宝塚花組「花より男子」@赤坂ACTシアター

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出典:サンケイリビング新聞社のエンタメサイト「舞台袖より愛をこめて」

 

神尾葉子原作「花より男子」といえば、松本潤井上真央のドラマ化で大ヒットしたベストセラー少女漫画ですね。花組二番手・柚香光ちゃんがちょっとバカな大金持ちの俺様キャラ道明寺司、金持ちだらけの私立高校に入学してしまったことで道明寺たちに目をつけられてしまう超庶民・牧野つくしを演じるのがヒロイン経験豊富な城妃美伶ちゃん。そしてドラマでは小栗旬が演じて原作でも大人気だったミステリアスな二番手キャラ・花沢類が聖乃あすかちゃん。うむ。若手メインとはいえビジュアル的に鉄壁の布陣ですね。

宝塚版では原作全体ではなく前半の1〜12巻のエピソードに絞って名場面を繋いでサクサクと展開。ダイジェスト版だけにやや唐突な展開と感じる部分もいくつかありましたが、原作知らなくても大丈夫なストーリー展開でしたし、ぎゅうぎゅうにエピソード詰め込んで飽きさせない内容だったので、野口幸作先生お手柄!と思いました。わかりやすい脚色だったと思います。

 
演出も大画面LED背景をうまく使っていて、暗転ナシでぐいぐいスピーディに転換していくのが物語の密度が高くてよかったです。F4が踊ってる後ろに花びらが舞うの笑っちゃうけど華やかでいいよね! 学園での生徒たちのナンバーなんかは今どきのブロードウェイ・ミュージカルから影響を受けた雰囲気の曲調と構成で、赤坂ACTの空間もがっちり埋まっていたと思いました。LED大画面の演出、普段はあんまり好きじゃないやつなんですが、今回は世界観にうまくハマっていたと思います。華やかでよかったですね。野口先生は宝塚従来の演出手法よりもBWミュージカルや他ジャンルのショーからのほうが強く影響を受けてるんだろうな、と思う若い感覚の演出で新鮮。昔ながらのクラシカルな宝塚が好きな方には物足りない部分もあるかもしれないなーとは思いますが、全体的に若さと勢いを感じる舞台で良かったと思います。今回この作品で、野口先生はショーだけでなく芝居の脚色演出についても実績を残せたなあという気がします。ショーがちょっとワンパターン、なんて言っててごめんね! 楽しかったよ野口先生! でも恥ずかしい台詞だけ並べたオープニングテーマ曲と、フラッグ背負ってF4が登場するとこは、野口先生の作風を良く知ってるヅカファンが見てもやっぱり恥ずかしくて笑っちゃいましたよ。ゆうなみくんに何回「不倫と言えども純愛だよ、純愛⭐️」って言わせてんねん〜どんだけ好きなんだよそのセリフ〜。

 

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出典:サンケイリビング新聞社のエンタメサイト「舞台袖より愛をこめて」

 

この作品の見どころはなんといっても柚香光ちゃん道明寺司。いやー、本当に「道明寺司そのもの!」という感じで最高でしたね! 宣伝写真出たときから「ああ〜道明寺だあ〜!」と思ってましたが、舞台は期待以上でした。くるくるの天パも面白くなっちゃう手前のギリギリのラインで大変カッコいいです。見た目はマンガよりドラマの松潤に寄せたかな、と思いましたが、いやもう正解。ほんと威張り散らかしてイヤなやつなんだけど、牧野に対してデレはじめてからの可愛らしさがもう……しかも舞台の展開だと割と早い段階でデレるから、ほんと好きにならずにはいられないやつですね。F4ってめちゃめちゃ女遊びしてそうなのに、あの牧野に対する純情さよ、可愛すぎか……! アホ可愛さな俺様キャラに加えて、男役11年のこのラブシーンの見せ方のうまさよ……牧野にキスするときの仕草とか手の形が、もうほんと「今!ここで!萌えろ!」みたいな気合を感じますよね。いや柚香さんはほんと「はいからさんが通る」の少尉といい、この「花より男子」の道明寺といい、完全になりきるタイプだな、憑依型なんだな、とちょっと思いました(休演日にゲスト出演した横浜アリーナの映像観ても道明寺が抜けてない感じでしたもんね)。この二次元男子キャラを演じさせたときの破壊力がすごいし、フィナーレで見せるダンスとオーラの瞬発力もすごい。大劇場でセンターに立つ日が楽しみですね。この公演でトップ就任に向けていい勢いがついだのではないでしょうか。

牧野つくしを演じた城妃美伶ちゃん。ああーかわいい! 会見の写真を見たときはちょっと庶民女子高生というにはメイクが濃い……と思いましたがまあ宝塚ですもんね、と思ったりしていたのですが、うん、舞台で遠くから見るとちょうどいいさじ加減。やはり舞台で見るように作られているのだな。堂々たるヒロインぶり、そしてキレのある道明寺へのハイキック、最高でした。もう少しこの類と司の間で揺れるあたりの心情が丁寧だといいなあーとは思いましたけど、そのへんは演者というより脚本の問題かな。展開がダイジェスト版すぎるからまあそのへんは仕方ないですね。笑顔もキュートでお歌も安定、何よりセンターに立ってまったくブレのない芯のある堂々とした存在感、ほんと素晴らしかったです。(しかしほんとこれだけの実力を持つ娘役さんがトップになれないの、宝塚とは恐ろしいところですよ……)

花沢類は聖乃あすかちゃん。いやー研6(!)のあすかちゃんがんばった。希波らいとくんが若すぎるから上級生にみえちゃうけど、あすかちゃんだってまだ新人公演学年なんだよね……。花沢類には野口先生のドリームを一心に集めたような演出がついてましたね、キザなポーズと恥ずかしいセリフが満載。さすがに道明寺柚香さんとは5年の学年差が時々垣間見える芝居で、自然に出た仕草というよりは「ああ、こういうポーズ、を演出で指定されてるんだな」と思ってしまう部分が多く、まだ「役」が身体のすみずみに染み渡ってない感じ、男役としてのテクニックやスキルがまだ少し若い印象をうけました。が、まあでもこれは仕方ない〜れいちゃんの道明寺がなりきりすぎなんじゃ〜。まあミステリアスで何を考えてるのかわかりづらい類、というのはそもそも演じるのも難しいですよね、あれは経験値の少ない若手には難しい。「高校生男子のキザり」というのもいままでの宝塚歌劇にはないテクニックが必要でしょうから、色々と大変だったのではないかと想像します。あの恥ずかしいセリフの数々を照れずにいうだけでも大変ですよね。でもあすかちゃんがんばってたよ!「まーきのっ」可愛かった。

美作役の優波慧さん、さすがの男役10年の安定感、マダムキラーに説得力。そして西門役の希波らいとくん、なんと研3! 若い! そしてアホみたいにスタイルがいい! 共演者殺しの鬼スタイル! 小顔で足が長くて「何等身なの?」とオペラグラスをガン見してしまいました。柚香さん優波さんあたりと同級生感出すだけでも大変だっただろうと思いますが、初々しくも堂々としていてとても良かったですね。なにせ笑顔がかわいい! あと、個人的にちょっとオペラ泥棒だったのが組長の高翔みず希さん、お父さん役で今回は地味役だね〜と思っていたら、クラブのシーンでダンサー(?)としてアルバイト出演していて、こってりと熟れた男役芸で踊っていて目を奪われました。この今回の若い布陣の中で昔ながらの男役芸を見せてくれてありがとうございます……(拝む)

インパクトがあったのは三条桜子役の音くり寿ちゃんでしょうかね。彼女が本性を現す場面のキレッキレの高笑いがすごかった。突然の舞台あらし! 幼少期にブスといじめられて整形をして(整形、という単語は舞台ではでてこなかったかな? この辺は少し配慮したのかしら。ちょっとうろ覚えですが)道明寺たちへの復讐を誓ったあたりのセリフの凄まじさ、とても良かったですね。花組は上級生娘役がごっそり抜けちゃうので、実力派娘役がまだまだいてくれるのはとても心強いです。

……というわけで全体としてはとても楽しみましたし、舞台と客席の空気もとてもいい作品だったな、と思いました。ただ少しだけひっかかったところに触れておきます。原作にある展開だから仕方なしとはいえ「道明寺の指示で牧野が集団レイプされそうになる場面」「クラブで薬を盛られ眠ってしまった牧野が、裸で男とベッドにいるところを写真に撮られてしまう場面」とかは、もうちょっと宝塚的にオブラートに包むなり脚色するなりしてほしかったなあ〜というのが正直なところです。なにせマンガ絵でなく生身の人間が演じるとなると生々しさが段違い。レイプ未遂については服も脱がされてませんが、下級生男役がつくしの胸元で服を破ろうとする仕草があってヒヤッとしました(せめて腕をつかむ程度にして……)。ベッドの写真についても肩がみえる程度のマイルドなものではありますが、漫画原作連載時の紙焼き写真と違って「一旦ネットに流出したら取り返しがつかない時代」の今は苦痛レベルが違いますものね。なんというか、「タカラヅカの良さ」というのはあくまで夢の世界であって、どんなに痛々しい展開やドラマであってもそれによって観客の心がリアルに傷つけられることはないのがいいところだと思うんですよ。それが、「現代の学園モノ」で女子高生が集団レイプされそうになったり、デートレイプドラッグ&デジタルタトゥー案件の標的にされたり、というのは、その痛みがもはや虚構の出来事ではすまないやつだと思うんです。軽い悪意によって女性性が酷く抉られると感じる場面、「タカラヅカ」の夢の世界で観たいものではありませんでした。普段は「清く正しく美しくのタカラヅカだから安心して子どもたちに見せられる」と思っているのですが、「女性が性犯罪にあう」エピソードはまだ小学生の子どもたちにはまだ見せたくないなあ……と。ほんの一瞬の場面とはいえ、ここだけは本当、「そこまで原作に忠実じゃなくていいんだ……! 野口先生、頼むよ……!」と思いました。

正直、このへんのエピソードについては原作漫画も小学生の娘に読ませるのもちょっとためらうものがあったんですよね。最近になって舞台の予習として改めて原作を読み返したのですが、いまの時代に読むとポリコレ的にこれは現代ではあやうい表現ではないか……と感じる箇所がいくつかありました。F4が陰湿ないじめの主導者だったり、道明寺がつくしをレイプさせる指示をだしたり、というあたりですね。連載当時に読んだときはそこまで違和感なかったので、時代の変化もあるのだとは思います。若い頃に読んだ時にそこまでひっかからなかったのは、若い頃は前述のような性被害って飛行機事故にあうくらいの運の悪さでおこるものかとぼんやり思ってたせいもあるかもしれません。大人になると「被害程度の差はあれ性被害は女性の多くが遭遇するもの」であることがわかってきますので、「虚構の中のアクシデント」ではなく「そのへんにいくらでも転がっていること」に変化しますからね。また性被害とはまた別の話ですが、現代は金持ちと庶民の格差も広がりすぎて、原作漫画の設定そのものがちょっといま現在とはズレが生じてる気がしました。現代の庶民の生活はもはや「親の見栄」だけで学費の高い私立高校には入れないとこまで来てると思うんですよ……途中までは多少無理をしてもセレブ高校の高い学費を払えていた牧野家は、現代ではもはや中流家庭とは言えないはずだ……とちょっと思ってしまいました。バブルの頃なら笑える設定だったかとは思うのですが、金持ちが庶民をいじめる設定は、もはや無自覚に笑えるものではなくなって来てる気が少ししました。桜子の整形エピソードとかも容姿で人を笑う時代性が残っている時代の作品だなあと感じましたしね。どうしても少女漫画は女性の感じる生きづらさを丁寧にすくい取るジャンルだけに、時代性を繊細に反映しがちなのだと思います。いまの時代に合わないからといって「この作品はだめ」という気はないです。私も当時は面白く読みましたし、花男が人気の名作だったことは確かなわけで。ただ今のこの「令和の時代」に舞台化するのであれば、そのへんは丁寧に検証してアップデートする必要があっただろうな、と思いました。若い宝塚ファンは以前から宝塚の一部のベテラン演出家のデリカシーのないセリフの数々に苦言を呈してきていますし、若い野口先生にはそのへんもうちょっと、気にして欲しいなー、と思いました。