新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」ディレイビューイング(前編&後編)

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出典:「新作歌舞伎 風の谷のナウシカ」公式サイト

結論としては面白かったです!
昼夜通しの長い公演なので12月の上演時にはスケジュール的に観るのを断念していたのですが、ディレイビューイングだけはなんとかがんばって時間作りました。長尺の芝居だけあって全部が全部見せ場とはいかず、「すごくいい場面」もあれば「退屈を感じる場面」や「もうちょっと絵的になんとか…」と思う場面もあったり、というのが正直な感想ではあります。もう少し脚本演出ともにブラッシュアップの余地はありそう……とは思いつつも、それでも原作をうまいこと歌舞伎に仕立てていて、総じて楽しめる作品になってたと思います。七之助くんのクシャナ様っぷりと大詰の演出だけでも見る価値大いにあり!な作品だったのではないでしょうか。

歌舞伎でナウシカ……?どうやって……?と企画が発表されたときは思いましたが、王蟲を始めとする蟲たちの美術、オープニングの腐海なんかの美術もすごくよくできていたと思います。腐海の美術にタイトルがバーンと出たときは「おお……!」となりましたものね。テトはぬいぐるみで黒子さんが動かしているのはご愛嬌なんですが(歌舞伎ファン視点だとさほど違和感ないんだけど、歌舞伎ファン以外からみるとやっぱり微妙らしい)、トリウマなんかも割としっかりトリウマだったり、あと上半身だけとはいえ巨神兵もしっかり出てきました! すごい! 

ストーリーは映画版のほうではなくコミック版のほうを下敷きにして全7巻を最初から最後まで凝縮。どちらかというと全体的に「歌舞伎にしやすい場面」をチョイスして組み立てた感もありました。全体の流れはまあ伝わってはくるんですが、それでも原作を知らないとやや伝わりづらい部分や完全に咀嚼しきれない部分もあるかなあ……という感じでした。原作版は一度読んだことがあるんですが細部を忘れてしまった状態でディレイビューイングを観たので、ちゃんと原作を復習してから観るべきであった、と思いました。なんとなく核の部分がふわっとしたまんま終わっちゃった気がしたので。あと映画で印象的な「その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」のあの「金色の野」の場面もあったのですが、黄金の布を舞台いっぱいに広げて揺らす……という感じで、スクリーン越しに観ちゃうとなんとなく「ああこれがやっぱりアナログ表現の限界なのかなあ」と思ってしまう演出でした。実際に劇場で観たらまた違った光景にみえたのかもしれませんが。

やはり圧巻だったのはラストの「墓の主vs巨神兵」の連獅子だったような気がします。ただ獅子が対決するだけだったらさほど驚かないし「ああいかにも歌舞伎っぽいねー」で終わったと思うんですけれど、後ろで「赤獅子のアンサンブル」と「白獅子のアンサンブル」が激しく踊るという群舞なんですね。振り付けもややコンテンポラリーダンスっぽい感じもあり、「韃靼」のクライマックスのような高揚感がありました。いやーあれは歌舞伎ファンでもちょっと見ない演出でしたね、盛り上がりました! 映画が終わって客電がついた瞬間にあちこちから「連獅子……!」という声が聞こえて「それな」と思いましたよ。

そしてなんといっても七之助丈演じるクシャナ殿下の3次元再現度が素晴らしかったですね……。他のキャストは比較的「ああ、あの役を歌舞伎的に翻訳するとこうなるんだな?」みたいな感じで、見慣れて飲み込めるまでに少し時間がかかる感じが正直あるんですけれど。クシャナ様だけはもう出てきた瞬間から「はい正解ー!100点満点ー!」という感じで、もうすっかり気分は臣下でございましたね……。これは舞台を見た人が口々に「クシャナ様のためになら死ねる……」と言いながらブロマイドを胸に抱いて帰ってくる気持ちがわかりました。私も帰ったら噂の「クシャナ様の12番」をポチらねばならない……と思いましたよ。

あとユパ様やミトじいあたりもビジュアルがアニメよりで「正解!」という感じでした。本水使った大立ち回りの場面でユパ様が腕をクロスさせてジャンプするアニメそのまんまの場面があったんですけど、あれも「再現度〜!」と思いましたね(コレをこの角度で撮るためにここにカメラ置いたね?と思うアングル!)。水で足元滑りそうで怖いですけどよくやったな!と思いました。怪我されなくてよかった……。あと亀蔵さんクロトワとかも最初は「お、おう、歌舞伎にするとこうなるんね?」という感じだったんですけど、弁天小僧の見顕しパロディあたりから俄然テンション上がってきますね。黙阿弥っぽい七五調のセリフ、すごく良かった! 巳之助くんのミラルパとかも「ザ・怨霊!」という感じの隈取で迫力ありました。最初ベテランさんがやってるのかと思って名前確認したら巳之助くんだったのでびっくりしましたねえ。ほんと巳之助くんはこういう2.5次元歌舞伎でいい仕事してると思います。あとみんな言ってるけど「庭の主」の芝のぶちゃん!女声と男声を二色つかいわけての芝居、さすが〜!「夜長姫」とかもそうだけど、やっぱりこういう声色を使い分けるお役は歌舞伎俳優さんが演じると凄みがあっていいですよね。

長尺のため全部が全部感想を書ききれてない部分はありますが(他にもあーあそこが良かったとかあそこはどうだったとか色々あったはずなのですが)、総じて楽しかったです。この企画の発案者の菊之助くん、公演始まったばかりのところでトリウマから落下して怪我をするということもあって心配しましたが(ワンピース歌舞伎の猿之助さんの怪我を思い出してザワっとしましたよ……)、負傷を感じさせない熱演だったと思います。ナウシカそのものは歌舞伎に翻案するのが難しい役柄だったように思いますし(やや可憐なお姫様系の型に振らざるを得ない感じでしたね、ああいうタイプの女性は歌舞伎には存在しないのか……)、インパクトのあるクシャナ様なんかのほうが「美味しい」役のような気がするのですが、それでもあえてセンターに立つ覚悟、素晴らしかったと思います。おつかれさまでした!

 

↓これがかの有名なクシャナ様の12番でござい

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