宝塚歌劇雪組「ハリウッド・ゴシップ」@KAAT

f:id:lgmlgm:20191022174545j:plain出典:論座

 

雪組の二番手・彩風咲奈さんの別箱主演作二作目!
一言で感想を言うなら「脚本が惜しい」作品でした。テーマもプロットもすごくいいのですが、展開に対して描写がやや雑と思える部分が多く、「いまの展開ちょっと突然すぎたけど、あとで補足するセリフとかあるのかな?」「えっ、これだけふたりのライバル関係を煽ってきたのにジェリーが自滅?」とか、気になるところが多くてちょっとモヤモヤする脚本でした。つまらなくはないんです、が、骨格が悪くないだけに「惜しい」という気持ちになりました。また、前半と後半で物語の進行方向が違うというか、なにかテーマがねじれていくような印象も受けましたし。なんというか、「物語のプロットは決まってるんだけど、前半と後半で別の人間がそれぞれの解釈で勝手に脚本を書いた」みたいな印象なんですよね……広げた風呂敷をうまくたためなかった、という気もしますし……。まあ正直脚本に関してはモヤモヤする内容ではありました。ただまぁ、1920年代のハリウッドが舞台だけあってお衣装は華やかで美しく目の保養になりますし、組子たちのキャラもたってて組ファンとしてはそれなりに見応えがありました。

サイレントからトーキーへの移行期という点では「雨に唄えば」を、大女優と若い男性俳優との関係性という意味では「サンセット大通り」を思い出す設定ではあるのですが、「ゴシップ屋」に翻弄されたり、逆にそれを利用しようとしたりする映画界の人間たちを描くというテーマについてはしっかりオリジナリティのある作品だったと思います。ただ、最終的にジェリーが薬で自滅し、コンラッドエステラは世界恐慌で俳優の職を失い自主映画の世界へ行くというほろ苦いラストに着地するのであれば、もうちょっと「ゴシップ屋にプライベートすら切り売りするジェリーとアマンダの凄みと狂気」の部分と、「成り上がるためとはいえそこまでは割り切れないコンラッドエステラの善良さと弱さ」の部分を明確に対比付ける展開でも良かったのではないかな、と思いました。中盤あたりでジェリーとコンラッドの嫌な奴キャラがかぶっちゃう時間があるんですけど、ジェリーはもっと突き抜けた狂気に走って欲しいし、コンラッドはなんやかや善良さを失わないキャラで棲み分けてほしかったなあ、と、そんなことを思いました。

あるいはジェリーが薬で自滅するのではなく、コンラッドともっとバチバチに敵対した上で滅んでくれないとなんか物足りないなあ、あのままではコンラッドの不戦勝になってしまう……とも思いました。あとやはりラストの世界恐慌が唐突感あるので、そこまではもっとバブリーで浮かれた感じを出してくれても良かったんじゃないかなあ、とか。ゴシップ屋の報道はSNSでの炎上や事実無根の噂が無責任に広まる様子にも似ているし、世界恐慌バブル崩壊と重なる部分もあるのだから、そのへんが描写されていたら現代にも通じる普遍的な話になったのになあとも思ったりしました。

一幕終盤の展開も、記者会見にいきなりアマンダがコンラッドをねじ込んでくる場面にちょっと説得力がなかったかなあと思いました。どっちかっていうと扱いにくさ満点の「過去の大女優」が唐突に新作映画の企画に乗り込んできて自分が脚本を書くとぶちあげても、俳優としてのコンラッドにも脚本家としてのアマンダにもなんの実績もないわけで、そのまま話が動くわけが……という気がしてモヤモヤしてしまいます。コンラッドについては「アマンダの最終試験」であるところのダンスホールでの場面で有力株主の奥様かなんかがコンラッドに目をつけてスポンサーになるとか、アマンダの脚本についても女優として売れてる時代に話題作りのために一本か二本脚本を書いたことがあるとかなんとか、そんな伏線があってもよかったのでは……と思いました。ていうかミュージカル映画で「サロメ」て、娯楽作品になりうるのかそれは……ていうかワイルドの戯曲をそのままやらないんかい……とかとかとか(1回しか観てないので、ちょっとこのへんなにか聞き落としたセリフがあったかもしれませんが)。

それにしても「本当の名前」と「芸名」がエステラにとってもコンラッドにとっても「本当の自分」と「虚飾」を表すキーポイントになるあたり、ちょっと「20世紀号に乗って」のリリー・ガーランド/ミルドレッド・プロツカのエピソードを思い出しますね。 

そんなこんなで色々と細部にもうちょっと丁寧な描写や伏線が欲しいなあ、という感じがして「惜しい」作品でした。全体的につまらなければこんなに重箱のスミつつくようなことは言わないんですけど、大筋の展開やキャラ設定なんかは悪くないからもったいない。コンラッドエステラがダウンタウンのさびれたダイナーで話す場面とかはすごくいいんですよね。虚飾に満ちたハリウッドとは違って、等身大のふたりが自分の心情を素直に表現してる感じがして。コンラッドエステラに惹かれるのがよく伝わる場面だったと思います(ただエステラがコンラッドに惹かれた瞬間はわかりづらい……)。ラストのダイナーの場面、お客さんのおばあさんとおじさんがうしろでダンスしてるのも含めてすごく優しい場面で、ほろ苦い青春の挫折を味わったコンラッドエステラにはまだ明るい未来があることを予見させるいいラストだったと思います。

 

というわけで本編はいろいろモヤモヤしましたが、フィナーレがすごく良かったのでなんというかすべてがふっとぶ勢いでしたね。構成としては「男役2人と娘役2人のタンゴ」「男役群舞」「娘役に囲まれる男1」「男1と娘1のデュエットダンス」と短いんですけど、印象に残るフィナーレですごく良かったです! まず男役2人と娘役2人ででてきたらそれぞれペア組んで踊ると思うじゃないですか、それが彩凪さんが娘役ふたりと絡んだ後に踊るのが縣千さんで……男役ふたりががっつり組むタンゴ、という珍しいものを見て大変に盛り上がりました。しかもけっこう学年差があるふたりですからね。なかなか見られないものを見ました。また縣さんのダンスがキレるので最高でしたね……男役がお互いをリフトしあうというのも珍しいですし。振付家の先生にお中元を贈りたい案件でした。

男役群舞もなんかもう記憶がすっとぶくらいかっこよかったのですが(もう一回あそこだけ確認したいので早くスカステ放送お願いします)、それ以上に彩風&潤のデュエットダンスがやばやばにヤバくてですね。いや、私の中で「このデュエダンがやばい2019」はすでに宙組オーシャンズ11」の真風&まどかで決まりだと思っていたのですが、ここへきてわからなくなってきてしまいました。いやもう「付き合い始めのカップルのキャッキャウフフ」を具現化したような振り付けでですね。娘1の胸に向けて指を銃にみたててバーン、からの「撃たれちゃった!」みたいに胸を押さえて笑顔、とか、咲ちゃんからキスしようとしてはかわされ苦笑い、みたいな。このデュエダンは稽古場で見てた真那春人さんも頬を両手で押さえる仕草をしてたと話しているのをナウオンステージで放送してましたが、ほんと「うわー今なにを見せられているんだろう!?!?」と思うような、嬉し恥ずかしないちゃいちゃデュエダンでございました。か!わ!い!い!

 

さて役者について。
コンラッド・ウォーカーの彩風咲奈ちゃん! かっこいい! 冒頭はあまりいけてないもっさいかんじのジャケットで登場しますが、赤マタドールの衣装やら黒タキシードやらばっちりかっこいいお衣装が色々堪能できるので最高でしたね。足長い〜楽しい〜かっこいい〜。とはいえフィナーレの爆発力を観てるとほんと咲ちゃんは踊ってこそなんぼだな!と思うので、本編でもっと踊るシーン組み込んでくれても良かったんでは、と思ったりもしますね。咲ちゃんももう二番手で長いしセンターに立ってもまったく見劣りしなくなってきたなーいつでもトップになれるね……とそんなことを思いました。

エステラ・バーンズの潤花ちゃん。かわいい! 舞台での表情と動きが映える、動いてるとこ見てなんぼな女優さんだと思います。ダンサーの咲ちゃんにお似合いなのではないでしょうか。潤花ちゃんが綺咲愛里さんの後をついでヒガシマル醤油のイメージガールに就任したこともあり、これはいよいよ雪組の次期体制が確定したのかな……とちょっと思いました。まだちょっと気が早いですけどね(もうちょっと望海さん真彩さんの時代を楽しみたいのでねー!)。前述のデュエダンも、「これからこのふたりは長い付き合いになるんだけど、まずは付き合い始めの今しか味わえない初々しさを楽しんでくださいね」みたいなメッセージを受信してしまうような、そんな雰囲気でしたよね……。

ジェリー・クロフォードの彩凪翔さん。ははは、かっこいい。なんか笑っちゃうようなかっこよさですね。大女優をたらしこんでのし上がるハングリーなイケメン。好きです。いつもよりメイクも盛り盛り、ヘアスタイルもやたら盛ってたような。そしてアマンダ役の梨花ますみさん、さすがのベテラン感! 終盤、夜の雨を眺めながらのコンラッドとのやりとり、さすがでしたね。目の下に涙の滲んだすごみのあるメイクで静かに泣く場面、思わず咲ちゃんよりも梨花さんの表情に見入ってしまいました。ジェリーが失脚するきっかけを作るエキストラ仲間役のマリオ役・煌羽レオも影のある悪い色気が出ていてよかったです。ラリー役の縣くんも芝居のしどころは少なかったけど踊ってるシーンは本当にかっこいい。好きです。