「フリムンシスターズ」@シアターコクーン

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出典:Bunkamura公式

 

松尾スズキさんの新作ミュージカル。稽古期間中に阿部サダヲさんのコロナ陽性反応のニュースが伝えられたりして、公演中止になってしまうのではないかと心配しましたが、無事幕が上がってよかったです! わーん、しかも生オケ、嬉しいよう。

沖縄のユタの血をひくヒロインのちひろ長澤まさみ)は西新宿のコンビニに住み込みで働くアルバイト。給与は支給されておらず、コンビニの廃棄弁当を食べて生活していて、店長(オクイシュージ)と時々寝るという生活。かつて自分の妹を車で跳ねる事故を起こしてから精神を病んでいる女優のみつ子(秋山菜津子)は親友でゲイのヒデヨシ(阿部サダヲ)を付き人にして舞台の稽古に向かうがうまくいかず、帰りに西新宿のコンビニでちひろと出会ったところから物語が転がり始める……という展開。狂言回しでもあるドラァグクイーンの信長(皆川猿時)、ゲイであることを理由に家を追い出され日本に流れ着いた韓国人アルバイトのキム(羽田余市)、ちひろを「コンビニ幽霊」と呼んで友達になりたいと願う首吊り大道芸人栗原類)、ちひろの部屋の隣に住む引きこもりの黒人(山口航太)、ヒデヨシの当てた宝くじの2億円を換金しにいったまま姿を消した恋人・ヒロシ(篠原悠伸)、ゲイを憎むあまり「伊勢丹のムードを守る会」に所属してヒロシと上司の警官を殺してしまった店長の兄(オクイ二役)、ブロードウェイのオーディションに合格したのに渡米前夜にみつ子の車にはねられて歩けなくなってしまった八千代(笠松はる)、キムの叔母ソヨン(池津祥子)とその親族のSM女王(丹羽麻由美)……などなど、クセの強い人々が入り乱れて疾走する物語。最終的に物語はLGBTのプライドパレードとそこを狙った「伊勢丹のムードを守る会」一派のテロ行為と、ちひろ・みつ子・ヒデヨシのそれぞれの過去から解放されるまでが描かれます。

って、松尾さんのホンは基本的に情報量が多いのではしょってあらすじ書いても何が何やらですね。ただ今回は狂言回しの存在があるからか、松尾さんの作品にしては比較的わかりやすかったように思います。もうちょっと混沌としててもいいかなくらいではありました。ミュージカルとしては楽曲に耳残りのいいナンバーが多くて、3時間くらいの尺だったらショーとして楽しい作品だったんじゃないかなあと思うんですよね。歌と踊りが入るからストレートプレイよりラクとはいえ、3時間超えるとどうしてもちょっと長く感じてしまうので……。著作権をギリギリクリアしたマイフェアレディとか、ドリームガールズかな?みたいな「後ろからズドン♪」とか、物語がいい具合に盛り上がったところで登場人物が舞台上に出揃いミューオタが「これはいわゆる『小池修一郎の一幕ラスト』だ…」と思った瞬間に歌われる「一幕が終わる予感がする」歌とか、ミュージカルのパロディが色々入ってくるのに若干のいのうえひでのりさんテイストを感じたりもしつつ。

しかし、どうしてもテーマがテーマだからか、先日の松尾さんのBRUTUS炎上問題がチラついてしょうがなかったんですよね。あれがなければ素直に「多様性バンザイ」な話として見られたんじゃないかとは思うのですが。うーん。どうしてもモヤモヤしてしまうので一旦あれは忘れて観たかったなーというのが正直なところでした。当事者が書いたわけではないLGBT問題というか……登場人物たちがそれぞれ若干記号的で、「それでもこの地獄を生きていかなければならない」という切実みにやや欠ける感があるというか……これはミュージカルという形式がそうさせるのか、それとも役者の芝居がそうさせるのか、ハコの大きさがそうさせるのか、そもそものホンの問題なのか、ちょっと判断できない感じではありますが。

ヒロインの長澤まさみちゃん、なんだかんだ健康的なので設定ほど閉塞感が出ないなあとちょっと思いました。新宿のコンビニで住み込みバイトでコンビニ飯食べて寝るだけの生活で店長の性欲処理してる、とかもう目を覆いたくなるような設定だけど、そこまで陰鬱な印象にならないというか。栗原類さん、「大島弓子の漫画に出てきそうな風貌」という台詞にちょっと笑ってしまいました。コンビニ店長と警官の二役を演じたオクイシュージさんの狂気、良かったなあ!手紙を読みながらメガネを外す瞬間の切り替わり方、すごく好きです。そしてやたら歌のうまい笠原はるさんのインパクトもすごかったです。笑顔で秋山菜津子さんを追い詰めていくの怖かった〜

 

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