ブロードウェイ・ミュージカル「ピピン」@東急シアターオーブ

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出典:ブロードウェイミュージカル「ピピン」より- ステージナタリー

 

いやー良かった!良かったです!万人ウケするかどうかは全然わかんないのですが、「これ!私の!好きなやつ!」と大声で愛を叫びたくなる舞台でした。「ピピン」は2013年のトニー賞授賞式のパフォーマンスを観て興味を持ったものの、2015年の来日公演は産後2ヶ月だったため泣く泣く観に行くのを諦めていました。が、「あの時這ってでも行けばよかった……!」と思うくらいに良かったです。観終えた瞬間に「えっと、いつリピートすれば……」と思ったんですが東京公演は私が観た日の翌日が千秋楽でした、無念! 金と時間に余裕があれば遠征も辞さないやつでした。(でもいちおうその後の大阪名古屋静岡のスケジュール見ちゃったよね)(いや再演!再演待機!)はー最高でした!

宣伝ビジュアルからしてもサーカスの話なのかな、と思いきや、「青年ピピンの自分探しの物語が、サーカス小屋で上演されている」という設定なんですね。「これ進研ゼミでみたやつ!」じゃない、「小劇場で死ぬほどみたやつ!」と思いましたよね。いやまあ手垢がついた設定とストーリーといってしまえばそれまでなんだけど、普遍的でもあるわけで、久しぶりに見たので懐かしくてちょっとうれしくなってしまいました。蜷川幸雄さんや串田和美さんがよくこういう入れ子構造のスタイルで古典作品上演してましたよね。「なにかやりがいのある特別なこと」を探す青年ピピンの物語が、サーカス小屋のひとりの団員の姿とリンクしていく、といった展開。衣装も装置も素敵だし、フォッシースタイルのダンスもいちいち決まっていてかっこよかったです。曲調も聴きやすく馴染みがあって、この作風しってる……絶対知ってる作品の人だ……と思ってクレジット見たら、作詞作曲が「Wicked」の人(スティーヴン・シュワルツ)でした。そうだ、一幕ラストの「Morning Glow」のコーラスが思いっきり「Defying Gravity」っぽい! wickedお好きな方はサントラだけでも聴いてってください。大好き!

いやーもうどこから感想述べたらいいんでしょうね。アクロバティックなサーカス的パフォーマンスがあちこちで展開していて情報量の多い演出の舞台です。本当に目が足りなくて何度でも観られるやつだなあと思いました。サーカス要員的なアンサンブルの方だけじゃなく、メインキャストも容赦なく命綱なしで空中ブランコに乗りまくり。6列目で観てたので「イヤぁァァ!命綱が!ない!」とハラハラしながら観ていました。もう何年も芝居観てると多少のことでは驚かないんですけど、中尾ミエさんの「No Time at All」のパフォーマンスには正直度肝を抜かれました(度肝を抜く、という言葉はこういう時にこそ使うんだ、とすら思いました)。衣装をばっと脱ぎ捨ててレオタード姿になった時点で「えっあの御歳ですごいスタイル!美脚!」とびっくりしたのですが、そのまま空中ブランコで男性と絡みながら上昇、いくつか技を決めたからもう大喝采。さらに命綱なしで男性に腰だけ支えられ水平にピンとなった体型を維持する、ものすごい体幹のポーズにびっくりしましたし、その体勢でソロ歌いだした時にはさすがにびっくりして変な声が漏れましたよね。さらに逆さ吊りの体勢でも歌ってましたし。幕間に思わず年齢調べてしまったのですが、73歳!ヒェッ。おばあさまの役だけWキャストだった理由がわかった……これはいつ何があってもおかしくはない……と思ったのですが、もうひとりのおばあさま・前田美波里さんも70歳。ワァオ。前田美波里さん版を見た方に聞いても同じことをやっていたと聞いて、はあーとため息をつきました。あんなん若い女優さんがやっても驚くわ、と思うような空中パフォーマンスを命綱ナシで成功させていたので、この曲のあとは完全に拍手でショーストップしていましたね。城田さんピピンが誇らしげに「ぼくのおばあちゃま!」と舞台袖を指すのでまた一段と拍手が大きくなっていました。いやアレは本当に驚きましたね……。(違法アップロード動画っぽいので直接リンク貼りませんが、No time at allでYouTube検索するとBW版の動画が観られます……動画でみると高さが伝わりづらいと思うんですがまあびっくりしましたよ)

すごかったといえばリーディング・プレイヤーのクリスタル・ケイさんもすごかったですね。歌はそりゃ上手いだろうと心配してなかったのですが、芝居のほうはまったく未知数だったのでどうなることかと正直不安半分だったのです。が、素晴らしかった。驚きました。映像でみるBWキャストにも引けを取らない仕上がりだったのではないでしょうか。というか、ほぼ完璧と言えるレベルでBW版をトレースできているのでは、と思いました。ボディラインすらもBWのキャストとほぼ同様に仕上げてきてますし、フォッシースタイルのあのいかにも難しそうなダンスも完璧でした。ひとつひとつのポージングも絵になっていて素晴らしかった。しかも彼女も命綱なしで何度か空中ブランコに乗ってかなり危なそうなことしてるんですよね。いやーもうほんと感服です。役でいえば狂言回し的なポジションで、「キャバレー」のMCみたいな、あるいは「エリザベート」のルキーニ、「エビータ」のチェのような役ですよ。本当に難役だと思うんですけど、ほんとBW版キャストの映像と比べてもまったく遜色ないように思いました。プロフィール見る限りほとんど舞台経験なさそうなんですけど、よくこの役引き受けたな!? と思いましたね……。私が観た回ではWith Youのあとに城田さんがなかなか衣装に袖が通せない時間があり、そこを埋めるアドリブは城田さんまかせだったので、まださすがにこういう場数はこなせてない感じだなーとは正直思ったんですけど、でもまあそんなのは些細なことです。女優として他の芝居の引き出しがあるかどうかはわからないのですが、少なくともこの作品、pipinのリーディング・プレイヤーとしては、ほぼパーフェクトだった、と言って過言ではないのではないでしょうか。正直日本でほかにこの役をできる女優さんがあんまり思いつかないくらいですよ。

ピピン役の城田優さんもハマり役でした! エリザベートのトート以来の当たり役と言って良いのではないでしょうか。さすがにこのポジションの俳優さんには危険なことさせないだろう、お歌担当ポジションだろうと思ったのですが、棒よじのぼったり二階の高さを命綱なしで歩いたり、火の真上で空中ブランコに乗ったりと、城田さんもかなり危険なこと色々やってました。むしろピピンやリーディング・プレーヤーがWキャストでないことが不思議なレベルです。いやもうほんとハラハラする……。純朴な青年が成長していく過程を描くので、まあなんというか「童貞が女性を知って性に目覚めちゃう」みたいな場面もあるんですけれど。半裸の城田優がきわどい衣装の女性に絡まれるだけでなく、檻の中でほんの数秒ですけど男性に後ろから掘られながら騎乗位でまたがった女性と3P……みたいな場面もあってですね。「えっちょっとまって聞いてない、こんな童貞くさくてカワイイ城田優が性に目覚めてニヤけた顔しちゃって、しかも3Pまでする場面があるなんて聞いてない、こんなえっちなシーンあるんだったら誰か教えてよ!」みたいな気持ちで動揺してしまったんですけれど。いや舞台ファン城田ファンのみなさんお上品ですね、SNSであんまりここの演出に触れないんですね……人間ができていらっしゃる……私はあまりの衝撃で「ピャー!?」となってこのあと数秒話が頭に入らなくなったことを正直にご報告しますよ……。(この場面もオフィシャルじゃないのでリンク貼りませんが「pipin with you」で検索すれば動画が出てくるので気になる方はそちらで……。「これを……城田優が……」と思いながら観ていただければと思います)しかし、子役の子も出てる舞台でこの猥雑極まりない場面、親御さんとしてはいたたまれなくなるやつでは……とつい親視点でちょっと心配になりましたよね。檻の上にいるリーディング・プレイヤーも過激なボンデージスタイルでムチしばきながら腰くねらせてましたから……(えっちでたいへんカッコよかったです)。あの場面、R-18まではいかないまでも、PG-12くらいのレーティングは必要な絵ヅラだったと思いました。

父王役の今井清隆さん(なんだか平幹二朗さん風なビジュアル……)も、継母役の霧矢大夢さん(きりやん相変わらずお美しい!スタイルいい!)も、キャサリン役の宮澤エマさん(コミカルな表情もかわいかった!)も、脳筋な兄ルイス役の岡田亮輔さん(Wickedのフィエロ役の人かあ〜納得。ピピンのアンダーだったりするのかな)も、メインキャストみんな素晴らしかったです。いいカンパニーだなあと思いました。

自分が何者なのかを探すピピンは、戦場へ出て戦争の虚しさを知り、人生を楽しめという祖母の話を聞き、女性と出会って性に目覚め、父の専制政治に反対して父を殺し、父の代わりに王となったもののいつのまにか父と同じ道を歩んでしまい、すべてを投げうって放浪した先で未亡人キャサリンとその息子テオに出会って家族となるが、またそれを捨てて……といった感じで物語は展開していきます。「やりがいのある特別なこと」を探すピピンと、それを演じるサーカスの青年の物語が終盤にリンクしていき、「誰も見たことのないエンディング」のために火の中に飛び込め、といわれたピピンはようやく自分にとっての大切なものがキャサリンだったことに気づき、火に飛び込むのを拒否してキャサリンとの生活(=農業)を選びます。サーカス団の主演の青年が、ショースターとして派手なパフォーマンスをして喝采を浴びるよりも、女の子と当たり前の日常を生きることを選んだ、ということと二重構造になっている場面ですね。まあこの辺の展開も「ああ〜自分探しの放浪の果てに最終的に土いじりに帰結するとか、キャンディードでみたやつ〜」と思ったりしました。ラスト、ピピンが去ったあとに少年テオが今度は主人公となって一座のメインになったようで、空中ブランコに乗ったテオにスポットが当たって終わるんですが、ここちょっとどう解釈していいのかまだ保留中なんですよね。演出上は希望の光的な存在としてテオにスポットがあたってたような気がするんですけれど、「今度はピピンのかわりにテオを生贄にしてこの一座はまた上演を続けるのか」という暗澹たる気持ちになるので……。ちょっと後味悪い感じというか、怖い終わり方のような気がしたんですけれど。ただ、あからさまに嫌な気分にさせる演出でもなかったような気がして、これハッピーエンドなの、バッドエンドなの、どっち? と思ったのが正直なところです。
 このラストのくだりでリーディングプレーヤーが火に飛び込まないピピンに怒って芝居を止め、舞台装置を解体してしまう(背景幕をひき上げて舞台裏を見せてしまう)の、わーい屋台崩しだ!って嬉しくなってしまいましたよね。蜷川さんもよくシアターコクーンの搬入口見せてくれたなあ……とか、天野天街さんも舞台から装置無くす演出してたなあ、とか、どうしても「◯◯でみたやつ!」となりがちなやつでした。まあピピンももともとは1972年初演の作品ですから、こっちのほうが先にやってたんでしょうけれどね。このへんの二重構造の演出、小劇場で散々履修してきた芝居好きにはさほど難しくない展開だと思うのですが、「キンキーブーツ」なんかみたいにわかりやすいストーリーと大団円でにぎやかに感じで終わる物語ではないので、芝居慣れしてない観客にはちょっぴり戸惑うフィナーレだったのではないかな、と思いました。ただそれでも終盤までマジックやアクロバットなどの目を引く演出が尽きませんので、ラストで多少「?」となったとしても、「すごいものを見た」という満足感で劇場を出られると思うのですけれどね。ものすごくショーアップされた演出なので、テーマ性を求めないライトユーザーにも見ごたえがあるというか。まあそういう意味では初心者さんにもすすめやすい部分はありそうです。

それにしても今回の東京公演、開幕まではまあまあチケット余っていたようですが、上演が進むにつれてぐいぐい席が埋まって、最終週は立ち見が出る勢いだったようで。日に日に熱気を帯びてくる様子に「キンキーブーツ」の初演時のことを思い出しました。幕が開いて口コミを聞いたお客さんがどんどん来る、リピーターも増える、という流れ、とても健全で素敵なことだなと思います。スタッフやキャストにもいい手応えがあるんじゃないかと。ピピンも今回の評判の良さで、きっと再演が検討されるんじゃないかなと思います、そうであって欲しい。それと、キンキーブーツの小池徹平三浦春馬ピピンクリスタル・ケイ城田優、と映像や音楽など他ジャンルでも活躍する人々が、単なる客寄せパンダではなく、ものすごい努力と稽古を重ねて舞台作品にその身を捧げてくれるということ、そしてミュージカルファン以外の他ジャンルのお客さんを劇場に呼んでくれること、ありがたいことだなあ、とそんなことをふと思いました。本当に、素晴らしかったです!