NTLive2020「リーマン・トリロジー」

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出典:映画.com

いやーー面白かった! 評判に違わぬ内容で「上質の!演劇を!見た!」という満足感でいっぱいになれる作品でした。2回の休憩含めて3時間40分というかなりの長尺ですが、飽きることなく集中して観ることができました。

リーマン・ブラザーズ創始者であるリーマン一家が海を渡ってアメリカに移住してきた1844年から、2008年のリーマン・ショックまでを描いた物語。3人の俳優が何役も演じ分けながら、150年にわたるリーマン一族の栄枯盛衰を綴っていくという内容。経済のことがたいしてわからなくても、「ある一族の3代にわたる物語」として楽しめるんだけれども、まるで神話、あるいは王朝モノを見ているような荘厳さと重厚さもあるのは、「経済大国の創始者」「近現代の経済史の始祖」としての役割がリーマン家にあるからなんでしょうか。

海を渡ってきたユダヤ人移民の兄弟が、アラバマ衣料品店を営みながら綿花の取引で一気に事業を拡大、NYに進出し投資銀行として上り詰めていくサクセスストーリーはまさにアメリカンドリーム。しかしそれぞれ老いて後進に道を譲っていく場面のなんともいえない物悲しさ、そしてリーマンショックでついに倒産まで追い込まれていく様子は、まるでシェイクスピアの歴史劇のよう。3代みなそれぞれが栄光を手にする一方で悪夢に苛まれ、永遠に続く綱渡りをしているような描写がヒリヒリします。とくに世界恐慌で金融マンが次々と自殺していく描写、いまこのコロナで株価が急落していく状況下で観ると肝が冷える想いがします。タイムリーすぎて嫌だ……。

何がいいってサム・メンデスの演出が、洗練を絵に描いたような無駄のない演出ですね。四角いガラス張りの部屋を回転させながら背景に映像を使い、音楽はピアノの生演奏。もうそれぞれのスタッフワークがどれもレベル高すぎてしびれます。そしてアダム・ゴドリー、サイモン・ラッセル・ビール、ベン・マイルズ、たった3人の俳優がまた3人ともえげつなく上手い。子供から老人まで、男女問わず演じ分ける様子はまさに演劇マジック。見る前は「3時間40分!なげえよ!」と思って尻込みしていましたけど、びっくりするほど集中して観られましたね。一時間ちょっとしたところで休憩に入るのですが、同じ回を観ていた友達と「これは甘いものを摂取する必要があるね……」と苦笑いしながら売店に並ぶほどがっつり集中力をつかっていたようです。

あの場面が好きとかこの場面の演出が良かったとかいちいち書きたいのですけど、覚えきれてないのでもう一回観たいですね。ナウシカ歌舞伎ディレイビューイングと上映週がかぶっていたので観られないかと思っていたのですが、好評で上映期間延長してくれたおかげで観ることができてよかったです。3月に入ってコロナのせいでほとんどの劇場が閉鎖してしまいエンタメ欠乏症に倒れかけていましたが、上質の芝居をがっつり観ることができてすごく心が穏やかになりました。芝居が観たくても観られない状況下でこんなに上質なものが映画館で上映されているというのは本当にありがたいことですね……しばらくロングラン上映してくれないかな! これはまたおかわり観劇したいです!