宝塚歌劇花組「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」@東京国際フォーラム ホールC

f:id:lgmlgm:20210125144741j:plain

出典:宝塚歌劇団公式ホームページ

マシュー・ブロデリックとケリー・オハラの主演で上演されたブロードウェイ・ミュージカル・コメディが花組で! というわけで見てきました。トニー賞授賞式のパフォーマンスを観て「観たいな〜」と思っていた作品だったんですよね。

舞台は1920年代、禁酒法時代のNY。スピーク・イージー(もぐり酒場)で独身最後の夜を謳歌するのはプレイボーイで金持ちボンボンのジミー(柚香光)。酒場の裏でボーイッシュな女の子・ビリー(華優希)と出会うが、彼女は酒の密売を生業とするギャングの一味。酔っ払ったジミーの話から「ロングアイランドに使われてない別荘がある」と知ったビリーはそこを密輸した酒の隠し場所にしようと大量の酒を持ち込むけれど、「使ってない」と言ったはずのジミーが婚約者アイリーン(永久輝せあ)を連れて別荘にやってきたからさあ大変。ビリーの仲間・クッキー(瀬戸かずや)は執事に、デューク(飛龍つかさ)はコックのふりをしてその場をしのごうとするけれど……という物語。

正直なところ脚本の出来は大味なところがあり、登場人物の嘘がいかにも安っぽく「いやいやそんな嘘には騙されないだろう」という気持ちになってしまって正直ストーリーには乗り切れない部分もあるにはあったんですけれど。まあしかしそうはいってもガーシュウィンの音楽は偉大というか。ガーシュウィンの耳慣れた曲が始まることによって脚本のアラは有耶無耶にされ、曲の良さと華やかなダンスパフォーマンスで「まあ、いっか!」という気持ちにさせられる、という印象でした。「緻密なコメディ」を求めてると相当物足りない作品ではあるんですけれど、「芝居仕立てのガーシュウィンナンバーショー」だと思って観るととても楽しい舞台でした。花組ファン、キャストのファンならとても楽しめる作品だなと思いましたよ。トップコンビのラブコメぶりもたっぷり楽しめますしね。

そしてなんというかこのまったくもって跡継ぎとしては使い物にならなそうな金持ちボンボンを嫌味なくキュートに演じる柚香光さんのスター性よ……。いや、これもともとマシュー・ブロデリックの役なんでしょ……本当に……? とちょっと思ってしまいましたよね。プロデューサーズのレオしか観てないんですけれど、それでもちょっとこれを演じるマシューが想像ができないというか。柚香さん、もしかして本家より全然はまり役なんじゃないか、というか、これ宝塚の男役でないとなぎ倒せない役なのでは……とちょっと思いました。それとなにより今回しみじみ思ったのが、「はいからさんが通る」の少尉といい、「花より男子」の道明寺司といい、今回のこのジミー役といい、「ヒロインを世界でたったひとりの特別な女の子」にしてしまう柚香さんの「恋に落ちた芝居」は本当にすごいな、ということでした。どんなに他の女の子と浮名を流していても、ヒロインに対して恋に落ちた瞬間「もう他の女性なんか見えない、君しか見えない」という状態になるあの芝居、ほんと宝塚の男役として正統派にして大正解だな!と感心してしまいました。まさに理想的な少女漫画の相手役じゃないですか……。

たぶん原作はもうちょっとお色気というか下ネタ的なギャグもあったんだろうなと思わせる場面もいくつかありましたが、うまいことすみれコードギリギリのラインに処理して演出していましたね。原田諒先生は「20世紀号に乗って」といい「ピガール狂想曲」といい今回の「NICE WORK…」といい、ほんとコメディ演出が上手いな……!と感心しました。重厚で偉人伝的な歴史劇もいいけど、もっとコメディやっておくれよ……と思いましたよ。

 

あとはまあどうでもいい感想として、(ごく一部の人にしか伝わらないと思うんだけど)、あの「床面が不自然に高いベッド」を見てると、ベッドの下から禍々しい白鳥たちが這い出してきて主役を食い殺す幻を見てしまうのが困りました……(マシュー・ボーン白鳥の湖の幻影が……)。さらに、雪組ファンとしては昨年の「ONCE UPON TIME IN AMERICA」とまさに同時代の話だけに、「あの時ヌードルスやマックスたちが憎んでいたアメリカがここにある……!」という気持ちで少々複雑な気持ちにもなりましたよね。あのときヌードルスがデボラのためにめちゃくちゃ張り込んでロングアイランドのレストランに予約いれてたのに、そこに別荘かよ!くそ!お金持ちめ!みたいな、立ち位置不明な感想が湧きました。

 

↓動画はブロードウェイのカンパニーのものです。ダンスが華やか!