宝塚歌劇雪組「はばたけ黄金の翼よ/Music Revolution!」@カルッツかわさき

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「はばたけ黄金の翼よ」の初演といえば「麻実れいさんの宝塚時代のヤバさ」が語られるときに登場する作品として記憶にあるやつですね。実際にみたことはないのですが、相手役(娘役を演じる一路真輝さん)に迫るベッドシーンのエロさとか、拷問で鞭打たれる場面の倒錯感とか、断片的に解像度の低い動画で観たことはある程度の知識しかないですが、「なんだかヤバそうな演目が全国ツアーにまわってきたぞ……?」という雰囲気でした。望海さんをムチ打つ二番手枠・ファルコ役は誰がキャスティングされるのか、順当に番手通り朝美さんなのか、それとも組替え前の餞で永久輝さんなのか、とファンの間でもやいのやいのと話題にしておりましたが、発表されたキャストは「ファルコ=朝美絢」「ジュリオ=永久輝せあ」と順当に番手通りの結果となりました。原作を参照するなら、「望海さんを鞭打つのが朝美さん、左目を焼きごてで焼くのが永久輝さん」になるだろうなと。

が、まさかの番狂わせでした。ポジションの設定そのものはファルコ・ジュリオともほぼ原作通りなのですが、「左目を剣で切りつけて奪うのが朝美さんファルコ、鞭で拷問するのが永久輝さんジュリオ」でした。まさかの逆転劇。いや、そこがストーリーの主題でないことはわかっていますが、それでもいいたい。なぜ朝美さんに鞭を持たせなかったのか。あのめちゃめちゃ冴えた美貌の朝美絢が銀髪ロングヘアーで主演の望海さんヴィットリオへの愛情をこじらせにこじらせまくった結果、世にいう『クソデカ感情』を暴発させてめったにめたにヴィットリオを鞭で打ち据えた挙げ句、「殺せなかった……」とがっくりうなだれる場面を観たかった、観たかったののですが。あの鞭の場面がなくなったせいで「どうして裏切ったのか」の理由が希薄になってしまったように感じるわけで……なぜ、なぜ朝美さんに鞭を持たせなかったのか(二回言った)。いや、サプライズとしてはよく出来てるのです、ストーリー上はごく自然な流れでファルコとジュリオのやることを入れ替えてましたから。初演も原作も見てない人にとってはなんの違和感もない展開だったのではないでしょうか。そういう意味ではよくできてましたが、ならばむしろキャスティングを逆にした上で朝美さんに鞭をもたせる選択はなかったのか、百歩譲って永久輝さんが鞭でもいい、ただ永久輝さんが鞭ならば「ビアンカを寝取られたことへの怒り」みたいなわかりやすい理由で鞭をうってほしくない、あんな善人キャラでなく原作通りのサイコパスみあるキャラでにっこにこ笑いながらヴィットリオを鞭打って欲しかっ……(とここまで一息に打って我に返る)

いや、ぐだぐだと書きましたが要はファルコとジュリオが『解釈違い』だった、ということですね。ひとことで片付ければよかった。全文読んでしまったらすみません。なぜ私はそこまで鞭にこだわっているのか……。

だがまあしかし「俺様キャラ」で「身分の高い」王道どまんなかの少女漫画キャラ、古典宝塚王道キャラの望海風斗さんというのはなかなかトップになってからおめにかかったことがなく、実に新鮮でした! ご本人も「いつも貧しいところから這い上がっていくような役が多くて、前回は誰よりも貧しい剣を使ってたから、今回は光り物のついた立派な剣を使えるような身分の高さに驚いてる」(要約)というようなことをCS放送のNowOnStageで話していて、「宝塚のトップの地位に立って二年以上経つ人の言うことか!」と笑ってしまったんですけれど。中世イタリアのお衣装はお衣装部屋にすでにたくさんバリエーションがあるのか、出てくるたびにお召し替えして出てきてくれるのも嬉しかったです。いやもう眼帯スタイルのかっこいいこと!

そしてこの少女漫画の王道である俺様キャラには当然「おもしれー女」枠がヒロインになるわけですが、この真彩希帆ちゃんが実にかわいかった! ヴィットリオに剣の稽古をつけられてあわあわするところなんて最高でしたね。ヒロインのお衣装もかわいいのが多くて良かったです。髪の毛を切って男装してからのスタイリングも良かったですねえ。いやもう本当にかわいかった!(二回言った)

小柳先生は下級生まで役を与えてくれるのが座付き作家としていいところだとは思ってるのですが、今回はちょっと枝葉のキャラにまで人物相関図での恋愛感情の矢印を与えてしまったために、ちょっと脳内で交通整理しながら見るのにメモリを食いました。雪組ファンだったら「あーさとひらめちゃんが兄弟で、ふたりはどっちもだいもんが好きで」「あやなちゃんの妹がりさちゃんで、りさちゃんはあーさが好きで」「ひとこときいちゃんが腹違いで、みちるちゃんがひとこの婚約者で、でもみちるちゃんはのぞみさんに差し出しちゃって」とか頭に入れられると思うんですが。組ファンじゃなかったらロドミア・ジャンヌ・ビアンカあたりが「このひと誰の妹だっけ?」「このひと誰がすきなんだっけ?」と混乱しそうだなーと思いました。

あと、幕前芝居が多いのもちょっと正直萎えるところではありました。あんまりあの場面転換をつなぐ幕前芝居がすきではないのですよ……いくら今年の宝塚のテーマが「温故知新」だからって、そこは!温めなくていい!と思いましたよ。演技トーンも全体的に「80〜90年代頃の宝塚」を彷彿とさせるような大らかな芝居のテイストでした。このへんは事前情報もあったのでまあなんとなく想像していたとおりでしたけれども。初めて宝塚を見る人がこれをみたら「ああやっぱり宝塚ってこんな感じなんだ〜」と思うでしょうし、近年の宝塚しか知らない方がみると「おお……昔の映像で観た宝塚みたい……」と思うだろうなあ、と思いました。

終盤のヴィットリオとジュリオの決闘シーン、なんかすごく既視感のある展開……これめっちゃ観たことあるやつ……なんだっけ……と思ったら、ハムレットのクライマックスをそのまんまトレースしてましたね。「敵対する若いふたりが黒幕の前で決闘」「決闘を中断しての小休憩のタイミングで、黒幕の計略で盃に入れられた毒を別の女性が飲んで死ぬ」「そこへ軍隊の旗を率いて現れる若い男」……と、まんまハムレットだと気づいた瞬間にちょっとふふっとなりました。原作読んだときは気づかなかったけどなるほど言われてみればこれハムレットだな!とちょっと感心してしまいました。こういう仕掛けは大好きです。ここは演劇ファンほどニヤニヤしてしまう場面だったのではないでしょうか。

まあそんなこんなで退屈はしなかったし楽しんだけれども色々言いたいことはあるぞ……!という「はばたけ黄金の翼よ」でした。

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ショー「MusicRevolution!」については概ね大劇場と変わりませんので、変更点だけ箇条書きで触れておきましょうか。

・プロローグの後の二曲目は凪七さんから朝美さんに変更、相手役は朝月さんが続投。曲もかわりました。さわやかな雰囲気の曲調ではあるのですが朝美さんが香水を手首と耳の後ろにつける仕草の振り付けがあっていろっぽさにヒエッとなりますね。

・革命と独立の場面は人が減りつつもほぼそのまま。望海さんのせりあがりはなく上手側に板付きで登場、スペイン兵のセリや幕の振り落しもないので舞台奥の段差の上に走って登場という感じでした。

・JAZZの場面は彩風さんにかわって綾凰華ちゃんがセンター! ヒュー! あやなちゃんがんばって踊ってました。いや全然彼女のダンスもうまいんですけど、やっぱり彩風さんのセンター力はすごかったんだな……というのも正直ちょっと実感したりもしましたね。あんなにバッキバキに踊っててもどこか力の抜けてる感じというか、余裕さが漂ってたんだなあすごいなあと思うなどしました。

・ClassicWorldの一曲目はあーさの銀橋登場から変更してトップコンビのお歌に。真彩ちゃんが舞台に残って望海さんは客席降りしてなにかフリーダムな雰囲気でお客様と触れ合っておりました。望海さん、上手でみつけた小さい女の子にロックオンして真彩ちゃんの歌に反応せず「だってかわいいんだもん〜」とか言ってて実に自由(笑)

・Music is My Life、大劇場で同期三人でからんでいた場面は望海さんと組み替え組の永久輝・朝月のトリオに変更。これはこれでちょっと泣いちゃいますね。

・Such A Nightは綾凰華ちゃんから彩海せらさん&彩みちるさんの若いコンビが前半、後半は永久輝さんが担当。永久輝さんのサーモンピンクの燕尾服がすごく良かったんですが、これは花組に行くからピンクなのかな〜などと思ったり。

・男役群舞の後の歌い継ぎ場面、青燕尾が永久輝さん、赤燕尾が朝美さんでした。「ワー! 咲ちゃんのお衣装をあーさが!」と思ってちょっとテンション上がってしまいましたね。あの赤燕尾好きです。

・パレードでは永久輝さんが黒衣装+黒の肩羽、朝美さんが銀の総スパンコールの衣装に白の肩羽、でした。さすがに朝美さん二番目枠とはいえ羽根は背負わなかったかー、と思いつつ、総スパンの衣装にちょっと胸が熱くなたりしましたね。

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以下、余談です。

私がチケットを取っていたのはツアー2日目のチケットだったのですが、今回は台風19号の直撃により初日がなんと中止、この10/13の公演が初日になってしまいました。この週はずっと台風が来る来ると言われていて「私はこの公演も見ることができるのか??」とやきもきした日々でした。どうやら台風は12日の夜で通過しそうだ、とわかっても、「13日の昼間で電車が止まる」と言われていてもう本気で自宅から川崎まで歩くつもりで家を出ました(google先生によると徒歩約5時間です)。途中でセブンイレブンのシェアサイクル借りれば少しは楽か……とか、いろんなこと考えましたよ。もう劇場に向かうというのにおしゃれは放棄して歩きやすい格好にリュックというアウトドアスタイルでしたし。まあなんやかや京急さんががんばってくれたおかげで無事に川崎まではたどり着けましたが。無事に二日目の幕があいてよかった……としみじみしてしまいましたね。初日が中止になったせいかどうか、全国ツアーのニュース記事の写真がほとんど見つかりません……(涙)CSのタカラヅカニュースでは映像がありましたが、TCAサイトの舞台写真のサムネイルくらいでしかツアーに行けなかった人は舞台を確認する術がないですね……。

望海さんも客席降りの時に「やっとみなさんにお会いできました〜!」と嬉しそうにおっしゃっていたので、初日の中止には心を痛めていたのではないかな……と思いました。波乱の幕開けではありましたが、無事に全国ツアーが千秋楽を迎えられて本当に良かったです。