宝塚歌劇雪組「fff〜歓喜に歌え!〜/シルクロード〜盗賊と宝石〜」(初見)

f:id:lgmlgm:20210125151313j:plain

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

 

注:勢いで感想書いてますのであんまりネタバレ配慮してません。「謎の女」の正体ははっきり書きませんけれど、未見の方は薄目で読むか引き返してくださいね……

 

行ってきましたァァーーーーー大劇場(本拠地)初日!
ご贔屓様の退団公演の初日チケットが奇跡的に確保できたので、旦那にフライング土下座して「正月、遠征させてください」と頭を下げ、2日分のご飯を用意して、聖地・宝塚で観劇してきました! 四十数年生きてきて初めて知ったんですが、おせち料理って主婦が正月に家をあけて遠征するためにあるんですね?(違います)

「fff(フォルテッシッシモ)ー歓喜に歌え!ー」ベートーヴェンを主人公としたお話。単純な伝記モノというよりは「なぜ彼が第九を作曲するに至ったのか」をメインテーマに据えています。父親から虐げられる幼少期、いくつかの恋に破れた青年期を経て、聴覚を失い、一度は憧れたナポレオンやゲーテにも失望し、かつて恋した女性の死を知って絶望したところから、いかにして第九を書くまでの熱量を取り戻したのか、という物語ですね。主人公である音楽の天才・ベートーヴェン(望海風斗)のほかに、軍事の天才・ナポレオン(彩風咲奈)、文学の天才・ゲーテ(彩凪翔)のエピソードも交えつつ、「謎の女」(真彩希帆)がキーパーソンとなって物語を構成します。

正直なところ初見の感想では、芝居初心者や宝塚初心者におすすめするには少々難解かな、と。抽象的な概念である「謎の女」とベートーヴェンのやりとりや、現実には会ったことのないはずのナポレオンとベートーヴェンの夢の中の会話であったりが芝居の中のポイントだったりするので、そういう演劇的な仕掛けを飲み込むにはある程度観る側にも慣れが必要かな、と思いました。ちょっと観念的な物語だなという印象を受けたのですね。
それと、「フランス革命あたりのヨーロッパの状況はもうベルばらや1789で見てるだろうし雪組ファンならひかりふる路もあったから説明しなくていいよね? ナポレオンも柚希礼音さんが星組でやったからいいよね? ゲーテも彩凪翔さんがバウで一度やってるから説明省くね?」くらいのテンションで物語が進みますので、世界史を全く履修してない人が見るには少々難しいのでは、とちょっと思いました。まあヅカオタならフランス革命ロシア革命と幕末はもう履修済みとして扱われる科目なんで問題ないかなとは思いますが。
さらに、組子にくまなく役を割り振っていて登場人物もまあまあ多いので、組ファンでない方がどこまでそれぞれの役と相関図を初見で頭に叩き込めるか……とも思いました。まあ、トップさんサヨナラ公演ですからこの舞台のチケットが取れるのはそこそこの熱量あるファンだけであろうと見込んで、そういう客層向けに余計な説明がっさりはぶいて物語の密度を上げたのかなとも思うんですけれど。

とはいえ、2回見れば「なるほどこの『炎』のダンサーはルイートヴィ匕の人生を照らす光……つまり生きる力や希望の象徴……ちゃんとブロイニング夫人が答えを言ってたのね」とか「ああここで『運命』の曲を『謎の女』に捧げてるのか、これは笑いを取って茶化してるように見えて伏線だったんだな」とか「このチューバと大砲を融合したような装置はそのどちらでもあるのだな」とか、芝居に仕込まれた様々な演出がいちいち腑に落ちていくので、するすると物語が飲み込めるようになります。初見では100%飲み込むのは難しくても、当時の歴史的背景についてもちゃんとセリフの中で必要な情報は説明してるのがわかりますね。

そうでなくても、終盤のナポレオンとルイートヴィヒが語り合う場面の「天才の目にしか見えない世界の調和の美しさ」を表現していく演出や、クライマックスの第九の場面はアゲアゲの高揚感で気持ちよくねじ伏せられるやつでした。過去最高に動くセリと盆の機構に舞台監督さんを始めとするスタッフ陣の苦労を思いつつも、望海風斗さんと雪組の組子たちの熱量を最大限に発揮させた芝居だったのではないかと思います。あとベートーヴェン・望海風斗さんのfffな歌声と、謎の女・真彩希帆ちゃんのpppな歌声の対比もね、とても良かったと思います。それぞれの持ち味が遺憾なく発揮されていたのではと。

シーンごとの感想はまた後日細かく書こうかと思いますが、好きな場面ふたつだけ触れておきましょうか。ひとつは「謎の女」を家政婦扱いするルイートヴィヒとのやりとりの夫婦漫才ですかね。ここまでまるでエリザベートにおけるトートみたいな存在として描かれてる「謎の女」を「俺に取り付いている疫病神みたいなものだと思っていた」といいながら雑用を命じたりするあたり、コミカルで楽しかったです。まあ明らかにわざと前半は女トート(死神的な存在)みたいな演出をして観客のミスリードを誘った上での家政婦扱いですから、ちょっとメタ的な笑いもあるなと思ったりしました。もうひとつはナポレオンとルイートヴィヒの夢の中の会話ですよね。戦術や国造りと音楽の共通点、天才たちにしか見えない世界の法則の美しさを語らせる場面、とても演劇的で好きでした。前半のナポレオンとゲーテの会話もこの場面のためにある描写だったんだなーと2回目に見ると気づきますね……。

結婚願望を口にしてボヤいてしまうルートヴィヒに対して、ナポレオンが言うセリフに「お前はバカか、誰かといたって人は孤独だ」というのがありました。この芝居から私が受け取ったメッセージをめちゃくちゃ乱暴に要約すると「人は誰も孤独で不幸だ。絶望を抱いて、それでも生きろ、前に進め(あと勉強しろ)」といったものだったのですが、この初日の前日に紅白歌合戦星野源さんが歌った「うちで踊ろう」の2番の歌詞を思い出しました。少しテイストは違いますが、こういうのが刺さってしまう時代なんだな、とちょっとそんなことを思ったので。

「愛が足りない/こんな馬鹿な世界になっても/まだ動く まだ生きている」

「生きて踊ろう 僕らずっと独りだと/諦め進もう」

   *   *   *

さてショーシルクロード〜盗賊と宝石〜」は我らが生田大和先生のショー演出デビュー公演。正直なところ生田先生の作品は何もかもが大好きとは言えないんですけれど、それでもこと望海さんの演出については絶対的に頼できる、と思っていたので(あきらかに望海さんのこと大好きですもんね)、期待しておりました! そして期待通りの仕上がりでありました。

彩凪さん率いるキャラバン隊が狂言回し的に存在しつつ、盗賊(望海)が呪われた宝石ホープ・ダイヤモンド(真彩)を追う物語が中東〜インド〜上海にそれぞれ転生しながら展開していくイメージのショーでした。菅野よう子さんがいくつかの場面の音楽を担当されていて、切なさとノスタルジックさの漂うメロディがとても素敵でした。

これもシーンごとの感想はまた後日書きますが、大好きなのは圧倒的に千夜一夜物語の場面と上海ナイトクラブ「大世界(ダスカ)」ですよね……!どちらも目が足りなすぎ問題が発生してオペラでどこを見たらいいのか困るやつでした。もう最後なのでひたすら望海さん観てましたけども、他も観たい気持ちがウズウズと。ああーS席で観たい……オペラじゃなく肉眼で……。

あのバザールの場面、下級生たちが小悪党として出てきたと思ったらそのうちのひとりが望海さんだし、望海さんが一番かっこよく見えるハーフアップのカールヘアだし、「俺はワルだぜ〜!」とかノリノリで歌っててかわいいし。そうかと思えば逮捕されて一転、ハーレムのセンターにいる王様シャフリヤールが朝美絢で「私のために踊れ」とか言いながら奴隷たちを侍らかして、手錠をかけられた望海さんを足蹴にするという、「アーッこれ生田先生の性癖ですね!ドSのあーさに翻弄される手鎖ののぞみさん!ありがとうございます!」と大歓喜する場面が展開していましたね。いやごちそうさまでした、何度でも通えます……。

そして上海ナイトクラブに出てくるのがあれですよ、「BUND/NEON上海」の劉衛強ですよ。オマージュ的なアレかと思ったらプログラムにそのものズバリ「劉衛強」って役名書いてあるからみんなズコーッってなりましたよね! しかしこの世のすべての苦悩を背負ったような「BUND/NEON上海」の劉はどこへ行ってしまったのか、すっかりキャラ変してパリピになった劉がニッコニコでキメキメで踊ってるではありませんか。これはあれですよね、「あまりに生き様がしんどすぎるキャラに感情移入しすぎるあまり、平和な日常系の二次創作を描いてしまうオタクの性」……まさかの公式からそれが供給されようとは……! いやもう真彩ちゃんのノリノリのラップに乗せてロングチャイナで踊る劉の世界線とか誰が想像しました??? 最高ですね??? しかも、そうかと思ったら一転、このロングチャイナの衣装のままの望海・真彩・彩風のトリデンテによるタンゴですよ……娘役トップを取り合うトップと二番手の絵面、宝塚ではよくあるとはいえ意外にも雪組ではあんまりなかったやつ(20世紀号くらい?)が出てきて萌えっ萌えに萌えたところでいつのまにか望海さんと彩風さんが組んで踊るじゃないですか……「あぁっ??そっち!!??(やっぱり??)」と思ってたら、望彩が組むのはワンフレーズで終わるから「あっ……いまのは歪んだ願望が見せた幻だったのかな……」と思ったんですが、プログラムにも「歪なタンゴはやがて歪んだ結末へと向かってゆき……」って書いてあるんですね。歪なタンゴの歪んだ結末、もっと長くてもよかったんですよ????

あともうひとつ最後に触れておきたいこと(菅野よう子さんもプログラムのコメントで最後に触れていましたが)、「盗賊と宝石」の歌詞ですよ……。
「共に歩んだ旅路の果てで/最後にもう一度/君の最後を/僕が奪おう/誰にも渡さない」
いやーーーーーこれ望海さんが真彩さんに向けて歌う歌詞としても滾るやつなんですけれど、「生田先生が望海さんに捧げる歌詞」として聞くとまた違う滾り方をしますよね……どっちかというとそっちのほうが歌詞の状況的にしっくりきてしまうじゃないですか。共に歩んだ旅路の果て、「君の最後(のショーの演出)を僕が奪おう 誰にも渡さない」ってぴったりすぎてもう、関係性大好きなオタクとしては真顔になってしまうやつですよ……

中盤のインドのとこは「突然ボリウッドダンス始まった……」と思いましたし、神々のお衣装は若干トンチキ味を感じなくもなかったですが……まあ、これはこれで。フィナーレの黒燕尾、青いバラを望海さんから彩風さんに託す演出もまあベタっちゃあベタなんですが、そう言いつつも泣くやつですよね。トップコンビのデュエットダンスも白いキラキラなお衣装の夢々しいやつで「はー最後の最後にめでたい結婚式をありがとうございます……!」と思いました。楽しかったです!いいサヨナラ公演でした!

 

www.youtube.com