ブロードウェイ・ミュージカル「王様と私」@東急シアターオーブ

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やーまさかこのプロダクションを生で観る日が来るとは! トニー賞授賞式のパフォーマンスを眺めながら、「これ観るためにはブロードウェイまで行かなきゃいけないんだな〜」と指をくわえておりましたが、まさか日本に来てくれるとは。ケリー・オハラと渡辺謙の主演コンビ、それだけでなくトニー賞助演女優賞受賞の王女役、ルーシー・アン・マイルズ、ウエストエンド公演のクララホム役・大沢たかおまでを生で観られるとは! いやもう完璧、完璧すぎる布陣ではありませんか(私にとって)。

 

前売り券の先行発売前も観劇仲間たちと先行発売スケジュールをにらみながら「いや渡辺謙渡辺謙いうけどさ、週に一度はアンダーが出る回もあるんじゃないの?このスケジュールをシングルキャストで通さないでしょう」「でも思いっきりケリー・オハラと渡辺謙で宣伝してるのに、代役だったら暴動が起きますよ」「まあいうても大沢たかおが王様役やるんだったらそれはそれで貴重だよね、そっちも観たい」など喧々諤々、千秋楽はさすがにメインキャストが出るだろうと千秋楽を押さえつつも、暑い東京でキャストが体調不良など起こしたら大変だからと念のために公演期間前半のチケットも押さえるなど、万全の体勢で挑みました(チケット代高すぎてお財布が瀕死に!)。公演期間最初の週末にチケットをとっていたおかげで運良くルーシー・アン・マイルズの特別出演日に観劇することができて、最高の観劇となりました。

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まあ上記のエントリの通り、ウェストエンド版を映画館ですでに観ていたので、ストーリーそのものの感想としては大きく変わるところはないのですが。それにしてもまあ!ケリー・オハラの!歌のうまさよ!いや上手い下手とかじゃないな、なんという表現力の豊かさ、強弱緩急の巧みさ……そして歌詞の情景が目の前に浮かぶような表情と歌い方……パーティの壁の花だった時に初めて踊っていただけますかと言われたこと、かつては私も恋をしたと初恋に浮かれる気持ちなど、その時の情景やふわふわと舞い上がるような彼女の気持ちが伝わってくるような、いままさに目の前で観ているような気持ちになるあの歌。優れた俳優はセリフで観客にその光景を見せることができますが、ケリー・オハラの歌声もまさにそれだったなあ、と。あの美しい歌声を生で浴びることができて、本当に至福の時間でした。うっとり。

今回2階バルコニーの先頭のあたりの席で観ていたのですが、そのあたりの席はどうやら「Pazzlement」の曲で視線を左右に向ける渡辺謙さんの「視線固定ポイント」になっていたらしく、オペラグラス越しに目があったような気持ちになれました。下手席側に先に視線がいったときに「あっこの曲の雰囲気だと次のフレーズでこっち(上手側)見るやつだ」と思ったら、本当にそうだったのでしめしめと思いましたね。そういえば渡辺謙さん、ブロードウェイではスキンヘッドでしたが、今回は短髪で髪の毛ありました。大沢たかおさんもウェストエンドの映像ではツーブロックのちょっと特殊な感じの髪型でしたが、今回は少し伸ばして後ろで縛っていて、ちょっとカッコよくなっていましたね。まあ今回のほうが確かに日本人ウケはしそうです。……というか、「大沢たかお出てるの知らなかった」とか「大沢たかおっぽい人出てた?」みたいな会話が休憩中や終演後にあちこちから聞こえてきてたので、もう少し宣伝してあげて!と思いました。たしかにメインキャストは謙さんだけど、ウェストエンドのミュージカルに日本人俳優主要な役で出てくるなんてすごいことじゃないですか……渡辺謙大沢たかおってめっちゃ豪華じゃないですか……

Shall we dance?」のところで、王様がアンナをぐっと抱き寄せて「Come……」というところは、最高にセクシーな見どころで今回も堪能したんですが。ふたりがひとしきり踊った後、王様が彼女に触れようと手を伸ばして、でもアンナが「ごめんなさい」みたいな感じで彼女がそれを避けて、王様も「あっ……そっかダメか……」みたいな感じでそれ以上詰め寄らないところ、演出上はさらりと流されてるちょっとした仕草だったんだけど、あの瞬間にこそ、ものすごい男女の機微と王様の人間としてのドラマがあったんじゃなかろうか、と思いました。あれは、女性はみなこうすれば喜ぶ、と思ってた王様が、タプティムにはあんなに怒っていたのに、女性の拒絶に対して怒ることなく素直に受け入れた瞬間だったわけで、それはアンナを自分より下の存在である「女」としてではなく対等な立場であると初めて認めた瞬間だったわけで……そして、「その先」に進むことなく、王様が彼女に対して抱いた気持ち(あるいは欲望)を無かったことにして、大人の対応で、ふたりで笑顔を交わして、もう一度踊り出すわけでさ……あそこ本当にほんの数秒なんだけどドラマティックな瞬間だなああああと思って座席で身悶えしそうになるのをぐっとこらえておりました。

王宮ものでなんとなくロマンティックな恋愛モノを想像してしまいそうなビジュアルとタイトルですが、「男と女」「西洋と東洋」といった対立する概念を描くミュージカルという意味ではある意味ヘドウィグあたりとも共通するところがあるなあとちょっと思ったりしました。あの時代あの文化あの立場だから仕方ないとはいえ、「女は男を喜ばせるための生き物だ」みたいな考え方されると、いくら渡辺謙さんが演じててもムッとしますわね。そしてこの時代からやはり男尊女卑の文化というのはいくらも変わっていないのだなあとも思ったり。古色蒼然とした作品とはいえ、やはり色々と考えさせられるものがありました。

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