無駄のない筋肉がついてる感じが健康的で、珠城さんといいコンビだなと思いましたね。お化粧がもう少し可愛く愛され感あるメイクになればなーと正直思いますが、今後を楽しみにしてます。ちょっとお披露目公演としてはトップコンビの絡みが少ない芝居だったかな、前回の別箱「雨に唄えば」のほうがお披露目感があったな、とは思いましたけど。
 
チップ役の暁千星さん、ワンコ的な弟ポジションでまあかわいいことかわいいこと(二度目)。ヒルディに言い寄られてタジタジになってるのも可愛ければ、部屋に連れ込まれてその気になってからのしっぽぶんぶんワンコっぷりといい、クッションを抱きしめながら上目遣いでの「こっち来てよ」の破壊力といい、もう完璧でした。完璧。女性が夢見る年下彼氏の理想、という感じですよね。まあ個人的には暁さんはカワイイ役が似合って当然の顔立ちなんでラストパーティの時のような男臭い役を演じて欲しい感じではあるんですけれど。絶対エスっけ溢れる役も似合うはずだと思うんだ……。彼女のヒルディ役・白雪さち花さんもパワフルな歌声でかっこよかったです。今回はいいお役でしたねえ!
 
ジー役の風間柚乃さん、浅黒肌でオラオラした男臭いキャラ。これを空回りさせずに演じられる研5、末恐ろしい……。オジーがゲイビーに「ゲイビー様のお通りだ!」のポーズを指導するところはどうやら日替りアドリブらしいのですが、エリザ代役ルキーニに続いて日替りアドリブを任される研5……さすがですね……。クレア役の蓮つかさくん、いつもは男役ですが今回は娘役で。いやーお顔もきれいだしお歌も上手くてよかったですね! オジーやピットキンとのやりとりもコミカルで見事なコメディエンヌっぷりでした。ピットキンの輝月ゆうまさんもしっかりソロがあって嬉しかったです。