ノートルダム・ド・パリ@シアターオーブ

サントラだけ先に聞いていて、一度観てみたいなあと思っていた作品が待望の来日。フランス産ミュージカルといえば「ロミオとジュリエット」とかそのくらいしかイメージがない上、それすらも小池修一郎演出の日本版しか見てないのです。まあでも原作はレミゼヴィクトル・ユーゴーだし、キャッチコピーも「世界で800万人が涙した心震える感動のミュージカル」だし、未見だけどディズニーアニメにもなった話だし……と、まあ、泣く気満々で見に行ったんですよね。

が、しかし!
結論から言うと、泣く以前にツッコミ所満載すぎて、笑いをこらえるのに腹筋を鍛えられるという有様。……本当に泣いたのか。800万人が。これで……と思わずにはいられない内容でした。なんでって、ストーリーがヒドい話過ぎる。つまらないの意味での「ヒドイ」じゃなくて、とにかくヒロインがひどい目にしか遭わないという意味でのひどさ。ストーリーをざっくりまとめると「色々と根性の腐った男たちに言い寄られた結果、ヒロインが死ぬ」という話であり、まったく感情移入ができないわけです。ならロミジュリなら感情移入できるのかっていうとまあ無理なんですけどもね……あれも主役ふたりが若気の至りで勢いだけで行動する上にロレンスさんが火に油注ぎて「なんかもうちょっとどうにかならなかったのかね君たちは!」って思っちゃうんですが、まあ古典ですから……それはそれ、として観てますが……。

男の主要キャラ(=概ねだめんず)が感動的なメロディに乗せて「彼女(エスメラルダ)がハダカで踊ってるの想像したら眠れない〜♪」とか歌い出すので「お前らは何を言ってるんだ」とツッコミたくなるし、イケメン(フェビュス)が「オレ婚約者がいるのにエスメラルダに惚れられちゃって、俺の心もう引き裂かれそうだよね」と激しく熱唱するの後ろで、パンツ一枚ハダカの男性ダンサーたちが、苦悶の表情でハイスピード暗黒舞踏を繰り広げる演出には笑いこらえるあまり腹筋の訓練になりましたよね……いや、苦悩する心象風景を表してるのは解る、わかってるけれども……。

演出面について。フランスのミュージカルってどんなだろーと思いながら見ていたけど、舞台からはフランスじゃなくてカナダのケベックの匂いしかしませんでした。フランス語じゃなくて英語上演だったし、ワイヤーで吊られた人が壁面で踊るし、ライティングの色合いとかもなんか過去に見たカナダ作品(ロベール・ルパージュやシルク・ド・ソレイユなど)を彷彿とさせます。ダンスも全体的にコンテンポラリー系な印象。前半終わった所で「これ……フランス産ミュージカルだけど演出カナダ人じゃないの……?」と思ってパンフレットのクレジット確認したら案の定スタッフはカナダ系がズラリ。公式サイトのスタッフ欄でも確認できるけど、作詞家/演出家はカナダ出身、演出家/振付家/照明はシルク・ド・ソレイユ関係者、というケベック率の高さ。これ……もうフレンチミュージカルじゃないじゃん! ケベックミュージカルじゃん!

まあそんなこんなで観る前は「傴僂の鐘突き男の悲恋を描いた切なく泣けるフレンチミュージカル」を期待してたんですけど、出てきたのは「真性だめんずに愛されたジプシー娘の悲劇をアクロバティックな演出とコンテンポラリーダンスで描いたケベック・ミュージカル」って感じでした。まあツッコミ所含めて、ケベックのパフォーミングアーツだと思って観れば面白い内容ではあったのだけど、「思ってたんと違う」感はありましたねえ。


この作品ではカーテンコールにおける写真撮影が許可されていました。珍しいですね。

※この作品のレビューとしてはREALTOKYO掲載のうにたもみいち氏「ミュージカル『ノートルダム・ド・パリ』と世界の現実」が非常に詳しいです。

http://www.harmonyjapan.com/ndp2013/
作詞:リュック・プラモンドン
作曲:リシャール・コッシアンテ
英訳詞:ウィル・ジェニングス
演出:ジル・マウ
振付:マルティーノ・ミューラー
照明:アラン・ローティ

エスメラルダ:アレサンドラ・フェラーリ
カジモド:マット・ローラン
フロロ:ロバート・マリアン
グランゴワール:リシャール・シャーレ
フェビュス:イヴァン・ペドノー
クロパン:イアン・カーライル
フルール・ド・リス:エリシア・マッケンジー

あらすじ(公式サイトより引用)
15世紀末のパリに流れ着いたジプシーの一団のなかに、エスメラルダという娘がいた。妖艶な美しさと純粋な心をあわせ持つエスメラルダに、多くの男たちが想いをよせる。そのなかには、近衛隊長のフェビュス、ノートルダム大聖堂の司教フロロ、そして孤独な鐘つき男のカジモドがいた。婚約者のいる身でありながらエスメラルダに惹かれていくフェビュスと、聖職者として許されない感情にさいなまれるフロロ、そして己の醜さを呪いながらも、一途な恋心を募らせていくカジモド。3人の男たちの愛と欲望が渦巻くなか、エスメラルダの想いはフェビュスにあった。しかしある夜、エスメラルダと密会したフェビュスが何者かに刺され、罪を着せられたエスメラルダは投獄されてしまう。カジモドはエスメラルダを救出し、ノートルダム 大聖堂にかくまうのだが、パリでは暴動が起きていた。混乱のなか、再び捕らえられたエスメラルダに死刑が宣告される。そして―――