【過去記事】「エリザベート」2001年初見の感想

現在2022年なのですが、20年たった今でも初演バージョン「エリザベート」の当時の感想記事のことを思い出して検索してくれる人がいるので、久々にデータをサルベージしてきました。もうすっかりエリザや宝塚が血肉になってしまった今となっては「なぜそこに驚く?」「なんでそんな当たり前のことにウケてるの?」と思ったり、「ずいぶん失礼なことを書いているな」と思うことも多々あるのですが、当時の衝撃のままの率直な感想を残しておいたほうが面白いかと思うので、「ごめんなさい」と詫びた上で当時の若造の感想をそのままコピペしておきます。

わざわざそこに脚注いれなくてもいいのでは?と思ったりもするとこまで脚注がはいってますが、当時はこの解説が必要だったんでしょうね…「やおい」の文字列にわざわざ解説をいれてるところを見ると、おそらくまだ「腐女子」「BL」の単語も一般化してなかった時代です。当時はLGBTなんて言葉もなく、同性愛を扱ったテーマの作品なんかも(もちろんあるにはありましたが)今ほど当たり前ではなく、男性同士のラブシーンも割と稀だった時代だったはずです。

いまや解説なんていらないはずの井上芳雄氏についても、当時はミュージカルファンにしか知られていなかったのでわざわざ脚注いれてるところが感慨深いです…。

また内野さんの歌唱力についての言及も初演当時の状況を反映してそのままにしてあるので「失礼な!」と思われることと思いますが、レミゼ出演の頃には立派なミュージカル俳優としての歌唱レベルに達していたことは私もよく存じております…

 

というわけで色々と怒られそうな記事ですが、以下、2001年当時の感想です。

 

     *     *    *

 

2000年6~8月の初演は満員御礼の大盛況、リピーター続出、今年4月の再演はあっという間にチケット完売……という話題のミュージカル「エリザベート*1見てきました。チラシのイメージ写真やら去年の舞台写真やら見て「これは(いろんな意味で)凄い」とは思っていましたが、本当に凄かった……。
もう3時間の間、笑いが止まりませんでした。そもそもこの写真を見た時、優に3分は笑い続けていたのだったけど、その時の衝撃をはるかに上回る破壊力を持ったミュージカル。冷やかし半分で見に行ったにも関わらず、すっかりハマってしまってWキャストの両トートバージョンを観てしまいましたがな。そんなわけで久しぶりに気合いを入れて感想文など書いてみようと思います。

ジャイアンのリサイタル


そもそも去年のチラシのイメージ写真観たときに「あの内野聖陽*2が!」と一瞬の思考停止状態に陥ったトート役のこの写真。悪いけど完全にどうかしてる。まるでビジュアル系ミュージシャンのような銀髪巻毛&美白メイク。「く、狂ってる!」と会社で1分は笑い続けていた私。でも動いたらカッコイイかも。ミュージカルはあまり守備範囲じゃないものの、さすがにコレはコワイ物見たさで観てみたい……。それにしても内野氏、バリバリの新劇役者なのに歌えるのかなー、と思って去年見に行った某編集者(男性)に感想を求めたところ、「いやーもう、内野の歌はねぇ……壊滅的。」か、壊滅的ですと?「全然音程あってないんだよ。でも声量は十分あって堂々と歌うもんだから、なんて言うの? もう、ジャイアンのリサイタル状態?」……ひぃぃぃ。大変! それは観なきゃいけないわ!「絶対山口祐一郎のほうが歌うまいと思うよ。でもあの内野のヒドイ歌はぜひ聞いて欲しい」というススメ(?)に従って、とりあえず内野トート版のチケットを入手してみました。

■黄泉の帝王トート閣下、なぜか大増殖。

で、実は今回初めての帝劇。行き慣れた下北沢との客層の違いにおののきつつ開演を待つ。客電が落ち、観ると下手からその銀髪巻毛&黒いコート姿で顔は白塗りのトートがさっそく登場……と思いきや、その後ろからさらにもう一人同じ格好のトートが。「え?」と思ってよく観ると上手からも同時にまったく同じ出で立ちのトートが2人。「と、トートが4人?」とか思ってみているとまだまだトートがわらわらと登場。舞台には増殖してしまった合計8人のトートが! そんな姿の男が8人も意味無く舞台に立っている様を想像して欲しい。軽く思考停止状態に陥ったところで舞台の幕が上がる。

 

オープニングはこの舞台で狂言回しの役割を演じるルキーニ(エリザベートを暗殺した男・高嶋政宏)が首を吊っているところから。そして死者の国ではこれから重要な登場人物になるであろう人々&8人のトートが歌い踊る。やたら腕をブンブン振り回したりビシビシ伸ばしたりして「うわー、いかにも大島早紀子*3振付っぽい!」。つーか私もそれほどミュージカルをたくさん観てるわけじゃないが、これはどう見ても通常ミュージカルではありえない振付なんじゃなかろうか。通常ミュージカル慣れしてない人間にとっては「突然歌い出す、突然踊り出すのがミュージカルはおかしい」と思うものだが、少しはミュージカル文法を受け入れつつ観ている私の目にもこのダンスはあまりにも必然性がない。まさか大島振付とはいえここまでやるとは思わなかった。もうちょっと「いかにもミュージカル風」にアレンジして来るかと思っていたのだけど、容赦なくぐるんぐるんと踊らせている。それはもうものすごいイキオイで。

 

そして歌が止まり……ルキーニが舞台後方を指す。さぁいよいよ大本命トート閣下の登場だ! と思ったら、なんとゴンドラに乗って手にした骸骨を見つめつつ陶然と降りてくるトート。もうダメだ。この時点で声を殺して笑い出す私。しかも衣装が微妙にフリルっぽいし……。しかし、トートが歌い出すと同時に客席に走る手に汗握るような緊張感。「いつ音程をハズすか」という期待と不安に満ちたハラハラ感が会場を埋め尽くしているのが解る。そして歌いおわった 内野トートをリフティングするトートの分身たち(写真は山口版)。そういえばトートダンサーと呼ばれていたのはこの人たちだったのか……。そして客席を見据えたり流し目送ったりしつつ、コートをばさぁばさぁぁと翻してキビキビと踊る内野トート。そりゃあもう娘さんたちが心の中で「キャーー内野さまーーー!」と叫ばずにはいられないカッコ良さ満載で! 開演5分にして、ワタシ的にはもう掴みはOK。もうコレだけで十分面白すぎるってば!

 

■回る鹿、回る鹿、回る鹿……

さて主役、一路真輝*4演じるエリザベート(愛称シシィ)登場。奔放で旅好きな父親とのデュエット。しかしこのパパが歌ヘタなんだ。さっきの内野トートの歌より断然音程あってないよーーー。新劇畑の人みたいだから仕方ないのかなぁ。さてシシィはブランコから落ちて死にかける。そこでまた分身トートがブンブンとものすごい勢いで踊り狂う中、舞台上の丸い盆の上に乗ったテーブルでなぜかチェスをするトート閣下がぐるーーーぅりと登場(この盆の使い方もなんか間抜けだ)。シシィを見た内野トート、ここでひと節熱唱。

「♪禁じられた愛のタブーに オレは今踏み出す~」


……すごい歌詞*5だな、おい。またしても客席に走る緊張感。ちょっとはハズしてくれないかなーとイケナイ期待をするが、語尾の処理がやや不安定ながらもほぼ音程通り。無事に歌唱タイム終了。客席がほっと安堵に満ちた拍手で満たされるのだった(それもいかがなものか)。



さてシシィに惚れたトートは彼女を人間の世界に戻してやる。そしてこの瞬間からトート閣下のストーカー生活が始まるのだった。さて、姉の見合いでアルプスの麓に連れて行かれたシシィ。森の中なのかなんなのか知らんが、突然さきほどの盆に載せられて動かない二体の鹿人形がぐるーーーーーぅりと登場。なんかこれも言いようのない間抜け感を醸し出しているのだ。思わず失笑。すると「まぁ♪」という笑顔を浮かべたシシィがその鹿の顔をなでてやったり花の首飾りをかけてやったりするからさらに間抜けだ。いくらなんでもこの鹿はないだろう。もしここにいとうせいこうみうらじゅんがいたら、ものすごいイキオイでツッコミがはいるぞ……。それはさておき、ここでシシィの姉と見合いするはずだった皇帝フランツは妹のほうに一目惚れ、彼女と結婚することに。

■トート閣下はコスプレがお好き

そして二人の結婚式。なぜか司祭姿で登場のトート閣下。こ、コスプレ? かぶり物がなんかちょっとスゴイ。ああ、トート閣下が3等身に! この後も何度か彼はそのシーンごとにいろんな人物にコスプレして登場してくるのだが、その様がなんだか「悪魔の花嫁」*6を彷彿とさせて可笑しい。というか、実に微笑ましい。

 



さて結婚式が終わり、舞踏会で踊る皇帝とシシィ。そこへ不吉にも登場する黒コート姿に戻ったトート閣下。なんだかズルズル音がするなーと思ってよく見ると、トートの後ろの階段の上から、まるで死体のようにズルズルと沸いて出る分身トートたち。頭からズルズルと階段落ちするトートあり、手すりにぐったりと寄りかかったままズリ落ちてくるトートあり、なんかもう……ゾンビ状態? そこでまたトート閣下、嫌がるシシィを階段の手すりにムリヤリ押しつけたりして迫りながら(このシーンがまた女子の心にはグッと来る)、ひと節熱唱。この歌がまたスゴイ。「♪最後のダンスは俺の物 最後に勝つのはこの俺だ」とかそんな歌詞だ。しかも最初はゆったりとしたナンバーなのに、サビで突然ドラムが入って8ビートに。一気に舞台は歌謡ショータイム化。内野閣下、大暴走。



♪さいごーのーダンスはー おれぇぇーのぉもぉのおぉぉーー


さいぃごーはー おれぇぇーとぉぉー 

おどーるーー
さぁぁぁぁだぁめぇぇーーー♪

 

そんな歌*7を歌いながら、エリザベートの服(マント?)をはぎとってばさぁぁぁっと投げ捨てるトート。その周りでワラワラブンブンと踊る分身たち。しかも踊り狂うトートダンサー同士がなんの脈絡もなくなぜか抱き合ったりキスしたりするからたまらない。……ダメだ。もう殺してくれ。笑い死ぬ。



 

エリザベート結婚初夜の後は、皇后ゾフィとの嫁姑戦争。せっかく子供が何人か産まれても姑に取られたりとか旅にムリヤリ連れて出た娘が死んだりとかそんな数年。そんな間にも帝国を倒そうとする革命家たちとか帝国崩壊へ至る政治的背景なんかが描かれたりする。またことあるごとに黄泉のストーカー・トート閣下がふらりと出てきてエリザベートを見つめたり「♪エ~~リザベ~~ツ 泣かぁないでぇ~~♪」などと歌って客席を緊張させたりする。エリザベートもそんなトートに抗ったり皇室の窮屈な状態にイラつきながら「自分らしく生きるの」と朗々と歌い上げてみたり。そして休憩を挟んで2幕へ。

■関西弁で歌うのはやめて

さて2幕。高嶋兄が客席に降りたりしながら歌い踊る見せ場の後、ハンガリー戴冠式のシーン。ハンガリー語の万歳、「エーヤン」で皇帝夫妻を迎える市民たち。壮大なアンサンブルで歌い上げる。



♪えぇやん、えぇやん、えりぃざべーと


♪えぇやん、えぇやん、えりぃざべーと



……これが関西弁にしか聞こえなくて笑ってるのは私だけか。そしてそんな間にもトート閣下はしっかり御者の姿にコスプレして、皇帝夫妻を乗せた馬車の上でムチを振るっている。当然トートダンサーズたちも手にしたロープをムチのようにビシビシと鳴らしながらぐるぐるぶんぶんと踊り狂う。しかもそれが盆にのってぐるぐる回りながらだからそれがまた可笑しい。ダメだ、2幕になっても全然失速しないよ、この舞台。

■女子一同、固唾を飲む瞬間

エリザベートを敵視する皇后とその取り巻きのたくらみで、娼婦をあてがわれた皇帝は性病に感染。それがエリザベートに伝染して彼女は倒れてしまう。そこへ呼ばれたシルクハットをかぶった医者、これがまたどうみてもトートのコスプレ。性病であることを告げられて「そんなわけない! それがもし本当なら、いっそのこと命を絶ちます!」と叫ぶエリザベートに向かって、「それがいい、エリザベート、……待っていた!」と帽子を投げ捨てマントを引きちぎるように脱いでバサぁぁっと放り投げるトート。この時も胸元にビラビラとフリルのついた(しかもそれがイイ感じではだけた)黒い衣装だ。そんなセクシーな(というかもはや変態の域に突入したエロさ加減)トートが押し倒しかねない勢いで歌いながら彼女に迫る……これもまた女子にはたまらないシーンのひとつかもしれない。つーかトートさん、あんた、乳首見えそうだってば……!

 

この後のシーンはしばらくエリザベートの息子・ルドルフ皇太子が主役。最初は子役*8の小さいルドルフが出てきて、なんとも可愛らしい声で「♪ママ、どこなの? 聞こえてるの?」とエリザベートの不在を嘆く寂しげな歌を歌う。だが、「♪僕はなるんだ 強い英雄に 昨日も猫を殺した~♪」と激しく間違った英雄観をかいま見せる。しかもその後「♪でもちょっと かわいそう~」とか言うので、「だったら殺すなよ!」と思わずつっこまずにはいられない。ああ、子供の言うことにいちいちつっこむなんてアタシもおとなげないったら。

さて大きくなったルドルフを演じるのは井上芳雄*9。彼は帝国の行く末を憂い、父親に反発して革命家たちと関係を持つ。そんな彼に向かってトートが「♪そばにいてやろう」だの「♪王座をつかむんだ 立ち上がれ」とそそのかすわけだが、このデュエット曲がまた女子の心をがっちり掴んで話さないのだ。低音の内野トートの歌と高音の井上ルドルフの声がいー感じで絡み合い、さらに振付もなんともいー感じで絡んでいる。思いっきりお互いの指を絡ませあったり、顔を寄せたり、見つめ合ったりと、やおい*10系の人々でなくても、女子の皆様にはなんとも堪えられないシーン。客席がものすごいイキオイで静まり変える。みんな息止めてないか? そしてそんな素敵なシーンにちょっとだけ心を奪われながらも、あまりに分かりやすいあざとさに笑いが止まらない私。おそらくこの作品の一番の見せ場はこのあたりかも。

 

さらにこの後、父親への裏切りが発覚して、母親にも見捨てられてしまったルドルフ。絶望の淵に落とされた瞬間、突然その横でばさぁぁぁと派手に上半身のジャケットを脱いで反り返るトートダンサーズ。そりゃもう今まで以上の勢いで踊る踊る!! うわあぁぁスゴイことになってるーーと思ったら、そこへ悠々と登場したトート、ルドルフの手に拳銃を握らせ思いっきり抱き寄せて、ぶちゅぅぅとくちづけ。うわぁぁぁぁ! そこまでやるかぁぁ。思わず笑いながらも身を乗り出してしまう私(オイ)。そんでもってルドルフはこめかみで引き金を引いて死んでしまうわけだが、このキスシーンに女子たちの声にならない悲鳴と嬌声が上がるのがありありと解る。いや素敵。もうここまでやってくれたら言うことないヨ!

 

■本当の悲劇の人はむしろ夫

一見エリザベートの波瀾万丈の一生に見えるこの物語。当然、エリザベート中心に描かれているので時々夫のフランツが「マザコン皇帝」とか悪者扱いされてしまっているし、客席もほとんど女性なので当然のようにエリザベートに感情移入する仕組みになっている。でも、本当に可哀想なのはむしろ夫のほう。母と妻の板挟みにあいつつもなんとか妻の願いを受け入れたというのに、その肝心の妻は放浪の旅に出まくって全然戻ってこない。ある意味ワガママで自己中心的な妻だというのに、そんな彼女をずーーーっと真剣に愛しつづけているのでなんだか気の毒になってしまう。しかも息子ルドルフが死んだ後、エリザベートに戻っておいで、愛してるよ、みたいな事を言って、彼は低音ボイスでこんな台詞をキメてみせる「愛はどんな傷をも癒すことができる……」キャー! しかしそれに対してエリザベート、
「あんたと私は基本的に合わないんじゃボケェ」といった内容の歌をフルコーラスで歌い上げる。ひ、ヒドイ。しかも旦那のほうも後半それにハモっちゃうし……。これだからミュージカルってのはスゴイよなぁ。

 

■そして本当に笑えるのはラスト

崩壊していく帝国、そしていよいよクライマックス。フランツに悪夢なオペラを見せるコンダクター内野トートの衣装がなんかバレリーナみたいな真っ白な衣装に替わっていてそれがまた笑える。ここで壮大なコーラス&ダンスと共に色んな人が次々と不幸に見舞われるのだが、その横で嫌がるフランツ役の鈴木綜馬の頭を抱え込むようにしてレロレロとキスしているルキーニ役の高嶋兄。な、何故! トート&ルドルフのキスシーンならともかく、こっちのキスシーンは誰も見たくないっつーの! 止めて! 誰か止めてぇぇぇ。そして盛り上がっていくコーラスとオーケストラ。うっとりと指揮棒をふるトート。笑いをこらえるあまり悶絶する私。死ぬ、死んでしまう。



そしてそれまで狂言回しだったルキーニがトートに渡されたナイフでエリザベートを暗殺。まぁそろそろ最後に一曲歌って終わるかなー、と思ったら。いつのまにか舞台の両サイドにある柱と上の方で一体化していたトートダンサーズ。ばさぁぁぁっっと白い布を腰から下に垂らし、下半身は柱にしっかり組み込まれた状態で、上半身だけで踊る踊る。平泳ぎだか背泳ぎだかシンクロナイズドだかわからんがそりゃぁもうすごい勢いで腕と首を振り回すのだ。
その姿は、なんというか、もう、踊る白塗りの人バシラ。
セットに組み込まれてるという意味では小林幸子状態とも言える。もうあまりのあんまりさに臨界点突破。それまで一生懸命ガマンしていた笑い声が漏れるかと思いましたわ(いや耐えたけどね)。おかげでその下で朗々と愛のデュエットをぶちかましてるエリザベートとトートなんてほとんど視界にはいらないったら。そりゃもう泣きました。涙がでるほど笑いました。はぁ。



いやまぁ笑える笑えるって連呼したけど決してバカにしてるわけじゃないんです(いやマジで)。あそこまで女子の子宮にじゅんと来る演出しちゃうのはさすが宝塚演出家! とか思いましたし。大島早紀子の振付のおかげでなんかもうスゴイことになっていたし。終わった瞬間に一緒にみていた子とふたりして「もう一回見たいよー、山口バージョン見たいよーーー」と連呼してしまっていたしね。高嶋兄ルキーニの芸達者っぷりにも心底感動したし。こんなに器用な役者さんだったのかとびっくりしました。そういえばこの日結局内野トートはそれほど音程を外さず(というか素人耳で聞く分には十分な程度に)歌ってました。全然壊滅的でないよぉ、と、ちょっとだけ期待はずれだったりして(おいおい)。はー、それにしても、面白かった。満足満足。


 

■内野トートと山口トートの違い

そんなわけでインターネットをこまめにチェックしてチケットを入手し、後日山口祐一郎*11バージョンを観劇。山口トートは、パッと見の立ち姿が背が高いぶん美しい。エリザベートやルドルフよりも頭ひとつ高いので、見た目のバランスがいいのだ。それになんといっても、歌は圧倒的に山口トートのほうが巧い。そりゃ元四季と文学座員じゃ歌唱力の圧倒的な差があるのはしょうがないんだけど。ただ、歌が巧いからといって山口版のほうが完成度が高いかというとそうでもない。なんつーか、山口トートは演技がなんとも大味なのだ。まぁあんな大きな劇場だし、動きが大きい方が遠い席からでも解る演技だというのももっともな話なんだけど。あと、山口トート版は歌が巧いからあんまり笑えないかなぁと思っていると(笑えるかどうかでこの作品を判断すること自体が大間違いなのだが)、実はそうでもなかった。どうも彼は時々変な間の抜けた動きをするので、トラップのように笑いが仕掛けられている。歌ってる間に手をパーンと打って両サイドで拳握ってみたたり、ムチをぶんぶん振り回してみたり、エリザベートの服を投げ捨てるときなんか手にからみついて離れないのか子供みたいにぶんぶん腕を振り回したり。予想もしないところで不意を突かれて笑えてしまう。それはそれで十分にスリリング。

 

で、どっちが面白いかというと、うーん、これは完全に好みの問題。ルックスは舞台写真を見る限り山口祐一郎のほうが微妙にカッコイイのだが、舞台で動いてるのを見ると内野聖陽のほうがかっこいい気もする。たぶんこの人も生フェロモン出しまくりのタイプの役者なのだろうなぁ。それに、内野トート版は今にも外れそうな歌声を手に汗して緊張して聞き、無事歌い終わった瞬間に安堵感が広がる……という、劇場内の連帯感というか一体感はなんともいえないのだ。たとえそれが間違った鑑賞方だとしても……。それになんといっても表情や手つきは内野トートのほうが圧倒的に色気があって美しいね。ただ時々、内野トートは普通にまっすぐ立ってればいいシーンでも意味もなくいやらしい手つきで我が身を撫で回していたりするから、気になってしょうがないのだけど(一幕ラストとかルドルフ葬儀のシーンとか)。なんであんなに自分の身体をまさぐるのか……気になる……。そういえばいろんなシーンでいろんなもの撫で回してるけど、撫でるモノがないと手持ちぶさたなんだろうか……?

 

あと印象でいうと、山口トートのほうが人間離れしていて超然としていて、「黄泉の国の帝王」というイメージには近い。でも人間クサい……というかはっきりいってエロっぽい内野トートのほうが、なんというか、見ていて笑えるしカッコイイし楽しいのだ。それから内野トートは「世界は俺とお前のために」といった感じで歌ってる印象なんだが、山口トートは「世界は俺様のために」と歌ってる感じ(そういえば「欲望という名の電車」の時も、スタンレーのステラへのラブラブっぷりにときめいたものだったなぁ)。まあそんなわけで通説通り「歌を聴くなら山口版、演技を見るなら内野版を観ろ」というのを納得してきました。それにしても見事にお互いの弱点と長所が補い合ってるWキャストだなぁ。キャスティングした人に感心しちゃうよ。

 



まぁそんなこんなで大変楽しい舞台でございました。再演したら絶対見に行くなー。現在名古屋で上演中、これから大阪公演と福岡公演がありますので、現地の方はぜひどうぞ。オススメです。

Date:2001年4月21日(土)ソワレ・内野トート版/2001年4月27日(金)マチネ・山口トート版

*1:エリザベート……オーストリア皇后エリザベート(1837~1898)の生涯を描いた、1992年ウィーン産のミュージカル。日本ではかつて宝塚で上演された。皇后エリザベート役に一路真輝、それを愛する黄泉の国の帝王・トート閣下役にWキャストで内野聖陽山口祐一郎。ミヒャエル・クンツェ脚本、シルヴェスター・リーヴァイ作曲、小池修一郎演出。

*2:文学座所属の役者で、基本的にゴリゴリの新劇作品を中心に活動してきた。映画「(ハル)」における深津絵里の相手役で注目され、TVドラマ「ミセス シンデレラ」「ふたりっこ」「ラブ ジェネレーション」などに出演しお茶の間でも人気者に。映画「黒い家」では大竹しのぶ&西村雅彦夫婦につきまとわれて大変な目に遭う保険会社の調査員を演じた(この夫婦のあまりのキチガイっぷりに影が薄まったが、一応主役)。20代OLからオバ様方までファン層は幅広く、公演のソールドアウト率も高い。地味な演劇界では数少ない、集客能力がとても高い役者。

*3:H・アール・カオスというダンスカンパニーの振付家。情感たっぷりで倒錯したエロティシズムと、どこかストイックな匂いのする淫靡さが交錯する、とっても独特な様式美の振付をするひと(←思いっきりオレ主観)。カッコ良いしスゴイ振付なんだけど、時々それが行き過ぎるあまりお腹いっぱいになる感じ。ダンス界ではこんな注釈がいらないくらい有名すぎるひと。

*4:と宝塚雪組の男役トップ。96年に退団。そのサヨナラ公演では「エリザベート」を上演、トート役を演じていた。

*5:さらにこの曲は「♪青い血を流す傷口は お前だけが癒せ~る~♪」とか、なんかもうX JAPANを彷彿とさせる歌詞だ。これで歌詞中に薔薇とかも出てくれば完璧なんだが。小泉さんもきっと気に入るに違いない。そういえばトートのメイクと衣装はどことなくYOSHIKIっぽい。

*6:池田悦子原作、あしべゆうほ画の少女漫画。女子高生の美奈子は黄泉の悪魔(デイモス)に惚れられて、ことあるごとにつきまとわれる。周囲の人間の欲望をデイモスがかなえてやる代わりに欲に溺れた人間には悲しい最後が待っているという、ある意味「笑ゥせぇるすまん」のような毒の効いた物語。ラブストーリー的には、デイモスは非情でありながら美奈子にだけは甘いところが女子の心にグッと来る。基本的に悪魔っぽい格好のデイモスだが、人間をだますために時々オイオイとつっこみたくなるコスプレで登場。「王家の紋章」や「ガラスの仮面」と並んで中学や高校で回し読みされやすい人気シリーズ漫画。話の内容的には未完だが続きが描かれることはないらしい。秋田書店刊。

*7:ラストは「♪さいごーにー 勝つのーはー(ここでオケはブレイク)、おーーーぉぉぉれぇぇぇ、さぁ~~~(ジャーン)♪」で締める。それにしても果てしなく80年代的な歌詞と曲というか、言っちゃなんだがシブガキ隊チックな歌詞だと思うのは私だけか。

*8:このシーンでは歌う子役をトートが抱き上げたりしながら「♪ともだちさ~、呼んでくれれば、来てあげる~♪」などと歌うのだが、その姿はなんつーか、まるで妖怪赤マント。猫を殺すような悪い子は妖怪に連れて行かれるよ! 気を付けろ子供たち。

*9:この現役大学生の若い男の子がミュージカル界でものすごい人気、らしい。昨年の初演時にオーディションで抜擢された新人。先日TVバラエティ「誰でもピカソ」で「各業界の貴公子」みたいな特集をやっていたのを偶然見ていたらそこに出ていた。いい感じで初々しくなんとも母性本能をくすぐるタイプ。この皇太子もいかにも「薄幸の王子」という設定なのがなんともまた。史実ではこの皇太子は愛人と心中しているにも関わらず、当然のようにこのミュージカルでは妻も愛人も出てこない。

*10:美少年・美青年同士の同性愛を耽美に描いた漫画・小説を愛好すること。もともと「やまなし・おちなし・いみなし」の頭文字を取った言葉だった。基本的にはストーリーに関係なく、必然性のない男同士の濡れ場がある作品群を指していたが、それが発展して現在の意味に(その筋の人からは正確には云々とクレームが来るかもしれないけどとりあえず一般人向けにはこんな説明でカンベンしてください)。

*11:元四季劇団員。95年退団。内野聖陽が新劇界の貴公子だとするとこちらはミュージカル界の貴公子か。「レ・ミゼラブル」の主役ジャン・バルジャン役などでおなじみ。最近ではNHK大河ドラマ「葵・徳川三代」や松嶋菜々子主演「魔女の条件」「百年の物語」などTVドラマにも出演、お茶の間にも露出アリ。2002年の大河ドラマにも出るらしい