コクーン歌舞伎「四谷怪談」


出典:ステージナタリー

今回は10年前に上演された「四谷怪談」の[北番]をベースに再演、というのを聞いた時に真っ先に思い出したのは北番のラストシーンで「ああ、あの地獄絵図みたいなやつ……」という感想でした。かなり攻めた演出でラストは伊右衛門の心象風景を描いたようなシュールな空間で幕切れだったんですよね。それはそれで面白く観たのですが、その時は古典をベースにした[南番]が同時に上演されていたからというのもありました。
今回の「四谷怪談」も前回の北番以上に攻めたアバンギャルドな演出でした。歌舞伎の登場人物以外にもサラリーマンや明治〜大正期の衣装を身につけた通行人たちが舞台を横切っていくので、どうやら「江戸時代から現代までの時空の狭間」にいるらしい、あるいは時空を超えた死後の世界かもしれない、とそんな設定を思わせました。音楽も下座音楽を使わず、ホーミーとイギル(モンゴルの民族楽器)の音がなんとも言えない不安感を誘う音響として響いていたり。トランペット、サックス、アコーディオン、バイオリンの編成で賑やかに盛り上げたり。附け打ちはあるものの控えめといった感じで、いつものコクーン歌舞伎以上に現代劇に近づけた演出だったようにも想いました。

古典の「四谷怪談」を観ているからこそ、今回の作品もリミックス版として面白く観たのですが、さすがに元ネタを知らない人がこれを見ても「ポカーン」として何が起こっているのかわからないのではないかな、と思いました。古典では仕掛けが盛りだくさんで一番見どころの多い「蛇山庵室の場」がなくて、その前の「夢の場」で幕切れとなってしまいますもんね。10年前は「南番」で古典版の趣向を一通り楽しんだ上での「北番」だったので、まるっきり違う演出も受け止めやすかったのですがねえ。歌舞伎初心者にはちょっとおすすめしづらい感じの仕上がりでした。

まあとはいえ登場人物の関係性なんかは丁寧に演出されていたと思います。伊右衛門は極悪非道というよりは「根っから悪い奴じゃないんだけどちょっと後先考えず流されちゃって周りを振り回しちゃうダメ男」くらいのテイスト。お袖なんかも古典版よりも感情移入しやすく現代的な解釈で描かれていたような。全体的に登場人物の解釈がアップデートされてる感はありました。

しかし余談になるんですけどね。子どもを産むと産後3ヶ月くらいから大量の抜け毛に悩まされるのが育児あるあるネタなのですが。私も去年子どもを産んで抜け毛が酷かった上に、ものすごい数の円形脱毛症ができてしまって。だからお岩さんの髪梳きの場で、「わかるよ!産後!抜けるよね!髪!」ってものすごく感情移入してしまいましてね……。なんなら生え際にも500円玉大のおおきなハゲがあるもんだから、お岩さんの前髪がごっそり抜けたところにピンスポがバーン!宅悦がギャー!ってなる場面ですら、「わかるよーーーお岩ーーー!仲間ーーー!」ってなりましたからね。四谷怪談をこんな気持で観たのは初めてでしたよ……。