劇団☆新感線「メタルマクベス disc1」


出典:ローチケ演劇宣言!



幕が開くまでは、髑髏城の感想や前項でもさんざんボヤいた通り「もう豊洲は! ぐるぐる劇場は! お腹いっぱい!」「上演時間4時間とか嘘でしょう?なんでそんなに長いの?」という気分でしたが。「メタルマクベス」はそんな鬱々とした気分を吹き飛ばすような、快作! でした! あ、いや、まあ、好き嫌いは当然あると思うし、正直シェイクスピアの「マクベス」を知らない人がこれを観て面白いのかどうかはちょっと判断しかねるところではあるのですけれど。それでも個人的には近年の新感線の作品の中ではかなり好みな作品のひとつだったと思います。
「髑髏城の七人」の一年間を経ることで、ついにいのうえさんが完全に劇場機構をモノにして使いこなした、と思える仕上がりでした。機構や装置の使い方や見せ方が比較にならないほどこなれていたと思います。照明もスピーカーも増えた気がするし、回転速度も回転数もかなり増したのではないかと。同じ面の舞台でも装置を変えて違う使い方をすることで見た目が単調になることも避けていました。髑髏城の時は正直「こんなのわざわざ回転劇場でやんなくても普通の劇場の普通の装置でできることじゃん〜」と思ったりもしていたのですが、今回はまさに「この劇場でしかできない演出」「観たことのないお芝居を観た!」という気持ちになれました。スクリーンを大きく開けてふたつの舞台を二分割画面風にして過去回想を見せる演出とかも「ははあなるほど、こんな使い方もできるのか!」と関心しましたし。あんな大きなバイクをぐるぐる乗り回すなんてそうそう他の劇場ではできないし、「スサノオ」の青山円形劇場でローラースケート履いてた頃から比べたらずいぶんスケールが大きくなったじゃあありませんか。ラスト、大きくスクリーンを開けて上手から下手までを大きく使った感電ビリビリシーンも「派手にやったなー!」と思いましたね。あれは後ろの席の観客ほど見た目が楽しい場面だったのではないでしょうか。ほんとこれだけド派手でケレンに満ちたスペクタクルな演出ができるのは、蜷川さん亡き今いのうえさんくらいしかいないだろうなあ、と思ったりしましたねえ。髑髏城もアトラクションのようだと言われてましたが、今回のを見てしまうとアトラクションというにはぬるすぎる気がしましたね。今回は本当にぐるぐるとよく回ったし、客席外周近くの席にいると乗り物酔いしやすい人は体調を崩すかもしれません。



出典:ローチケ演劇宣言!



まず新感線ファンとして嬉しかったのは、前項でも書いたとおり、主演・橋本さとしさんの21年ぶりの劇団復帰。冒頭の橋本さとしさんの登場シーンで「おかえりー!」と思って泣きそうになりましたし、橋本さとし橋本じゅんの「W橋本」が並んだ時は別に感動的な場面でもないのに色々とこみ上げてくるものがありましたし、終盤で橋本さとしさんと粟根まことさんが一騎打ちする場面ではもう、「あー! これ! これが見たかったよ!」と思って完全に泣いておりました。別に泣く場面じゃないのにね! やっぱりこの劇団初期メンバーだけの見せ場、って色々ぐっとくるものがありますよ。それに、ゴリゴリにヘビメタ感漂うお衣装、大音響のハードロック、ド派手な照明、決め台詞に決めポーズにバカ芝居、この盛りすぎトゥーマッチ感観てると「ああ昔の新感線だ!」って思いますよね。「あの頃の新感線」が、超絶技巧のスタッフワークと大規模予算とスケール感で帰ってきた、という感じで、なんとも胸が熱くなる思いでした。

なんというかこの革と鋲のヘビメタなお衣装やマッドマックス的世紀末世界観って「ちょっと恥ずかしい」と思う時期があったと思うんですけど、映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を経てまたなんか時代が一周した感じしますね。あまり照れや恥ずかしさなく「カッコイイ」って思えた気がします。

またシェイクスピア作品の「マクベス」として見ても面白かったと思いました。「世界が崩壊した後2218年の豊洲で戦うESP国の将軍ランダムスター」と「80年代バンドブーム期のヘビメタバンド・メタルマクベスマクベス橋本」のふたつの世界を行き来しつつ、そこに透けて見える「中世スコットランド(原作)のマクベス」の物語。異なるふたつの設定の中で同じような境遇を生きるカップルを一組の役者が演じることで、ランダムスターとマクベス橋本の栄枯盛衰がわかりやすく伝わってくるし、「ランダムスター夫妻にとっての世界」がどんどん壊れていくのが身につまされるように感じられました。心を病んだランダムスター夫人とそれに寄り添うランダムスターのふたりの姿が本当に憐れで切なく、泣きそうになりましたよ。初演の内野聖陽松たか子カップルに比べると少し年齢が高いな……と最初のうちは正直思いましたけど、後半の転落していく様子はさすがに年齢を重ねたふたりだけあって見事。あんなに壮大なスケールの舞台機構なのに、終盤に行けば行くほどくっきり際立ってくるランダムスター/マクベスの器の小ささと心の弱さ。指の間から砂がこぼれ落ちるように何もかもを失っていく彼の悄然とした姿は、落ちていけば行くほど冴え冴えとカッコよく見えてくるのが不思議でした。上り調子の前半よりも、転落していく終盤のほうが俄然かっこいいんですよねえ。劇中では「マクベス!? SIONかと思った…」とか言われてましたけど(このセリフ初演から変わってなくて嬉しかった〜。客席の反応めっちゃ薄かったけど爆笑した…)

「きれいはきたない ただし俺以外」の歌詞、あれは内野さんのナルシスティックな部分に対するアテガキだったのだなあとちょっと思いました。さとしさんが歌うとナルシストというよりは自信家、あるいは生来の気の弱さを隠すための去勢、に見えるのが面白かったです。disc3の浦井健治くんが新感線であれを歌うとバカっぽく見える(←注・褒め言葉)かもな、と。同じ歌詞でもキャラの違いで雰囲気が変わって見えてくるのだなと思いました。

脚本上の初演との変更は割とあちこちにあったと思います。三人の魔女が初演では毒カレー事件の林真須美をモチーフにしたものだったのですが、今回はさすがにその設定はなくなっていましたね。私は宮藤官九郎さんの脚本が基本的に大好きなんですけど、時々林真須美とか小保方晴子さんとか「メディアでイジられている人」をイジって笑いを取る場面が出てくるのが正直ちょっと苦手だったので、あの設定がなくなっていてホッとしました。猫背椿さん・植本純米さん・山本カナコさんがBABYMETALみたいなツインテールと衣装で出てきたのがおかしかったです。あと初演の歌で「メタル演歌〜七光り三度笠」とか「ダイエースプレー買うてこいや」「リンスはお湯に溶かして使え」とかもなくなってしまったのが残念でしたね。まあどれもネタ的に古いということでしょうか。今の若い世代はお湯にとかすリンス知らないでしょうし、ダイエースプレーも知らないでしょうからね……。しかしこれだけいろいろ削られてるのに上演時間が伸びているのはどういう……げふんげふん。

その「七光り三度笠」を初演で歌っていたのは森山未來くんだったので「ああー森山未來の役を演じる人は荷が重いだろうな」となんとなく思っていたのですが。レスポールJr.役の松下優也くん、ごめんなさい今まで全然知りませんでしたが、すっごい身体のキレがよくてびっくりしました。歌いながらあれだけキレキレに踊れるとは。「開けない夜は長い」しかナンバーが無いの、なんかもったいないですね。もう少し歌って踊るところ見てみたかったです。かっこよかった。

そんなこんなで、まとめると大変に楽しかったです! 久しぶりにパンフレットを抱きしめながら嬉しい気分で劇場を後にすることができましたし、これなら豊洲も遠くない、通える、と思いました。また観たい!