ロンドン版「The King and I 王様と私」限定上映@TOHOシネマズ日比谷

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出典:cinemacafe.net「王様と私」NY公演 (c) Paul Kolnik

 

ケリー・オハラ&渡辺謙主演、トニー賞4冠、オリビエ賞も現在6部門ノミネート中というあのリバイバル版ミュージカル、夏の来日公演に先駆けてロンドン上演舞台の映像を上映! というわけで、とるものもとりあえずという感じで見てきました。いや〜良かった〜。作品としては古典という感じでいかにも「古き良き時代のミュージカル」なんですけれども。二幕の劇中劇ちょっと長いな、とか、終盤やたら急展開だな!?とかはありましたけど、キャストの魅力と丁寧な演出にうっとり見とれてまいりました。

 


1860年代、タイの王室に英語の家庭教師としてやってきたアンナ(ケリー・オハラ)と、国王(渡辺謙)が文化や風習や考え方の違いから衝突しながらも、イギリスからやってくる特命大使への対応を力を合わせて乗り越え、心を通わせる……とざっくりいえばそんな物語。ビルマから王様の妻として献上された奴隷のタプティムとその恋人ルン・タの悲恋、王室のたくさんの子供たちとアンナの交流などを通して、一夫多妻制で奴隷制も残る前時代的なタイ王室が、アンナの熱意で変わっていく様子を描いていきます。「先進的な欧米」と「後進国としてのアジア」の対比がちょっとしんどいかな、「なんでもかんでも欧米が進んでて格上だ、アジアの文化は野蛮だ、欧米化すべきだ」みたいな話だったら嫌だなあ、文化の違いに対して勝手に上下をつけるのはどうなんだ? 自分たちの文化こそ正解と押し付けるのは傲慢じゃないか? ……と思わなくもなかったのですが、アンナが子供たちの手をとって額に近づけるあの挨拶を受け入れてるところに「異なる文化に対する敬意」は感じられましたし、まあ最終的にそんなに不快感はなかったので一安心。


まあまず主演のケリー・オハラがすごい。映像でもはっきりわかるあの歌の巧さよ! 緩急自在だし表現力豊かだし。なるほどこれがトニー賞を取る女優の演技かあ〜すごいなあ〜としみじみしながら見ていました。王女を演じたルーシー・アン・マイルズもトニー賞助演女優賞受賞してましたが、こちらもさすがの歌声。まあとにかく上手い。渡辺謙さんは、というと女優陣に比べると正直なところそこまで「圧倒的に歌が上手い」という感じではないのだけど、キャラクター造形がとにかく魅力的。一歩間違うとただただ横柄で嫌な人物になってしまいそうな王様を、コミカルな表情と愛嬌で魅力的な人物にしていました。何より、ただ立ってるだけで絵になるあの圧倒的な存在感は、そのへんの役者にはなかなか出せませんよね。まさに「King」がそこにいる、という感じ。さすがです。近寄りがたい雰囲気と、時々見せる親しみやすい表情のギャップ〜! いやーかっこよかった。


子役たちの可愛らしい演技も魅力。冒頭、次々登場してアンナに紹介する場面での表情と王様への行動でそれぞれのキャラクターがはっきりわかる演出になるほどと唸ったり。そしてトニー賞のパフォーマンスでも披露されていた「Getting to Know you」の多幸感、最高でしたね。これぞミュージカルの悦び。子供たちへ教えたことが染み渡って後半の劇中劇の展開に生きていくところも好きでした。国王の第一夫人の聡明で落ち着きのある、王への愛が滲むあの抑えた演技もよかった。一夫多妻で美人な奴隷とか出てきてそれが他の男と恋してる、なんて言ったらもう凡人はドロドロ昼メロ展開を予想するところですよ……

 


先に映画を観た何人かが「大沢たかおが出てるって後半まで気づかなかった」とTwitterでつぶやいていて、「嘘でしょ? クララホム首相ってそこそこ大きい役じゃなかったっけ」と思ったんですが、観たら納得しました。髪型がツーブロックで日本のドラマの時と全然違ってるわ顔つきも違うわ、何より登場シーンで上着をふわっとさせて半裸の上半身が強調されてしまうから、立派な「おっぱい」にしか目がいかない……という状況でした(おっぱい言うな)(胸筋!)。やーしかし日本では渡辺謙さんのことばかり報じられていますが、ウェストエンドでちゃんと大きい役がついて「王様」のアンダーとして週一で主演もつとめる、って大沢たかお氏もすごい活躍じゃないですか……。大沢たかおバージョンの「王様」も観てみたいですね。来日公演では出演するのかな?

 

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出典:cinemacafe.net「王様と私」NY公演 (c) Paul Kolnik


終盤、王様とアンナの距離がぐっと近づきダンスの手ほどきをする場面での謙さんの「Come」、あーほんと最高ですね。トニー賞のパフォーマンスの時もこれみてキャーッとなりましたけど。物語の冒頭では完全にお互いをいけすかない奴だと思ってて、でも同じ目的にむかって協力しあう「同士」として少しずつ心が通じ合って、お互いのいいところもわかってきて……というところからのあのShall we dance? ですよ……なんていうの、この、「お互いにそれはありえない」と思いながらも恋愛感情に限りなく近いところでお互いの気持ちを通わせる、あのほんの短い時間の、なんとも形容しがたい色っぽさときたらね……! あのダンスがセックスの暗喩だとしても驚かないけど、ただ手を取り合って踊るだけのほうがなんぼかセクシーでエロスですよね……そのくらいふたりの心が近い位置にあるということが伝わってくる瞬間でしたよ……いやもうどんな濡れ場よりもドキドキするような、最高のラブシーンでした。あまりに夢のような時間すぎてその後のタプティム捕獲の場面の辛さとの落差がすごいのですが。

 

いやはやそれにしても!夏の来日公演は既に気合をいれてチケット確保済みなのですが、今回の上映を観たらより期待感が高まりました。発売初日にあまりの繋がらなさにギリギリしながらも2時間かけてどうにかチケット確保を完遂させた自分を褒めたい。あのケリー・オハラの生歌を聴けるなんてなんという贅沢! 本当に楽しみ、です!