宝塚雪組「壬生義士伝/Music Revolution!」

壬生義士伝

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出典:宝塚歌劇公式ホームページ

 
映画化もされた浅田次郎原作の小説を舞台化。家族を養うために南部藩を脱藩し新選組に入隊した武士・吉村貫一郎を描いた物語。最初に聞いたときは「また幕末かよ!」と思いましたし、演出が石田昌也先生だから「誠の群像」とまるかぶりじゃないか!とも思ったもので、正直テンション下がり気味だったんですけれど。蓋を開けてみると「ああー石田先生ありがとうございます……!!」の気持ちと「これだから!!ダーイシは!!もう!!」の気持ちが交互に襲ってきて激しく拮抗するというなんとも評価しづらい作品でした。石田先生は生徒への愛があってキャラの当て書きの意味では完璧!なんですけど、それにしても脚色が雑! 脚本のいまのセリフに赤入れしたい! と感じる部分が多々ありました。まあでも最終的にはトップスター望海風斗さんのねじふせ力と組子たちの気合で「ありがとうございます」の気持ちが勝ったかなあ。新選組シーンはとにかくかっこいいが勝ちますし、泣き所が多い芝居だったので、なんだかんだリピートできちゃいましたしね。

物語は明治初頭の鹿鳴館で松本良順や斎藤一と大野千秋・みつ夫妻と出会い、幕末を生きた新撰組隊士・吉村貫一郎の生き様を振り返るといった構成。しかしこの鹿鳴館シーンのセリフや演出が雑すぎて最初見た時は正直だいぶイライラしましたね。二回目はもはやここは集中力と目を休めるところと割り切ることで乗り切れましたが。「なぜかいなくなる斎藤と池波(そら本編で和装してるから早替りできないのはわかるけどさ)」「なぜか銀橋をお散歩(君たち鹿鳴館のどこを歩いてるの???)」「吉村の人生をざっくりまとめるセリフがいちいち雑」とか言いたいことが山盛りでした。せっかく1時間半かけて吉村の生き様を描いてるんだからさ、「地獄で閻魔様に許してもらえるのは吉村さんだけかなあ」とか「父は新選組の英雄だったのでしょうか」「英雄ではない、だが良心だった」とか「母に想われて父は案外幸せだったのかもしれません」みたいな雑にまとめるセリフは! いらんのじゃ……! この鹿鳴館シーン本当いらない……という気持ちでいっぱいでしたが、でもこれがないと斎藤&池波の警官制服姿がなくなっちゃうんですよね。この洋装だけは極上の目の保養だったのでもはやそこだけ見ておりました。ニヒルに口元だけをゆがめて笑う朝美絢の美しさよ……そしてちょっとヤンチャ感のある縣千の小芝居よ……好き……!

南部でのエピソードは冒頭のプロポーズシーン以外はもはや貧乏と不幸しか詰まってなくて泣けます。亡くなった人の死体すら貴重な食料として食べて生き延びる苦しさがセリフの端々に出てきて、宝塚の貧乏エピソードの中でも群を抜いて殺伐としていたような(祖母が餓死した理由に一緒に暮らしてる貫一郎が気づいてないわけないだろうよ……というツッコミも入れたいですがまあこれは観客にわからせるためのセリフだから仕方ない……)。脱藩後も村八分となって親戚の家で仕送りの金すら奪われ肩身の狭い様子が描かれていてつらいです。ここのみつ(彩みちる)の泣き方が実に上手いのと、しづの「こらえてね……こらえてね……」のセリフがとにかく泣けました。「こらえてね……」は自分の中で何かを我慢するときに言い聞かせる決め台詞として今後も使っていこうと思います。

南部藩といえばこの作品の影のMVP、もう雪組ファンみんな言ってるけど佐助役の透真かずきさんだと思うんですよね。大野次郎衛門(彩風咲奈)の下男ポジションなんだけど、次郎衛門が立場上顔に出せない本心を全部横のリアクションで観客に理解させてくれるじゃないですか。あの細やかな芝居素晴らしかった。貫一郎に切腹を申し付ける場面のあの表情、次郎衛門がどんなに断腸の思いでそれを言ってるのか、佐助の顔で伝わるものね! そしてあの手ぬぐいで着物についた雪を払う仕草とか、おにぎり握るために手を洗った後の水を切る仕草とか、「雪が……水が……見えた……?(目ごしごし)」ってなるやつでしたよ。次郎衛門の母親、梨花ますみさんもそうだけど、このベテラン勢の芝居がとてもよかったなあと思いました。

そしてそして。もう本当に目の保養であった新撰組ターン! 隊士がずらりと並ぶ中、銀橋に出てくる土方歳三(彩凪翔)・斎藤一(朝美絢)・沖田総司(永久輝せあ)の美しさよ……。この三人の配役だけで通えるやつでしたね。まず土方凪さまのあの「理想の上司」感、そして何気ない場面でしれっとダダ漏れになる色気! 宴の場面やお見合いの場面の座り方、あれ和服の所作に慣れてないとあんな風に座れませんよ。リラックスした雰囲気と所作から醸し出す和服の色気……見せ場でもなんでもないのにオペラが凪様にロックオンですよね……。そして抜いた刀を鞘に納めるときのあの「くるっ」とまわす仕草ね! 刀の扱いに慣れてないとあんな風にかっこよくできないと思うんですが、この辺本当にいままで散々新撰組やってきた雪組ならではの見どころだっただなあと思いました。「和物の雪組」の真骨頂は土方凪様にあった!と思いましたね……。

さらに! 斎藤一沖田総司のコンビ感! いやもう顔が良すぎ……そしてふたりしてキャラが立ちすぎ……。「ナイフみたいにとがっては触るもの皆傷つけた」みたいな、ニヒルで厭世的なふりをしつつ最も生きることに貪欲な思春期ど真ん中の斎藤……最高か……。そしてそんな斎藤を「はじめくん」と呼んでいつもニコニコしてるけど、さらっと笑顔で「斬っちゃいましょうか」と物騒なことを言う沖田……お互いには隙も弱みも見せちゃうふたりの関係性……なんというかもう、このふたりの薄い本をください、言い値で買いましょう、みたいな気持ちになりましたよ……。あさひと萌えが私の中で爆誕した瞬間でした……(なのに組替え!つらい!)。なんとなく沖田って新選組の末っ子だと思いこんでいたんですけど、後で斎藤のほうが沖田の2歳下、とwikipediaで気づいて変な声が出そうになりました。いやー斎藤のほうが年下なのに「総司」呼びなの? って新たな扉が開きそうになりましたね。いやしかし今回の公演の朝美絢さん、本当にかっこよかったです。もちろん前前から顔が美しいのなんて知ってましたけど、ここ最近のキレッキレの美貌はなんなんでしょうね。メイクのせいなのか表情のせいなのか。FNS歌謡祭出演のほんの数秒のカットでめちゃくちゃバズってましたもんね。もはや至宝……。

まあなんやかや書いてきましたけど、最終的にすべてを持っていくのは我らがトップさん、望海風斗さんですよ。今回は南部弁で訛ってて、家族の為とはいえ守銭奴的な役回り、どうなることかと思ったけどまあやっぱりかっこいいですよねええ。先行画像が出た時にあのはらりと垂れた前髪とシケの美しさに「はーん!」となりましたけど。舞台でもあの所帯やつれした感じがむしろ色気があって最高でした。メインテーマ曲である「岩を割って咲く桜」、名曲ですね。あのサビの「風に乗って届け」のとこの伸びやかな歌声、メロディとあいまってほんと耳に残って離れないやつです。しかし、トップさんが床に這いつくばって投げられた銭をかき集めるという場面もありましたが、今の雪組的には通常営業すぎて何の話題にもなりませんでしたね……(花組明日海りおさんが奴隷役で床に四つん這いになったときはあんなにザワザワしたのに……)。死に際にも血まみれのズタボロの姿で床に這いながら、銭を数えて「これは嘉一郎の袴の分……これはみつの晴れ着……これは抱くこともできなかった童の肌着……」ってやるところ、中盤の南部での描写とも相まってもはや涙無しには見られないやつでした。地に這う芝居がこれ以上似合う宝塚のトップさんがほかにいるでしょうかねえ。

彩風咲奈さんの次郎右衛門、主人公の幼馴染役で今回も望海さんを支えるポジションでしたね。二枚目的な役柄ではないものの、難しい役を丁寧に演じられていたと思います。それにしても秋田征伐でラストに雑に撃たれたときは激おこでしたよ。「ちょっと!咲ちゃんがまだ気持ちよく歌ってる途中でしょうがーー!」って思いましたよね。死亡フラグ立ってたかもしれないけどこんな雑に殺してセリにボッシュートするのやめて……ひどい……石田先生よぉ……。

 

 ▼Music Revolution

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出典:宝塚歌劇公式ホームページ


中村B先生のショーは毎度ながら目が足りない!テンポが速い!目まぐるしい!という感じですが、いやー楽しかったです!
ぐっずぐずに泣いた「壬生義士伝」の涙を一瞬で吹き飛ばすかのような、伸びやかな望海さんの歌声で始まるオープニング。ギラギラの電飾の中を黒のロックな衣装でひとりひとり登場。トップ、二番手&三番手、路線男役、という順で登場するオープニングって意外になかったような。おかげでどこ見ていいのかわからなくて視線が泳ぎまくります。いや本気でオペラの焦点をどこに合わせたらいいのかわからなくなって冒頭からいきなりパニックになったのを書きながら思い出しました。銀橋歌い継ぎで彩凪さんが彩風さんの腕をすっと撫でていくの、あれは何度見ても萌えます。

プロローグから一転、急にさわやかな曲調になって、凪七瑠海さんメインの場面。砂をつかんでるから浜辺??のイメージなのかな。若い恋人たちがあちこちでそれぞれに愛を語らってるような雰囲気の場面でした。朝月希和ちゃんがお相手役として登場。はからずもひらめちゃんへの餞別みたいな意味合いの場面になってしまいましたね……いつのまにか別格娘役ポジションを確固たるものにしたひらめちゃん、花組に戻ってもがんばってくださいね……。

そして来ました「革命と独立」! 望海さん彩凪さんたちのガウチョの群舞もかっこいいんだけど、中盤で幕を振り落した瞬間ずらりとセリ上に並ぶ赤い軍服の男役たちの威圧感ときたらね! ここの演出本当に大好きで舞台見てるとき変な声が出そうだったんですけど、あとで円盤の映像やLVの映像見てもあんまりそのインパクトが伝わらないんですよね。こういう演出は舞台で見てなんぼなんじゃ……。しかもここも朝美&永久輝がセンターにいるから顔面偏差値が高い高い。スペイン兵たちが回転する盆のセリとともにゆっくり降りてくるあの演出、本当に「中村B先生……ありがとう大好き……!」と思いました。やーここ本当に今回のショーでダントツで大好きな場面です。セリから降りたスペイン兵チームが舞台前方に出てきてしゃがんだポーズで客席をじっと見つめる中、後ろでガウチョチームが踊ってるとこも好きでした。好きなんだけどほんと「あさひとも見たい……望凪も見たい……」の気持ちでまたしてもオペラが迷子ですよ! もう雪組はほんとオペラが忙しいから勘弁してください! 疲れる! 

そしてこの次にまたたたみかけるようにトランペットが鳴り響いての「JAZZ」の場面ですよ。はい来ました、彩風さん率いる雪組のダンサーたちが踊って踊って踊りまくるブライアント先生振付のシーン! ハイパーブライアントタイム! 稽古場でもこの場面が終わるとみんなで息を切らしてたという話は聞いてましたが、ほんとどこまでこのテンポで踊り続けるのかと思うような踊りまくりシーン。途中で咲ちゃんの歌もありますが「これだけ踊ってよく歌えるな???」と思いますね。ショーで二番手が鍛えられるというのはこういうことなんだな。この場面はハットと速い動きでなかなか下級生の顔が認識できないんですけど、綾凰華ちゃんにサックス、縣千くんにトランペットを持たせてくれたので無事縣くんを目で追うことができました。いやーほんと楽しそうに踊るね縣くん!身の詰まった身体とあふれ出る躍動感!好き!

中詰は「ア゛ーーーイ!」の掛け声とともにオケピから銀橋に登場する朝美さんからスタート。飛び散る汗がダイヤモンドの輝きですよ。好き。ここはクラシック曲のロック系アレンジで、聞きなれたメロディの曲が続きます。お衣裳の色合いが特徴的なカラフルさ加減で最初見た時「???」ってなったんですけど、なるほどデザインはクラシカルなフリル系で色味はラテン系衣裳のイメージなんですね。客席降りもあって楽しい場面でした。銀橋で望海・真彩・彩風・彩凪・朝美・永久輝・凪七がわっちゃわちゃと楽しげに絡むのを見るのも楽しかったです。一方、初見の時にいたのが一階下手後方ブロックだったのですが、やってきたのが叶ゆうりさん。まあびっくりするほど濃厚に通路際のお客さんにファンサしていましたね。ハイタッチとかそんな軽いものではなく、じっと目を見て手をにぎったり投げキッスしたりとひとりひとりへに対する滞在時間が長い。私は通路際ではなくちょっと奥まった席にいたんですが、手をあげて振ったらしっかり目をあわせてウインク&投げキッスからの指さし、という濃厚なファンサをいただいてしまいましてですね、「なるほどこれが『叶ゆうりの女にされる席』……!」と思いました。

そして銀橋にひとり佇む後姿の永久輝せあちゃん……からの「カノン」ですよ。組替え発表あってからこの場面みると泣いちゃいますね。この場面に出てくるのも綾凰華ちゃんや縣千くんといった若手ダンサーたちで、なんというかもう「青春!」という感じなんですよ。若手たちの刹那的なキラキラ感と躍動感が溢れる素敵な場面でした。全員でピルエットで回るシーンすごかったですね、拍手するしかなかったですよね……(もはや孫の運動会を見守るおばあちゃんの気持ち)

真っ白なヅカヅカしいお衣裳で歌う「Music is my Life」、もはや「サヨナラ公演かよ!」みたいな歌詞と演出でしたね。望海さんをみんなで囲んでひとりひとりに笑顔を交わしながら歌ったり、同期の凪七さん、沙月愛奈さんと三人でじゃれあったり。同じ中村B先生演出の「Dramatic "S"!」の「絆」の場面を思い出してしまいました。望海さんが指揮者のように組子たちを指揮して息を合わせる組子たちに拍手が沸いた日もありました。組子たちが望海さんを中心にまとまって同じ方向を見ているのが舞台からも伝わってくる、そんな素敵な場面でした。

フィナーレ冒頭は綾凰華ちゃん銀橋ソロのサッチャナーイ! いやーあやなちゃんもついに銀橋でソロ歌うようになったんですねー。雪にきたときはまだロケットのセンターだったのに。ロケット(ラインダンス)の今回のセンターは潤花ちゃん。かわいい! キュート! 次回別箱の「ハリウッド・ゴシップ」では咲ちゃんの相手役ですが、これは次期娘トップへの布石でしょうかね。がんばってほしいところであります。真彩希帆ちゃんが大人びた衣裳とボブヘアーで歌うソロも素敵でした。ほんとお歌うまーい。

そして! 男役群舞が! 黒燕尾服!!!! 待ってましたあああああァァァァ。やー望海さんトップになってから最初の全ツくらいでしか黒燕尾見てなかったから、大劇場ではたぶん初めてですよね黒燕尾。しかも定番の大階段逆三画フォーメーション……最高か……最高だよ……。望海さんが髪の毛なでつけからのウインク、とか、唇に指を置いてためにためてからの射抜くような投げキッス、とか、もう宝塚の男役望海風斗ここにありという感じで最高でございましたね。何度でもおかわりしたい黒燕尾でございました。好き(もういい)。
さて黒燕尾の後もさらにこれでもかと畳み掛けてくるのが中村B先生スタイルですよ。ノリノリのラテンのリズムだけど燕尾で決めた男役たちが銀橋を渡りながら歌い継いでいくの、ここもまた目が足りなくてですねー!(何度目だ) 銀橋センターで背中合わせのあさひとが笑顔を交わすのが良かった……。そして真っ赤な燕尾を着こなして出てくる咲ちゃんの脚の長さよ……ずらっと銀橋に並んだ男役たちが客席に背中を向けて手だけで客席をあおるやつ、あの振付考えた人にお中元を贈りたい、と思いました。もはやたたみかけられすぎて息も絶え絶えですよ。おかげで正直このあとのデュエットダンスの記憶が少々あいまいです。デュエットダンスは割としっとり系ナンバーでしたね。このショーでほぼ唯一のしっとりした場面といっても過言ではなかったような。美しかったです。パレードも階段下り順はとくに大きな変動はなかったような気がします。

正直、ショーの場面構成としてはそんなに目新しいところはなかったような気がしますが、しかし雪組の組子を路線の生徒もそうでない生徒もバランスよくみせてくれたという点で、本当に中村B先生は雪組とそのファンの気持ちをよくわかっていらっしゃる……と感じる内容でした。組ファンとしては目が足りない足りない。全編にわたってオペラが迷子でした。そして円盤のスターアングルを見てもなお、映り込む生徒の多さに視線が迷子です。ひどい(褒め言葉)。
雪組の層の厚さと一体感、充実期真っ只中なんだなあ!というのを感じるショーでした。楽しかったです!

 

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