宝塚星組「霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS ~星たち~」@東京宝塚劇場

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出典:宝塚歌劇団公式サイト


ほぼ1年近くぶりの上田久美子先生の演出作品……なのにオリジナルじゃないの!? 昔の作品の再演? と企画概要発表の段階で正直ちょっとがっかりした気持ちもあったのですが。そんな気持ちを抱いてごめんなさい、と素直に謝りたくなるほど、「霧深きエルベのほとり」、すごく良かったです。というか、めっちゃ油断してハンカチも出さずに観てたんですけど、ずるっずるに泣きました。正直なこと言うと雪組のファントムより全然泣きました。まさかあんなに泣かされると思わなかったんですよ……。

 

初演は1963年、その後の再演が67年、73年、83年なので、まあ作品としてはとてもクラシックですね。ベルばら以上に古典です。昔の作品はほんとトップスターを見せるための作品だったんだなあ、とちょっと思いました。というのも、近年の作品が割といろんな生徒にきっちり見せ場を与えているのに比べると、ほんとトップコンビと2番手くらいまでしか芝居のしどころはないといっても過言ではないほど。なにせ3番手の七海ひろきさんですら「水夫仲間のひとり」のポジションでしかないし、4番手瀬央ゆりあさんも同様で。さすがに今回で退団となる七海さんについては少しセリフが増やされているようでしたが、男役の見どころの少なさにちょっとびっくりしました。むしろマルギットの妹シュザンヌ(有沙瞳)とかカールの昔の恋人アンゼリカ(音波みのり)のほうが芝居のしどころがある感じでしたよ……。

ちょっとその辺、星組のファンだったらもしかしたら不満に思うかもしれないな……と思いましたが、その分主役のカール(紅ゆずる)、ヒロインのマルギット(綺咲愛里)、その婚約者のフロリアン(礼真琴)の芝居はたっぷり、という感じで、この3人はとても見応えがありました。マルギットとフロリアンがピアノを弾きながらやりとりする場面、あれ多分ちゃんと本人が弾いてましたよね。やりきれなさや苛立ちの心情をピアノの弾き方と背中で表現するという場面だけに、ふたりともさすがの上手さで感心してしまいました。優等生〜! お金持ちで育ちも良くて優しくて心も広くて、言いづらいことでも相手のためにきちんと伝えるフロリアンの人の良さ、「ああ〜絶対フロリアンと結婚したら幸せになれるのに〜」と思うけれど、それだけに「マルギットは別にフロリアンが嫌なんじゃなくて、親に決められた婚約が気に入らないのだな……」とわかるキャラ設定ですよね……。マルギットがまったく自覚も嫌味もなくカールを傷つけているのも納得のお嬢様ぶり。このへんの綺咲さんのさじ加減も上手かった。

そしてカール! ああカール! 紅ゆずるさんにこのカール役を、という上田久美子先生の慧眼よ! いやもう本当にハマり役でした。照れ隠しでふざけたことも言うし口も悪いればガラも悪いけれど、不器用で根は真面目でまっすぐな男なのだと観客に伝わるこの役作り……! 手切れ金の札束でマルギットを叩きながら憎まれ口を叩いていても、マルギットの背中の傷みよりカールの心のほうがずっと痛いのだと伝わってくる場面のつらさと来たら! さらに酒場でヴェロニカに手切れ金を渡しながらおいおいと泣き崩れる場面、もう涙ナシには観られませんでした。まさかこんなに紅さんに泣かされる日が来ようとは……

ストーリーはシンプルで情報量もそんなに多くない作品ですが、上田先生はうまいこと細部を埋めて丁寧に演出したのだなあとしみじみ思いましたし、これだけ主演がたっぷり間をとった芝居ができるのも昔の作品ならではだな、とちょっと思いました。今だともっとセリフをぎゅうぎゅうに詰め込んで下級生に見せ場作っちゃいますもんね。ビア祭りの華やかなショー要素も楽しかったし、前半のおとぎ話のようなラブラブっぷりがますます後半の悲劇を予感させる雰囲気で切なくもありました。いやー、見応えありました!

 

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出典:宝塚歌劇団公式サイト

さてショーの「ESTRELLAS(エストレージャス)〜星たち〜」について。「カラオケショーっぽい」と言われるほどJ-POP多用のショーだったし、アイドルグループっぽい男役だちがばっきばきに踊る場面もあったりしたので、なんとなく「ベテランの中村A先生が若手の野口先生の作品を意識して作ったのか……?」という思いもあったりなかったりしましたが。個人的にはあまり印象に残るところの少ないショーでした。七海ひろきさんを中心とした場面はさすがに「ああ、辞めちゃうのかぁ、惜しいなあ」と思う気持ちもありましたが、うーん。全体的に無難で薄味っぽい感じでしたかねえ。