イキウメ「獣の柱」@シアタートラム

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出典:劇団公式Twitter

 

2008年の短編「瞬きさせない宇宙の幸福」、2013年の「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」は未見で、今回の再演が初見です。とってもイキウメらしいSF作品でした。「見るものを夢中にさせて思考を奪い、恐ろしいほどの幸福感をもたらす巨大な柱」が世界各地の都市部に降り注ぎ、そこから視線をそらすことができなかった者はそのまま死んでいくという設定。そこだけ聞くと荒唐無稽な設定でありながら、「地方の山に落ちた隕石をみつけたアマチュア天文家が奇怪な死に方をする」という小さな発端から、巧みな話術で物語に引き込んでいくのが前川さんらしいです。

ハリウッドのディザスタームービー的な壮大なスケール感のストーリーを小劇場でやるのが面白いし、ずいぶん前にスズナリで見たじんのひろあきさんの「デビルマン 不動を待ちながら」を思い出したりしました。観客の想像力を刺激して、美しく甘美に世界を崩壊させる舞台。この空間の外側で世界が終わっていく、という物語を説得力をもって語ってくれる舞台は大好きです。見ているうちに「こういう状況に出くわしたら自分はどうするだろう」と考えながらも引き込まれてしまうやつです(そんなに幸せなら安楽死もいいなあ、とか)。本当にイキウメの役者さんというのはこういう「人智を超えたものに出会ったときの反応」の表現に特化しているのだなあとちょっとおもしろかったりもしました。

極限状態の中を生き抜く二組の男女の対比が面白いです。したたかに状況を利用する悪人「ラッパ屋」の佐久間一郎(市川しんぺー)&堀田蘭(松岡依都美)。もーほんとこのしんぺーさんの圧倒的な俗物っぷりとふてぶてしい小悪党感がすごい。一方で農家の知恵を生かして自給自足の生活を整えて生き延びる人々を守ろうとする、最強の農家・山田輝夫(安井順平)と二階堂桜(村川絵梨)。安井順平さんがユーモアを交えつつ軽妙に山田を演じてくれるのが好感度高い。単に正義感が強い善人、って感じじゃなく、前半では普通に俗な部分もありつつ、極限状態で本質的な善の部分が次第に出てくる感じの役作りが良かったです。ノアの方舟のノアのポジションなんでしょうね。

「柱が見えてしまうから昼間は外をあるけない」という状況や、ニュータイプであるところの「新人類」が現れてくるあたりは「太陽」を思い出しますし、二階堂望(浜田信也)の変貌については「散歩する侵略者」を思い出します。色々と「イキウメ」らしいエピソードが盛り込まれた物語だったなと思いました。「柱」の謎については、聖書の黙示録や身体の免疫反応など、いくつかの方向から謎を読み解こうとするセリフはあるものの、はっきりと「こう」という正解は劇中では提示されません。観客の解釈にまかせるということなのでしょうね。この余白部分についてはもっときっちり正解を知りたいと思う観客もいるだろうなとも思いますが、謎は謎のままにしてしまう今回の作りもきらいではないです(私も正直「受肉の存在」であるところの望と島忠についてはもうちょっと理由というか説明が欲しかった)(というかキリスト教や聖書に疎いのでそのへんの知識があればもうちょっと物語の解像度が上がるだろうなと思いました)。見たあとにあーだこーだと正解を探して見た人と話すのもまた楽しいんですよね。戯曲を売ってたら「なにか肝心なセリフを見落としていたのかも……?」と思いながら買って確認してしまうやつでもありました。知的好奇心や想像力の豊かな人や、考察好きな人ほど楽しめる舞台ではないかな、と思いました。

 

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今回のチラシ、すごい好きでした。このタイトル文字見たときにザワっとしたんですが、よくみるとドライフラワーで作ってあるんですね。デザイナーさんのかけた手間に思いを馳せました……

中井美穂 めくるめく演劇チラシの世界(第9回)イキウメ『獣の柱』 - ぴあ