「ふくすけ」@シアターコクーン

「ふくすけ」は初演の悪人会議版は未見、再演の日本総合悲劇協会版は見ています。個人的には松尾スズキ作品の中ではベスト3に入る傑作だと思っていたので、古田新太も出演するこの再々演を楽しみにしていました。前回から14年、もしかして記憶が美化されてるのではないかと思ったりもしましたが決してそんなことはなく。今回も悪意と毒に満ちたパワフルな作品にこってりと胸やけ感と疲労感を味わって帰って来ました(←褒め言葉)。以下、あらすじと感想を。

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【あらすじ】(公式サイトより引用)
冴えない中年男、エスダヒデイチ【古田新太】と、精神のバランスを崩し告訴魔となってしまった妻マス【大竹しのぶ】。ある日行方不明になったマスを、ヒデイチは14年も探し続けている。ヒデイチの協力者であるホテトル嬢のフタバ【多部未華子】の伝手で自称ルポライター・タムラタモツ【皆川猿時】から、マスは歌舞伎町にいるらしい、と情報を得たヒデイチは上京を決意する。

とある病院の怪しい警備員コオロギ【オクイシュージ】は盲目の妻サカエ【平岩紙】に歪んだ愛情を抱き、サカエはコオロギを献身的に愛していた。そんなある日、コオロギの勤める病院に一人の奇形児が入院することになり。

テロリストであるコズマ三姉妹【小松和重江本純子宍戸美和公】は、食うや食わずの境遇から歌舞伎町の風俗産業で一発当てて、飛ぶ鳥落とす勢い。ひょんなきっかけでマスと出会い、生み出した<一度死んで生まれなおすゲーム>輪廻転生プレイが大ヒット。裏社会に影響力を持ち、政界にまで進出しようと企んでいる。

薬剤被害で奇形児として生まれ、長い間製薬会社によって監禁されていたフクスケ【阿部サダヲ】が発見・保護された。彼を監禁していた製薬会社社長ミスミミツヒコ【松尾スズキ】は逃走している。保護されたフクスケの行く末は?ミスミの目的は?

様々な思惑を持った人間たちが『フクスケ』を手に入れようと、悪意と愛情が交錯する―!

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感想。
今回もキャストは豪華だけど、前回のほうがアングラ感は強かったかなあとも。キャスト対比表は後に記しますが、こうしてみると「片桐はいり綾田俊樹、美加理」が「大竹しのぶ古田新太多部未華子」に変わったんだもんねえ。否応なくアングラ感がメジャーな華やかさに。なんといってもフクスケ役の阿部サダヲがこの14年間で得たメジャー感はハンパ無いし。まあその分、役者の個人技のインパクトよりもストーリーが明確になった気がして、脚本の骨格の強さを改めて再認識した。最初はとっ散らかったように見えたバラバラの物語がそれぞれ暴走しながら最後一点に収束していく様はやはり見事。これを20代の時に書いた松尾さんは本当に天才としかいいようがない。個人的には岸田戯曲賞の「ファンキー!」よりもずっと良く出来た作品と思うのだけど。

キャスト。やっぱり同じ役でも演じる人が違うとずいぶん印象が違うものだなあと思った。以下どうしても再演と比べる感想になってしまうけど。

まずヒデイチとフタバの対比からして違う。綾田俊樹さんのヒデイチは物語の中で唯一「普通」な人というか、感情移入しやすい人物だったというか。だからこそラスト幕切れのインパクトが強かった。フタバの美加理さんもク・ナウカで人外キャラばかり演じてるイメージがあるからか、どこか浮世離れして人間臭さのない風俗嬢に見えたんだけど。今回は逆で、古田さんは一見普通に見えるけど「ああどこかでキレるんだろうな」という抑圧感が最初から漂っている一方、多部未華子ちゃんのフタバは比較的このメンバーの中では「普通」に属する人間に見えるという不思議。再演の時の映像みると美加理フタバがタモツの部屋でコカイン吸ったりしてるんだけど、今回はそれが無くなってた気がするので(記憶違いだったらスミマセン)、キャラづけも多少変えてはいるのかも。

片桐はいりさんのマスを演じた大竹さんは、まあ予想通り。芸風が強烈だから想像しやすいんだよね。でもやっぱり狂気役者だなあ上手いなあと思いながら見ていました。放送禁止用語で暴言を吐くのがまあ似合うこと。あと個人的には再演でのレイジ役のクドカンが凄い好きだった、というのを今回のを見ながら猛烈に思い出したね…。執事スーツ姿ってのも良かったんだけど、レズのヒロミに手を出す瞬間のエロさといったらね! もう! 「あああの時のクドカンは本当にワルでカッコ良かった!」などと少路さんを見ながら思い出しててスミマセン本当に。平岩紙ちゃんとオクイシュージさんの夫婦役も悪くはなかったけど、やっぱり松尾スズキ犬山犬子夫婦のほうがナチュラルに狂ってる感じがあって良かったかなあとも。

あ、そうそう。小松和重さん一体どの役やるの? と思っていたら三姉妹の長女だったので噴きそうになった。だて銀粉蝶さんの役だよ……想像つかないよ。でも意外に似合ってた!

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いちおう初演再演再々演のキャスト表を主要なところだけ。

出演      悪人会議   日本総合悲劇協会  今回

エスダマス  :深浦加奈子   片桐はいり    大竹しのぶ
エスダヒデイチ:山崎一     綾田俊樹     古田新太
スガマナツオ :温水洋一    阿部サダヲ    阿部サダヲ
コズマエツ  :片葉みはる   銀粉蝶      小松和重
コズマミツ  :田中章子    宍戸美和公    宍戸美和公
コズマヒロミ :伊勢志摩    伊勢志摩     江本純子
レイジ    :長岡尚彦    宮藤官九郎    少路勇介
フタバ    :戸村由香    美加理      多部未華子
タムラタモツ :林和義     皆川猿時     皆川猿時
ミスミ製薬社長:岡本圭之輔   山本密      松尾スズキ
コオロギ   :松尾スズキ   松尾スズキ    オクイシュージ
サカエ    :胃山人恵    犬山犬子     平岩紙
看護婦チカ  :池津祥子    池津祥子     中尾ちひろ
ミッチィ   :鈴川麻王    猫背椿      羽鳥名美子