『迷子の時間 ー語る室2020ー』 @PARCO劇場

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出典:PARCO劇場ホームページ

PARCOプロデュース、イキウメの前川知大の作品、亀梨和也氏主演でイキウメ劇団員の出演なし、ということで多少はイキウメと雰囲気変わってくるのかなあと予想しつつの観劇だったのですが、蓋を開けてみればいつもどおりのイキウメワールド、という印象の舞台でした。ポスターなんかも思いっきり亀梨くんメインだったんでそういう作りになるかと思いきや、がっちりいつもどおりの群像劇でしたしね。隅々まで前川さんの演出が行き渡った、丁寧で緻密な作品に仕上がっていたと思いました。

舞台はとある地方の小さな町・金輪町。5年前に「幼稚園のバスの運転手とひとりの園児の男の子が失踪する」という事件があり、ふたりの行方はいまもわからないまま。消えた子供の母親(貫地谷しほり)とバスの運転手の兄(忍成修吾)はそれぞれ大切な家族を失いぶつかり合ったりもしながら、母親の弟(亀梨和也)を交え今では共に食卓を囲めるところまで関係を修復した。そんなある日、車を盗まれた霊媒師(古屋隆太)や、父の死を知って実家を目指すヒッチハイカー(浅利陽介)とその妹(生越千晴)、未来からやってきてえ帰ることのできなくなった青年(松岡広大)たちが町で交錯し、事件の輪郭が姿を表していく……といった物語。

観客には「事件の原因はタイムスリップである」といううっすらしたヒントは与えられるものの、登場人物たちはそれぞれに何の答えも与えられず、何の救いも与えられないまま結末を迎えるので、展開だけみると少々残酷な物語な気がしなくもないのだけれど、それでも「起こったことを受け入れて前に進む」登場人物たちの姿を見て、さみしくもやさしい気持ちに包まれる不思議な後味でした。失踪した子の母親と弟、そしてバスの運転手の兄の三人が食卓を囲み、やがて定例のバーベキュー会を行っていく流れは、どうしようもない喪失感を含みつつも優しい気持ちになります。それはやはり「食べる」という行為が「生きていく」ことを表し、「一緒に食べる」という行為が「相手を受け入れる」ことを表しているからなのかな、と思いました。

KAT-TUN亀梨和也氏についての知識がごめんなさいほぼゼロなものですから、どうも「ギリギリでいつも生きていたいから」のRealFaceのイメージしか無くてですね、なんかこうもっとオラオラした二枚目アイドルが出てくるのかと正直思っていたんですよ。いやーごめんなさい全然そんなイメージと違って、アイドルオーラをほぼ消していたといっても過言ではないというか。なんというか役に対してすごく誠実に向き合ってるというか、めちゃめちゃ真面目な役者さんなんだな!という印象を受けました。芝居のトーンもきっちり他のメンバーと揃えていて、群像劇のうちのひとり、「前川ワールド」のいちパーツになることにとても誠実な芝居をしてると思ったんですよ。ドームで何万人も相手にしてる方なのに、パルコサイズの小屋で緊張すらしてるように見えましたし。別の日に観た友人が「イキウメのテーブル動かすいつものやつを亀ちゃんがやってて笑った」って言ってて「確かに!」って笑ってしまったんですけど、他の役者さんと一緒に転換の装置移動のアレやってましたもんね。なんていうか本当に「真面目」という言葉が第一印象に残る役者さんでした。世界観に合っていてとても良かったです。

子供を失って心を病みかける母親を演じた貫地谷しほりさん、さすがの上手さ。ガチ泣きして鬼気迫る芝居に感情移入しちゃってちょっと辛くなったり。忍成修吾さんも感情を抑えた中にきちんと心の見える芝居で良かった。胡散臭い感じの霊媒師の古屋隆太さんはこの芝居の緩衝材的な存在で空気を和らげてくれたし、失踪した子どもの成長した姿を演じる浅利陽介さんの、家族との葛藤を抱える姿も上手かった。さすが。そして身体能力の高さで目を引いたのが松岡広大さん。あんまり知らない顔だったんで(すみません)終演後まっさきにググりました。戦隊→テニミュNARUTO→月髑髏→るろ剣かあ!(ひとこちゃんの役ねOK、と思ってしまう宝塚ファン)アクション芝居やってるところちゃんと見たいですね。しかも来年スリル・ミー出演ということは歌えるのか……23歳にして恐ろしい子……。ちゃんと名前覚えておこうと思います。

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