マシュー・ボーン IN CINEMA「ロミオとジュリエット」

f:id:lgmlgm:20200715174520p:plain

出典:『マシュー・ボーン IN CINEMA/ロミオとジュリエット』公式サイト

 

2019年のマシュー・ボーン振付家)の新作(映画監督のマシュー・ヴォーンとは別人です)プロコフィエフの名曲にのせてアレンジした新演出版、映像とはいえマシュー・ボーンの新作舞台が見られるなんてありがたいことです。来日公演では録音音源が使われてるけどやっぱり向こうでは生オケなんですねえ、いいなあ! 今年来日予定だった「赤い靴」が残念ながら中止になってしまいましたが、映像で新作が観られてとても嬉しかったです。

物語の設定は次の通り。『今からそう遠くない近未来、反抗的な若者たちを矯正する教育施設「ヴェローナ・インスティテュート」では、若者たちは男女別に分断、接触を禁じられ、厳しい監視下のもと自由を奪われて暮らしている。ジュリエットは、暴力的な看守のティボルトから目を付けられ、その脅威に怯えていた。ある日、有力政治家の両親から見放され施設に入れられたロミオは、施設で開催されたダンスパーティーでジュリエットと出会う。瞬く間に恋に落ちた2人は、看守の目を盗んで逢瀬を重ね、仲間たちに祝福されながら遂に愛を誓いあうのだった。しかし、幸せもつかの間、突如酒に酔ったティボルトが銃を振りかざして現れ、乱闘の挙句、仲間の1人マキューシオが命を落としてしまう。怒りに燃えるロミオとジュリエットたちは、ティボルトに立ち向かうも、さらなる悲劇が彼らを待ち受けていた…。』公式サイトより)

 

いきなり「騎士たちの踊り」の曲から始まり、これをメインテーマ曲として繰り返し使用するので、全体的に不穏な雰囲気の漂う作品。設定は教育施設となっていますが、白一色の服装といい、拘束服が出てくるとこといい、どちらかというと精神病院のような描かれ方をしています。ロミオとジュリエットは「敵対する団体同士」に所属するわけではなく、単に自由行動が禁じられてるといった描かれ方。ロミオについては政治家の両親がなんらかの理由で家におきたくないから施設に金で入所させたといったやりとりが描写されていました。施設のダンスパーティで恋に落ちたふたりのパ・ド・ドゥが本当に美しくてとても良かった! マシュー・ボーンの振り付けのパ・ド・ドゥ大好き……。通常ありえない体制でキスしながらゴロンゴロン移動するのすごかったですね。

ティボルトはマッチョで「力で若者たちを制圧する」タイプの看守という設定。ジュリエットがティボルトから性的虐待を受けていることを匂わせる場面もあります。若者たちが楽しくやってるところへこのティボルトが酒に酔って銃を持って乱入してきたもんだから、抵抗したマキューシオが死んでしまい、ロミオとジュリエットは怒ってティボルトを殺してしまう……という展開。このあと、ふたりは我に返ってティボルトを殺した罪悪感に苛まれ心を病んでしまう描写があり、幻覚の中で混乱するうちにジュリエットがロミオを刺殺してしまい、そのことに絶望してジュリエットも自分を刺して自殺する……という展開でした。

最後はロミオもジュリエットも白い衣装が血糊で血まみれになっていくので、「ああ〜pixivなら流血注意タグを付けろって怒られるやつ〜」などと思ってしまいました。あと、ティボルトを殺して罪悪感にさいなまれるロミオ、って、よくよく考えたら今まで見たことがなくてなんだか新鮮!斬新!と思ってしまいました。いままで見たロミオ、どいつもこいつもティボルト殺しちゃったことなんか気にもかけてなくて「ジュリエットに会いたいよぅ、ぴえん」ってなってましたから(よく考えたら人として最低だな、ロミオ!)。

ストーリーについてはジュリエットがロミオを殺してしまうあたりが衝撃的で、「ああ、この救いの無さ、10代の頃だったら大好物だったやつだな!」と思ったのですが、さすがに子供を生んでからあまり陰惨な悲劇を受け入れづらくなってしまっていて、正直なところ気持ちよくハマれなかったというのが正直なところです。ただこういうストーリーだ、と頭に入れた上でもう一回見たらたぶんダンスや振り付けの美しさを楽しめるだろうなとも思いました。マシュー・ボーンの作品はストーリー性がありすぎて逆に振り付けよりストーリーを追ってしまいがちなんですけど、ストーリーを忘れて振り付けだけ純粋に楽しんだらすごく楽しい作品だっただろうな、と。マシュー・ボーン作品ではおなじみのレズ・ブラザーストンの美術衣装のデザインも美しく、プロコフィエフの音楽のアレンジも素敵で、目と耳に楽しい作品でした。

 

www.youtube.com