宝塚歌劇団月組「WELCOME TO TAKARAZUKA/ピガール狂想曲」

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出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

前半の「WELCOME TO TAKARAZUKA〜花と月と雪と〜」は45分の和物ショー。演出は植田紳爾先生、監修は坂東玉三郎さん。どのへんにどのくらい玉三郎さんの手が入っているのかはちょっとわかりませんが、美術や振付あたりなんでしょうかね。雪と月の場面あたりはかなり玉様テイストが感じられましたが、どうなのかな。

暗転の中に「ウェルカム…ウェルカム…タカラヅカ…」と歌声が次第に大きくなっていき、パッと照明がつくなり華やかな和装の生徒さんたちが全員板付きで登場する「チョンパ」での幕開き。みんな言ってますがほんとこれ死んで暗転したあとの涅槃の光景かなと思いますね……天国にウェルカムされたみたいな。これが「花」の場面になるんでしょうか、とにかく明るくて華やかです。
続いて宝塚大劇場版では初舞台生の口上だった場面が、東京宝塚劇場では月城かなとさんの「越天楽」の場面に。ひとりでピシッと舞踊をキメるれいこちゃん、もうすっかり押しも押されもせぬ二番手ですね……。なんともありがたく疫病退散してくれそうな舞です。しかしちょっと痩せたかな……
「雪」の場面は歌劇団在籍64年目の大ベテラン・松本悠里先生のしっとりとした舞踊。宝塚のフェアリーに年齢の話をするのは野暮ではありますが、劇団在籍64年ということは80代前半……? 少なくとも私の母親よりも上だな、と思うと、ちょっと信じられないですね。歌舞伎俳優さんだってさすがにこのくらいの年令になると足元が時々危うかったりするものですが、SS席から観てもそんな年齢にはとても見えない可憐でたおやかな舞でしたものね。まさにレジェンド、すごいものを見せていただきました。
「月」の場面はベートーヴェンの月光とラヴェルボレロをアレンジしたような曲に乗せて展開する厳かな群舞。静かな緊張感あふれる場面でした。(余談ですがメインで踊る6人以外のバックのメンバーのかぶり物が「鬼滅の刃」の鬼殺隊の隠みたいなやつで、「産屋敷耀哉様の追悼集会かな……?」と思ったらそうとしか見えなくなったりもしました)
月城かなと&風間柚乃で演じられる「思い悩む若衆が鏡の向こうの自分に励まされる」舞踊、メインがれいこちゃんとはいえ自信たっぷりに彼を励ますのが下級生のおだちんというのもちょっとおもしろかったですね。さすがというかなんというか。
そして最後にもまた「花」の場面に戻り、松本悠里先生の舞も交えて華やかに幕をおろします。正直和物ショーって退屈なイメージがあって苦手なのですが、今回の作品は見応えあってよかったですね。退屈しませんでした。

 

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出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

そして後半はシェイクスピアの「十二夜」を原作に舞台を1900年のムーランルージュに移したコメディ「ピガール協奏曲」。原作が原作だけにちょっとツッコミどころもあるにはあるんですが、それでも楽しい作品に仕上がっていたと思います。面白かったです!

あらすじ。借金のカタに女衒に売られそうになったジャンヌ(珠城りょう)は髪を切り男に姿を変えてジャックと名乗り、ムーラン・ルージュで働きたいと支配人シャルル(月城かなと)を訪ねます。シャルルは経営を立て直す奇策として人気小説「クロディーヌ」のモデルとなったガブリエル・コレット(美園さくら)を主演に仕立てあげたいと考えていて、彼女を説得できたら雇ってやるとジャックに告げます。一方ガブリエルは実は「クロディーヌ」の作者であるものの、作家である夫ウィリー(鳳月杏)のゴーストライターに甘んじることに嫌気がさして夫に離婚を突きつけたところ。交渉に訪ねてきたジャックに好意を抱き「ジャックと舞台に立つこと」を条件に舞台出演を承諾します。人前に出たくないジャック=ジャンヌは仮面をつけることと手以外の身体に触れないことを条件に表舞台に立つことを渋々承諾。一方、ジャックと生き別れになっていた双子の兄・ヴィクトール(珠城りょう・二役)は友人の画家・ロートレックとともにパリの街にやってきます。舞台の初日、気持ちが昂ぶったガブリエルはジャックに抱きつき舞台はめちゃくちゃに。混乱の中、そこに居合わせたヴィクトールをジャックだと思い込んだガブリエルは彼にキスしてヴィクトールもあっさり恋に落ち、さらにそれを見たウィリーはヴィクトールに手袋を投げつけ決闘を申し込んで……。

いやー何が驚いたかってまず「十二夜ってことはヒロインが男装するんだろうけど娘役のさくらちゃんが男装? オーシーノ公爵にあたる人物が主役の男役になるの?」などと思っていたら、まさかの男役トップ珠城りょうさんがヴァイオラ役にあたるヒロインをやるってとこですよね。若くしてトップに就任してもう4年も在位してる脂ののった男役が、男装するとはいえ女役を……??? まあ宝塚の代表作がベルサイユのばらで主人公が「男装の麗人」であることを考えれば、そう突飛な設定ではないのですが、それでもフェアリー系の中性的なタイプではなく、たくましい体格の超絶好青年タイプの男役である珠城さんが女役っていうのは「一体どうしてそんなアイデアが企画段階でまかり通ってしまったのか」と思いますよ。でも実際見てみたらこのジャンヌちゃんがほんと可愛くってですね……「ここに来て思いもよらぬ引き出しが開いてしまった」感がすごかったですね。でもまあ逆に言うと長期でトップやってきて十分「男役」を見せてくれた後だからこそできる役でもあるかもしれません……。

ヒロインのガブリエル・美園さくらちゃんは理知的かつ奔放さも備えた現代的な女性のキャラが合っていてとてもかわいかったです。なんといっても衣装の着こなしがとても素敵で! I AM FROM AUSTRIAの女優キャラも良かったですが、短いトップ在位期間に印象的な当たり役を2作立て続けにキメてきたのは良かったですね、退団が惜しい! 支配人役のシャルルを演じたのは二番手の月城かなとさん。ポスタービジュアルではなんだかワルそうなおじさんでしたが、蓋をあけてみたら芝居バカのピュアおじさんで、これはこれで可愛かったです。クライマックスで女衒チームからジャンヌを守って立ちふさがる姿もぐっときましたが、ラストシーンでジャンヌとキスしてしまうのは「男役トップと男役二番手がキスして幕ってどういうこと……!?」と騒然としてしまうやつでした。いやアレが最後に来ると知ってて見ても、何度見てもウィリーと一緒にびっくりしちゃうやつです。

そのウィリーを演じたのは鳳月杏さん、設定的には嫌な男ですがコミカルに演じていて憎めない感じが最高でした。飛び蹴りしたり怒ってフンスフンスしながら歩いたりの姿がまあほんとマンガかアニメでしたね。あと誰よりも後半オペラ泥棒だったのが弁護士・ボリス役の風間柚乃さん。ウィリーに命じられてムーラン・ルージュの掃除婦として女装して潜入するうちに、倒れたダンサーの代役を命じられてカンカンの衣装を着て舞台に上がるけど当然うまくいかなくて……という役どころ。もうこの設定だけで面白いんだけどさすがの芝居心。もうこの「ボリ子」に完全に目を奪われてしまって、うかうかすると話の主軸を追えなくなってしまいそうなくらい。面白かったです。

劇中劇のお衣装も可愛くて素敵だし、美術や音楽もとても良かったですね。そして何がいいってさすが「芝居の月組」といわれるだけあってみんな小芝居がうまいことうまいこと。コメディってどうしてもリピーターがリピートするうちに笑いが減っていきがちだし、宝塚の長い公演期間をリピーターの前で上演するのってキビシイものがあると思うんですが、うまいことアドリブに見えないアドリブを入れて初見の人もリピーターも同時に笑えるようにしてるの、すごいな!と舌を巻きました、ちょうど某コメディミュージカルに出てる役者さんが「ツイッターでネタバレするのはやめてほしい」的なことをTwitterで呟いていらして、まあ気持ちはわからんではないけどネタバレ禁止すんのもどうなんかなあ、と思っていた矢先にこれを見たものですから、「すごいな、これだけSNSでアドリブネタバレ流れてきても3ヶ月間毎日笑えるように芝居してるのか!」「これが本当の喜劇か……!」とちょっと感動してしまいましたよね。

まあどうしても双子二役ですったもんだして「ヴィクトールとガブリエルが恋に落ちる」経緯は強引だなという気がしなくもないですし、最後の最後で女性だとバレたジャック=ジャンヌが「それでいいのさ!」といったあとに「……それでいいのよ」と言い直すあたりは無くても良かったんじゃないかなあと思わないでも無いのですが、それでも「男だって女だって、どっちだっていいじゃない!」のセリフは良かったと思いますね。性別をいったりきたりする役が多い月組らしい芝居という感じがしますね。

そして「ウワー面白かったーーーー!」と興奮してるうちにフィナーレのショーが始まってしまうのですが、これがまたすごかった。コロナ対策で下級生の人数が絞られているのと、場面構成的に娘役がロケットにでられないせいで、男役10年目を迎えた蓮つかささんをはじめいつになく高学年の男役たちががっさりロケットに駆り出されてるという状況。高身長ジェンヌが男役特有の顔圧で出てくるもんだから「私はいまなにを見せられているんだ」という気持ちになりましたよね。この中でまた風間柚乃さんの男顔が目を引くものだから、「ボリ子……!さっきまであんなにヘタクソだったのにこんなに立派に踊れるようになって……!」という謎の感動が。そして、このロケットに出ていたメンバーの多くがすぐに着替えて男役黒燕尾群舞にも出演してるし、黒燕尾群舞がいつになく男臭く重心の低い力強い振付なものだから、もう、なんというか黒燕尾の迫力が半端ない。「こんな圧の強い黒燕尾がかつてあっただろうか……?」という気持ちになりました。いやー面白かったです(いろんな意味で)。

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