スーパー歌舞伎2「空ヲ刻ム者」@新橋演舞場

スーパー歌舞伎は1986年に「ヤマトタケル」で始動、2003年の「新・三国志III」を最後に新作はかからなくなっていたけれど、今回は11年ぶりの新作。当代の猿之助を中心に、イキウメの前川知大が作・演出をつとめ、佐々木蔵之介浅野和之福士誠治といった現代劇の俳優を迎えるという意欲作。私もスーパー歌舞伎は10年以上前に一度見たきりになっていましたが、久しぶりにチケットを取りました。

舞台は中世あたりの日本(特定の時代を表す表現は無かったような)。若く才能のある仏師・十和(とわ・猿之助)は、人々の暮らしや母親の命を救うことのできない仏教に懐疑心を抱いて仏像を破壊する。十和の腕を切り落とそうとする役人に対し、見習いの伊吹(福士誠治)は身替りとなって腕を差し出す。十和は怒って役人を殺して村から逃亡。一方、十和の幼なじみ・一馬(かずま・佐々木蔵之介)は、生活に苦しむ人々を救うべく役人を目指す。都の役人・長邦(門之助)とその妻・時子(春猿)は一馬の志を知り、「摂関家を倒すために共に戦おう」と一馬を仲間に引き入れる。牢獄に囚われていた十和は女盗賊の双葉(笑也)と知り合い、脱獄して双葉率いる義賊の仲間になる。十和は九龍(くろう・右近)という仏師に出会って再び仏に目覚め、仏像を掘り始める。一方で一馬は長邦に命じられて、双葉たちが守ってきた村を焼き農民たちを殺してしまうのだった。十和の仏像は評判となり、長邦は反乱を起こすためにその仏像の力を借りようと十和の捜索を一馬に命じる。十和が掘りかけの不動明王の前で悩んでいるところへ一馬と稀久(猿四郎)が現れて仏像を依頼するが、九龍が断り、役人に切られる。それを見た十和が不動明王を完成させると、魂が宿って不動は動き出すのだった。その数日後、仏像をとりにやってきた一馬に、自分の心を取り戻すよう諭す十和。一馬のために掘ったという仏像はただの木屑であり、「仏は拝むものの姿を写す鏡」「お前の心は空だ」という十和。改心した一馬は稀久を切り、不動明王は時子らを倒す。十和と一馬は農民の反乱を止めるため、不動明王の力で空を飛んで現地に向かうのであった……。

と、まああらすじはこんな感じ。終盤にスーパー歌舞伎らしい派手な演出はあるし(「空を刻んだ」仏像、を表現して厨子から木屑が噴き出すあたりとか)、大詰めの立ち回りは派手で見応えもある。「仏(あるいは仏教、仏像、仏師)とはなにか」をひたすら追求する十和や、「理想の政治とはなにか」を追求する一馬が、それぞれにダークサイドに堕ちたり正道に戻ってきたり、さらに仕事や理想と友情の板挟みになったりと、話の骨組みはシンプルでありながら様々な対比が効いていて面白いのだけど、ただこれを4時間40分かけてたっぷりやるとなると、いまいち焦点もボケるし、正直眠気は禁じ得ないような……。そもそも最初の口上、無くても良かったんじゃ……、とか、転換がどうしてももったりしちゃうからもうちょっと工夫して無駄な間を削ってほしい……、とかとか……。いや、私も花粉症の症状が出て無ければもうちょっと集中できたと思うんだけど。
Twitterでも私の周辺ではこの「4時間40分」の上演時間がかなり話題になりましたが、普通の芝居2本分以上、なんならいつもの前川さんの芝居なら3本立てくらいの上演時間、それを考えるだけで見る前から「……(遠い目)」となってしまいます(いや、そんなこといったらそれを一日2回上演するスタッフキャストの皆さんはもっと大変なのは重々承知ですけども……)。せっかく狂言回しとして浅野さんがいるのだから、転換時の場つなぎとかシーンの省略とかにもう少しうまく活用して(こき使って?)あげてほしい。

そして、これを言ったらもうそれまでよなんだけど、「本来地味なはずの仏師の衣裳がやけにきらびやか」とか(役の順列に応じてラメや金糸が盛られていくのは商業演劇的なお約束だけれども)、音楽のかかるタイミングや音量がどうもいちまいち気持ち悪い(インストのサビにあたる部分だけをやたらブツ切りでリピートする)、とか、主人公がやたら心の声や物語のテーマを正面向いて客席に向かって力説する(わかりやすいのはわかりやすいけど、現代劇に慣れた身にはクドすぎて観客の想像力を甘く見られてる気がする。見ていれば伝わることはいちいち言葉で説明してくれなくても良いのです……)、など、いわゆる「スーパー歌舞伎の様式美」の部分が私は苦手だったんだな、というのを再認識しました。これにどうしても慣れることができず前に観るのをやめていたんだったなあ……と思い出し、この様式美が見事に当代猿之助さんに受け継がれてしまったことをちょっと残念に思ったり(いや、もちろん先代のスーパー歌舞伎が好きだった方にはこれは嬉しいことだと思うのだけれど)。まあ「そこがスーパー歌舞伎なんだから」と言われたらその通りだち思うし、そこに文句を言うのは「歌舞伎で見得を切る」とか「宝塚は女性が男を演じる」とかごく当たり前のお約束ごとに文句を言ってるようなものだとは思うのだけれどもね。ただ三国志のような時代物やヤマトタケルのような神話ベースの話なら「主役の衣裳が派手!」なのも違和感は無いのだけど、どうしても「才能のある仏師とはいえ、他の村人と生活ランクは同じレベルのはずの主人公だけがやたら白塗りでド派手な衣裳を来ている」というところから気になってしょうがないんですよね……。うん、そこに文句を言うのはまったくもって無粋なことだとわかっているけれど。

まあそんなこんなでブツブツ文句をいいつつも、最後の立ち回りや宙乗りはもちろん楽しみましたし、何よりこの若がえったスタッフ・キャストでの興行が大盛況だというのは嬉しい話ではあるわけで。前川さんも今回は色々戸惑うことも多かったんじゃないかと思うけれど、次回はぜひもっと自分の色を前面に出した作品を作って欲しいなと思うわけです。宇宙人とか異世界の生き物や概念が出てくるSFで歌舞伎、とか、すごくアリだと思うんだよなあ!

http://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/2014/03/post_56.html

スーパー歌舞伎II(セカンド)
「空ヲ刻ム者―若き仏師の物語―」

作・演出:前川知大
スーパーバイザー:市川猿翁
美術:堀尾幸男
照明:原田保
音楽:長沢勝俊、藤原道山
衣裳:毛利臣男
音響:山貝孝
振付:尾上菊之丞
舞台監督:井口祐弘、林和宏
【配役】
十和 市川 猿之助
長邦 市川 門之助
双葉 市川 笑也
菖蒲 市川 笑三郎
興隆 市川 寿猿
喜市 市川 弘太郎
時子 市川 春猿
吾平 市川 猿弥
九龍 市川 右近 
伊吹 福士 誠治
鳴子 浅野 和之
一馬 佐々木蔵之介

四代目市川猿之助によるスーパー歌舞伎IIがついに始動!
ここにあらたな伝説が生まれる――

 2014年、四代目市川猿之助がかつてない演劇空間を目指し、ついに始動! その名はスーパー歌舞伎II(セカンド)!!
 三代目市川猿之助(現猿翁)によって創造されたスーパー歌舞伎。そのスピリットを継承した四代目市川猿之助が、現代の演劇界を代表する才能たちとともにまったく新しい舞台空間を創造します。
 共演はスーパー歌舞伎を彩った歌舞伎俳優とともに、佐々木蔵之介をはじめとする現代劇俳優たち。そして作・演出は新進気鋭の劇作家・前川知大。最高のキャスト、スタッフを得て、スーパー歌舞伎II はあらたなる旅立ちを迎えます!

 舞台はいにしえの日本。
 ある山間の村に、十和(とわ 市川猿之助)という才能に恵まれた若い仏師がいた。しかし彼は、村人たちの暮らしも病床の母親も救うことのできない仏教に苛立ちを募らせていた。
 十和の幼なじみの一馬(かずま 佐々木蔵之介)も不作に苦しむ村人たちを憂い、彼らの暮らしをよくするため、都に出て官吏の道を選ぶ。一方、母の死と都から来た役人との争いから十和も村を出なければならなくなる。その後、牢に入れられ、盗賊と交わりながら成長する十和。かたや都に出たものの下級役人として無力感を募らせる一馬。それぞれの思いを胸に別々の道を歩んだ十和と一馬。一度は分かれた二人の道は、やがてまた交わる日を迎えるのだが…。