宝塚星組『GOD OF STARS-食聖-/Éclair Brillant(エクレール ブリアン)』

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出典:宝塚公式ホームページ

星組のトップコンビ、紅ゆずるさん&綺咲愛里さんのサヨナラ公演。現代的で祝祭感あふれるにぎやかなコメディの「GOD OF STARS」と、正統派クラシカルなレビューショー「Eclair Brillant」、とてもバランスの良い組み合わせのサヨナラ公演でしたね。楽しかったです!
 
まず「GOD OF STARSー食聖ー」。小柳奈穂子先生、原作なしの完全オリジナル作品は久しぶりではないでしょうか(もしかして2011年「アリスの恋人」以来……?)。「シャングリラー水之城ー」「アリスの恋人」とか、小柳先生のオリジナル作品はちょっとライトノベルっぽい雰囲気で好きだったんですよね。ここんとこずっと原作モノの潤色演出ばかり続いていたので楽しみにしていました。しかし「ミュージカル・フルコース」とか「アジアン・クッキング・コメディ」とか、やけにこってりした単語がならぶ公演概要、これが他の組の演目だったら不安しか感じませんが、紅さんならなんとかしてくれるだろうという安心感と信頼感。さすが星組です。
 

 

西遊記に登場する紅孩児(紅ゆずる)が天界から地上に落とされ、記憶を失ったまま天才料理人ホン・シンシンとして成り上がる。しかしその傲慢な性格からシェフの地位を終われ、彼の店は弟子のリー・ロンロン(礼真琴)が引き継ぐことに。店を追い出されたホンは空腹のまま屋台村ホーカーズへ流れ着きアイリーン(綺咲愛里)に助けられる。ホンは最高の料理人を決めるコンテスト「ゴッドオブスターズ」でリーと満漢全席対決をすることになるが……というのがざっくりした展開。
 
まあオープニングからとにかく情報量が多いです。なぜか売れないご当地男性アイドルグループや人気女性アイドルグループが物語に組み込まれていてやたら登場人物が多い。組ファンならどれが誰とすぐ飲み込めるんでしょうけど、星組は勉強不足なので最初はちょっとあまりの情報量に目がチカチカする感じでした。懐かしの料理の鉄人パロディに始まって、SNS、インスタ、tiktok、なんて単語もがっつり出てくるので数年後に見た時にくすぐったい気持ちになりそうです。ただまあストーリーそのものはシンプルかつ明快、とにかく楽しませようという気持ちが脚本や舞台全体から溢れていて、何も考えず楽しめるやつでしたね。最終的にはあっちこっちでカップルが成立してこれでもかというほどの多幸感あふれる大団円に着地します。楽しい。
 
耳残りのいいキャッチーなテーマ曲を毎回使用してくれる小柳先生の作品ですが、今回はなんとヒャダイン氏が参加。そりゃあ小柳作品と相性いいだろうな、と予想してましたが、めちゃめちゃ覚えやすいポップなナンバーで楽しかったです。娘が終わってからずっとテーマ曲歌いながら楽しみにしているので早く配信をお願いしますよ……!
 
サヨナラ公演のしんみりした空気はみじんもない狂躁的な物語だったりするのですが、それでもホンがリーに言う「星なんかいらねえ、お前にくれてやる」「俺はアイリーンがいればいい」とか、リーが「見てろよ、お前より絶対幸せになってやる」とか、クリスティーナ(舞空瞳)からリーへの「これからもよろしくね」とか、このへんのセリフに思わずぐっと来てしまって泣きそうになってしまいますね。トップの紅さんから次期トップの礼さんへの餞、礼さんの決意表明、そして新娘役トップから新トップ男役へのご挨拶……こういうのいいですね、座付き作家の愛がこもった作品だったと思います。小柳先生はとにかく下級生までがっつり見せ場を作ってくれるし、劇団の座付き作家としてほんといい仕事をされるなあと思いますね。

 

 
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さて「Eclair Brillant」はほんと正統派なタカラヅカレビュー!といった感じでした。私最近藤井先生やら野口先生やら中村B先生やら稲葉先生やらの作品ばっかり観てた気がするので、ベテラン酒井澄夫先生のクラシカルな作品が妙に新鮮でした。「あー! なんかヅカにハマる前にイメージしてた宝塚だ!」って感じでしょうか。清く正しく美しい。パリの街角、スペインのボレロ、ラテンの中詰、日本の三味線が鳴り響く大階段男役群舞……、と、世界を回るわかりやすい構成。なんかすごく落ち着いて観られるショーでした。若手の先生の情報量多くて尖ったショーも大好きなんですが、たまにこういう正統派なレビューを見るとそれはそれで新鮮です。濃厚でこってりした一幕目の芝居の後なので、胃もたれしない感じのこのすっきりしたショーはバランスが良かったと思います。ボレロも黒燕尾も、紅さん中心に集中する組子たちの熱量と緊張感が感じられてとても良かったです。

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今回は10歳の長女の誕生日プレゼントにこのチケットをとって同行したのですが、とても楽しんだようで、その反応が母としては色々面白かったです。開演前にオケピと緞帳をオペラで覗いてピントがあってることを確認し、紅さんが登場するとさっとオペラを上げて、左右に手が迷うことなく対象を即座にロックオン……というオペラさばきがですね、なんというか子供らしからぬ鍛えられたオタクの仕草で。横目でそれを見ながら「成長……したな……」と思ったんですよ……。今までも何度か観劇はしてるんですが、やっぱり子供だから時々集中力を欠いてちょっと身動きしちゃう場面とかもこれまではあったんですが、今回は1時間30分の芝居にめちゃめちゃ集中した挙げ句、休憩で客電がついた瞬間「はーーーーーーーー(深々とため息)」「……5分で終わった気がした……」って言うので吹き出しましたよね。オタクが言う「体感5分」ですよ……。帰り道もずっと覚えてるフレーズだけを何度も繰り返し口ずさんだりしてました。終盤、舞空瞳ちゃんが礼真琴さんにキスしたところと、ラストで紅&綺咲夫妻に子供がたくさんでてきたところを挙げて「頭がパッカーンってなっちゃった」と言ってたんですが、なんでしょうね、萌えと衝撃で頭が真っ白になりました、くらいの意味なんでしょうか。

漢検合格したご褒美プレゼントも前から欲しがってがマリオメーカー2にするか、この公演のBlue-rayにするかでずっと迷って「決められない!ママが決めて!」って言ってました。さらに真顔で言うことには「ママ……次の星組のチケット取って……チケット代は私の銀行口座から取っていいよ……二階のS席がいい……だめならA席で……」ですって。本気だ。そういえば娘はどうやら二階席のほうが好きみたいです。群舞が後ろまで見えるのがいいんだそうで。良かれと思ってファントムを一階で見せたことがあるんですが、一階席だと後ろの人が見えない、2階席のほうが全部見えるからいい、と言ってました。群舞フォーメーション好きなんでしょうかね。特定のご贔屓を見るなら絶対1階席だと思うんですが、まあでも私も群舞好きなのでわからんではないです。

それにしても今回ですっかり星組に落ちてしまったような長女を見ているとですね、母の推し組ではなく他にご贔屓を見つけてしまったんだな……いよいよ親離れして自立していくお年頃なんだな……という気持ちになってしまいましてですね。成長を喜ぶ気持ちと親離れが寂しい気持ちでなんともいえない気分になってしまいましたよ! この子はもう私がいなくてもちゃんと自分の好きなものを見つけていけるな……とか思ってしまってですね、ちょっと親として安心するような、それがさみしいような、そんな気持ちになっちゃったんですよ。いや宝塚の推し組が違ったくらいで大げさな、とも思うんですけど。でもほら、自分の推し組から沼に引き込んだ友人が、他の組の贔屓になっていくの見ると、ちょっとさみしい気もしつつ、「あ、これで完全にヅカオタとして仕上がったな、よしよし」「もうあとはひとりで大丈夫」みたいなちょっとうれしい気持ちありません? ないか! そうか! すまんかった!