宝塚月組「I AM FROM AUSTRIA ー故郷は甘き調べー」

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出典:ギャラリー | 宝塚歌劇公式ホームページ


月組はウィーンのジュークボックス・ミュージカルを日本初演。2階16列席のはじっこ、つまり劇場の中でも最も舞台から遠い天井桟敷席で見ましたが、今回の舞台美術のうち映像部分がほぼ見えない席位置だったので、一階席から見る感想とまただいぶ違うだろうなーというのは最初にお断りしておきます。たぶんこれ無意識の部分で印象に大きく関わってくるだろう部分かと思うので。

 

「舞台はウィーンにある老舗ホテル・エードラー。跡継ぎであるジョージは、伝統を重んじる両親に対し若者らしい革新的な改革を掲げ、悲願である“五つ星”獲得を目指し積極的に経営に参加していた。そこへ、オペラ座舞踏会に出席する為に久々に帰国したオーストリア出身の人気ハリウッド女優エマ・カーターがお忍びでやってくる。しかし従業員の一人が彼女の来訪をツイートした為、マスコミが押し寄せホテルは大混乱に陥ってしまう。ホテル側の不手際を詫びに、ジョージがエマの部屋へ訪ねると、ふとしたことから二人は意気投合するが……。ホテルの御曹司として自らのなすべき事を模索するジョージ、世界的なスターでありながら自らを失うエマ、各々は惹かれあい、オーストリアの美しい街並みや自然の中で、自分の居場所を見つけていく。」

と、公式にある文章ですが、こんな感じの展開の中でエマのマネージャーであるリチャード・ラッティンガー(月城かなと)が、アルゼンチンの花形サッカー選手パブロ・ガルシア(暁千星)とエマの結婚をでっちあげようとして、パパラッチのライナー・ベルガー(輝月ゆうま)と手を組んで悪巧みをする……といったサイドストーリーもあったり。ジョージの父ヴォルフガング・エードラー(鳳月杏)と旅行会社の女性(白雪さち花)との関係を怪しむジョージの母ロミー・エードラー(海乃美月)のケンカ、両親それぞれのジョージへの思いなど、エードラー家の家族愛のエピソードなども織り込まれています。

エピソードがさほど散漫にならずエマとジョージのストーリーを中心にまとまっているのと、ウィーンのヒット曲に馴染みがないのとで、ジュークボックス・ミュージカルという印象はあまりなく、普通に楽しい現代ものミュージカルという印象でした。月組さんは芝居がうまくてきっちり行間も埋めてくるので「家族愛」「故郷愛」みたいなテーマの部分もきっちり伝わってきます。ただそれだけに細部が気になってしまうというか、「そもそも芸能人が泊まるって情報をやすやすとリークしてしまう従業員」とか「ホテルの一人息子がホテルの制服も着ずに宿泊客の接客をしようとする」とか、そんなホテルでありながら「4つ星ホテルから5つ星ホテルに昇格」とか、ありえない部分がどうにも気になってしまうんですね。冷凍室に閉じ込められてトルテを指でつまみ食いしたのにそれをそのまま商品棚に戻しちゃうジョージもどうかと思う(バレたら完全に炎上案件じゃん?)。なんていうか三谷幸喜氏のコメディで「ありえない嘘」を無理やり突き通そうとする主人公を見てるような居心地の悪さを感じてしまいました。「(芸能人の宿泊情報をリークするなんて)コンプライアンスのかけらもない!」と憎々しげに文句をいうリチャード、作品上は完全に敵役として描かれてますけど、言ってることド正論すぎてリチャードの肩を持ちたくなってしまいます……。

いっそもっと芝居部分にリアリティを持たせず軽く演じさせて、ショーアップしたミュージカルナンバーをつなぐだけの役割にしてしまったほうが良かったんじゃないかな……でもそれは月組には難しいかもな……なんてことを思いました。(ただこれは前述の通り天井席から見てたためにショーアップした映像演出などが視界に入らないため、センターの芝居だけに集中せざるをえない席位置のせいで受けた印象かもしれない、というのはいい添えておきます)

とはいえそのへんの細部に目をつぶれば楽しい作品でもありました。個性豊かなキャラクター、ポップで耳馴染みのいいナンバーの数々、華やかなダンス、ハッピーエンドで気持ちよく帰れる後味の良さ、などなど、組ファンなら何度でも楽しく通えそうな作品だなあと思いました。特に「Nix is Fix」や「マッチョマッチョ」なんかのナンバーは耳にこびりついて離れないやつでしたね、長女が帰ってきてからもずっと歌ってました。

珠城りょうさんのジョージ、ほどほど遊びなれてもいるけど基本的に誠実な好青年という感じで、お衣装替えも多くて最高でしたね。白シャツからパーカー姿、正装までありで素晴らしかったです。美園さくらちゃんのエマ・カーターかわいかった! 気の強いハリウッド女優という役柄、似合ってましたね。前作みたいなおとなしい役柄よりも全然好きです。一気にトップ娘役らしい風格がでてきたなあと思いました。リチャード・ラッティンガー役の月城かなとさん、正二番手おめでとう! クセのある敵役だけど最終的に残念な終わり方でしたね、スカピンのショーヴラン的なかわいそうさ……。ジョージの父ヴォルフガング役の鳳月杏さん、ダンディー! お歌も聞かせどころがあってよかったし空気読みながら手のひら返しまくるキャラ楽しかったけど、もうちょっと出番が欲しいよー。パブロ・ガルシア役の暁千星さん、かっこよかった、男らしかった! かわいい系キャラ一気に脱却じゃないでしょうか。芝居のしどころはあまりない役でしたけど、セリフの少ない中でスター選手の存在感出さなきゃいけないし見せ方の難しい役ですよね。でも説得力のある見た目で完璧でした。フェリックス役の風間柚乃さん、ここんとこずっと代役で貫禄の必要な役を演じることが多かったのでプレッシャーがすごかったと思うんですが、久々に学年相応の役で良かったね……楽しそうだね……という気持ちで見守ってしまいました。パブロに言い寄られてカップルになってしまうのかわいかったー。