「CATS」(映画版)

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かつてないレベルの悪評が渦巻く映画「CATS」ですが、まあ結論から言えば「あそこまで云うほど酷くない、まあまあ観られる、けど、あそこまで言われるのもわからんではない」という感じでした。ミュージカル好き的には吹替え版も観てもいいかなくらいの気持ちではありますが、ただまあ人に薦めたいかといったら微妙……いや薦められないかな……というところです。CATSの舞台観てない人には「映画観る前にまず四季で見てくれ、話はそれからだ」と思いますね……

(いや、正直いうと私も2000年代以降のミュージカルファンなのでCATSにはそれほどハマってはいないのですが。2階後方席から観て「あんまり好みではなかったかなぁ、ストーリーないし……」と言ったら、四季ファンの方が「2階では良さが伝わらない! 回転席とってあげるからそこで観て!」と言うので、2回目をステージから2列目の近距離席でみて「なるほどこれはアトラクション的なショーなのだな」とやっと面白さがわかった……という経験があります)

SNS見る限りミュージカルファンのみなさんの7~8割くらいは「そこまで酷くないよ」という感想を抱いてるような気がしますし、高く評価している人も少なくない気がします。この差はどこに理由があるんだろうと考えましたが、やはりこの3点のような気がしています。

 

①CATSにはそもそも「物語らしい物語がない」という前提を知っている
②ダンサーの動きそのものは「CGでないこと」がわかるから「ダンスのレベルの高さ」に感嘆できる
③バレエなどでタイツ姿の男を見慣れているから猫のディテールにさほど嫌悪感がない

 

①舞台版を知らずに映画を見た人が「何の中身もない、話がない」と言ってるのに比べ、舞台版を知ってる人が「舞台版よりストーリー性がある」という感想を抱いてるのがちょっと面白いです。そう、そもそもCATSってほぼ猫が自己紹介してるだけのショーで、これといってストーリーらしいストーリー無いんですよね。それに比べると映画版は「グリザベラが最終的に選ばれて天上界へ昇る」という大筋以外にも「人間に捨てられたヴィクトリアが猫コミュニティに受け入れられるまで」という成長譚と「天上に昇る猫の地位を狙う悪猫マキャビティが次々と他の猫を追いやり、長老デュトロノミーを狙う」的なサスペンス感があって、全体に流れるストーリー性があったように思います。私も「おお、思ったよりストーリー性あるなあ」と感じました。もちろん初見の人から見たら「えっ???それだけ???薄っっっ」ってなるでしょうね……とは思いますが……。
この辺については詳しくはこちらのブログが読み応えがありますのでぜひ。

blog.mayo31.info

②すごいレベルの高いダンスが全編にわたって観られるのでパフォーミングアートファンは割と楽しめるのではないかと思うのですが、これが「人間の動き」であるとわかるのはやっぱりダンス見慣れた人に限られてしまうのではないかなと思うんですよね。CG処理が多いのですごい動きをしていてもすごさが伝わりにくいというか。あと、絵の切り取り方はもうちょっと工夫の余地があったんじゃないかなあと思うんですよね。グレイテスト・ショーマンがあれだけヒットしたのはやはりダンスシーンの演出や迫力の出し方がうまかったからじゃないかなあと思うのです。CATSは「舞台でみればすごくいい場面なんだろうけど映画の画面的には迫力に欠けるな」と感じる群舞シーンもいくつかありました。

③人間の身体のラインがはっきり出る衣装やパフォーマンス、バレエやダンスファンにとっては慣れもあってさほど嫌悪感を感じるものではないですが、慣れない人にはやはりあの猫の形が厳しかったのではないかなぁという気がしました。クラシックバレエの王子の白タイツ姿なんかも見慣れない人にとってはちょっと笑ってしまったり恥ずかしくなってしまったりするものだったりしますしね。あと舞台ファンは歌舞伎とか宝塚とかクラシックバレエとかミュージカルとか「極端な様式美を持つ芸術」に慣れてるので、多少気持ち悪い見た目であっても「これはこういう文法の作品である」と目を慣らすことが割と容易なのでは、という仮説を立てました。

まあ色々書いてきましたが、酷評の原因は、やはり致命的に猫のキャラデザインがそもそもアウトなのでは、という気がしています。人間と猫の融合の仕方はそれでよかったのか……と。「不気味の谷のミュージカル」と評している感想も見かけましたが、うまいこというなあと思ってしまいました。実写版CATSというよりは劇場版八頭身モナーだな、と冒頭で思ってしまいました。CGで人面を残したまま猫化するのはいいとして、もっとやりようがあったのではないかなと思います。ガスあたりはもうほぼイアン・マッケラン様が原型を残して出てくるのでそんなに悪くないと思うし、ミストフェリーズみたいに服着たり帽子かぶったりしてる猫はそんなに気持ち悪くないんですが。服を着てない猫がやっぱりちょっと8頭身モナー状に見えてしまって不気味さが勝ってしまうんですよね……。あと曲の途中で毛皮を脱ぎ捨ててしまう猫にも「??????」となりますし。やっぱりこれを見ると舞台版キャッツの衣裳メイク担当は偉大だったのだな……と思わざるを得ません。初見でアップで観ても映えますものね、あのメイク。ラムタムタガーのセクシーさに雌猫がうっとりするくだりがかなり冒頭にあり、まだ目が人面猫の作画に慣れてない状態で発情する猫たちを見る羽目になるので、「これは『醜悪なポルノ』呼ばわりされるのもわからんではなない……」と思ってしまいました。冒頭に人面ゴキブリとラムダムタガーのミルクバーがあるのが敗因だったのでは、という気がしています。後半はスキンブルシャンクスのとことかいい場面もあるんですけどねえ。

個人的には美術セットや群舞の美しさは堪能しましたし、バレエダンサーの身体のしなやかさをたっぷり観られるという意味ではあの8頭身モナーのビジュアルもありだなという気はしているのですが、「あとは吹替え版キャストのお歌を確認できればまあそれ以上のおかわりはいいかな……」というくらいの感想でした。グレイテスト・ショーマンなんかは「脚本は文句いいたいところもあるがショーとしての演出は満点、完璧」という印象だったし、実際かなりヒットしましたが、CATSはそこまでたどり着けてないように思いました。ほんとどうしてあの猫ビジュアルにOKを出してしまったのか、そもそもなんですけどそこはなんとかならなかったのかと思いますね……