「キレイ-神様と待ち合わせした女-」

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出典:ぴあ

 

4度目の上演となる松尾スズキ作・演出のミュージカル作品。いやー初演が2000年、ってもうほぼ20年前の作品なんですね(ぶるぶる)。キャストが変わるたびになんだかんだ毎回見ていますが、見るたびに情報量の多さに圧倒されて「どういう物語だったのか」がすっきりと整理できないまま軽く混乱した状態で家に帰ることが多かったように思います。ただ回を重ねてようやくなんとなくその混沌こそが物語の主軸なんだ、と受け止められるようになってきました。「ケガレ」と「ミソギ」、「子沢山が好きで戦争は嫌い」と「戦争のおかげで子供を養える」、「上流社会で美貌を誇るカスミの鼻からは臭くて白いチーズっぽいのが出る」、「その婚約者は殺せば殺すほど評価される仕事だが本当は花屋になりたい」、「クジラを保護した同じ手で便所の壁に嫌いな電話番号を書く」、「食べられて死ぬのが夢なのに、ないはずの生殖器があるダイズ丸」などなど、相反する事象がそれぞれの登場人物たちにぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、「人間とは多面体である」ことをトゥーマッチな混沌の中で描いた物語なのだな……と、やっと自分の中でこの作品の輪郭をとらえることができた気がします。

それにしても上演を重ねるごとにミュージカル度が増していきますね。初演の頃はミュージカルでありつつも小劇場の猥雑さのほうが強く感じられたのですが、今回はダンサーの使い方なんかも含めてミュージカルとしての完成度がぐんと上がったような気がしています。キャストも全体的にミュージカルで活躍した人が増えてきたからでしょうか。そういやオケもちゃんと舞台前のオーケストラピットの中にいましたもんね!(前もそうだったっけ?)「ああ〜贅沢〜」なんて思ってしまいました。

 今回は阿部サダヲ演じるマジシャンのソロナンバーが増えて「グレイテスト・ショーマン」みたいな演出がついていたせいもあるんですが、これまでの上演よりもマジシャンの存在の比重が重くなっていましたね。初演の頃はハリコナがケガレの相手役として物語の主軸になっていた気がするんですが、今回はハリコナの存在が少し薄まり「ラスボス」としてのマジシャンとケガレの対立が物語を追う道標だったように思います。演出の変更のせいとはいえ、なんというかこの物語の「真ん中」を引き寄せてしまう阿部サダヲの芝居と存在感はすごいな……とそんなことを思いました。

主演・ケガレ役の生田絵梨花さん、歴代の主演の中で一番お歌の上手い女優さんではないでしょうか。ただあんまり「上手さ」を出す歌い方はしてなかったように思いますね、むしろ素朴さを残す子供のような歌い方だったような。なんだかんだ初演の印象が強いのだと思うのですが、ケガレ役はミュージカルの主演とはいえ「歌の巧さ」を求められてる役ではないような気がしますね。正直いうと「あんまりうまくない」と思ってしまった奥菜恵さんの歌い方が一番印象に残ってるのは、「上手くないんだけど必死さが伝わる切実な歌い方」が、ケガレという役に一番ハマってたんじゃないかという気がしています。

大人ハリコナ役の小池徹平くん、考えてみれば子ハリコナで登場した2014年がミュージカル初挑戦だったような。あれから5年、気がつけばもう完全にミュージカル主演俳優ですもんねえ。というかこの5年でほんとミュージカル大作にほんとたくさん出演してたんだな、と改めて驚いてしまいました。

ジュッテン役は今回岩井秀人さん。ほんと松尾さんはこの役に作家をあててくるんだな……と思いつつ、岩井さんの佇まいが最後列からみたら宮藤官九郎さんそっくりで、思わずオペラグラスで「あれ???宮藤さんは今回出てないよね???」と二度見してしまいましたよね。まあ見ていくうちに「ああ、岩井さんだ、岩井さんだよ」ってなるんですけど。ただまあこのジュッテンといいマジシャンといい、ついつい宮藤さんが演じてたときのセリフの言い回しを思い出してしまうあたり、私は本当に松尾さんが描いた宮藤さんの役が好きなんだなぁとそんなことを考えていました。

ジュッテンといえばカスミお嬢様の裸を見てしまう場面、遠目でよく見えなかったけど鈴木杏ちゃんがっちり脱いでたんでしょうかね……秋山菜津子さんのときも思いましたけど、あそこほんとドキドキしますよね……度胸……!

この作品好きなんですが、正直に言うと見るたびにどうしても一点だけ「ここのセリフだけは許せん」と思ってしまう箇所がありまして。ケガレをカウボーイが毎夜犯していた件で、ケガレが「私楽しんだの」って言ってしまうところですね。物語のテーマ的に「レイプされる絶望・苦痛」と「肉体的快楽」の二律背反をケガレが背負わなければいけないのはわかるんだけど、でもそれが男性が好むポルノ的幻想にしか思えなくて、「松尾さんまでそんなやっすい監禁ポルノ描いちゃうのかよー!」とがっかりしてしまうんですよね。女が!レイプされて!楽しめるわけ!ないじゃん!と女性としては思ってしまうんですが。たとえその行為の意味をケガレが知らず「自分が何をされてるかわからなかった」にしても、性的虐待を受けていた子どもたちの声を聞いたことがあれば「楽しんだ」なんて言えないと思うんですが……。せめてあそこはカウボーイがああいうキャラじゃなくて、暴力的なマジシャンからケガレを守るような親しみのある立場だったかなんかで、ストックホルム症候群に陥った末の関係……とかそういう理由付けがあってほしい。割とつい最近も女の子の監禁事件があっただけに、ちょっとそんなことを思ってしまいました。