歌舞伎座新開場柿葺落 八月納涼歌舞伎 第一部

新しい歌舞伎座は5月の二人娘道成寺でチケットを取っていたのだけど、行けなくなってしまっていました。なので今回が初めての「新・歌舞伎座」体験。入口からロビーに入った所なんかはもうほぼ前のままの形でリニューアルしてるし、客席から舞台を観る雰囲気もほとんど前の歌舞伎座を踏襲している感じで嬉しくなりました。両サイドの売店などの配置は変わってしまって売店などがやや手狭になった感じはあるけれど(その代わり地下鉄直結の広場の売店が充実)、エレベーターやエスカレーターも付いてずいぶん観客にやさしくなった感じ。

外観も「なんか後ろにビルくっついてるの何アレ!」って建つ前の完成予想図見た時は思ったけど、実際に通りから見てみたらビルは別棟に見えるというか、晴海通りのほうから観る外観はそんなに以前と印象が変わってない感じだった。全体的に「前の歌舞伎座への愛情」を感じるリニューアルだったので満足。三階席の座席数が減ってしまったのは致命的に欠点なのだけど、そのかわり三階から花道上の芝居が見えるようになったのは素晴らしい改善点なので、差し引きするとやむなしかなと。

今回の歌舞伎座でも三階には亡くなった歌舞伎役者さんの写真が並んでいる。前の歌舞伎座でも私はほとんど3階席の住人だったので、あの役者さんの顔写真をながめながらよくたい焼きや豆大福食べたりしていたんだけれど。今回の歌舞伎座では写真は小さくなったものの、目線の高さにあの写真が飾られている。その列に勘三郎さんや團十郎さんの写真が加わっていた。ああ、ここでこの写真をみることになるなんてなあ。通り過ぎる人もやはり足をとめて少ししんみりと眺める人が多かった。「七緒八くんと哲之くんの桃太郎まであと三年でしょ。私それが楽しみで、今の生きがいなの」そう話していたお客さんもいて、ああそうだなあ、と思ったりした。

さて「野崎村」。私すっかりこの作品見たつもりでいたが、たぶん初見。百姓の娘のお光が養子の久松との祝言を楽しみにしてると、久松の奉公先だった店の娘・お染が訪ねてくる。奉公先で久松とお染は恋仲だったらしい。ここでお光が「入れてあげないわよ、あっかんべー」という意味で言う「びびびびびー」が有名。添い遂げられないなら死ぬというお染に「じゃあ一緒に死のう」という久松、しかしお光の父久作に諌められて別れることにする。「じゃあこっちの祝言だ」とばかりにお光を呼ぶと、綿帽子かぶってお光は出てくるが、その下で彼女は髪を切って尼になってた。そこへ洗われたお染の母親のとりなしで結局久松はお店に戻ることになり、お光は切なくそれを見送る……といったあらすじ。

もう、あらすじだけ読むと突っ込みどころ満載で「なんだそりゃ!」な話なんだけど、たぶんこれはお光の田舎娘らしい可愛らしさと健気さと恋に敗れた悲しみと切なさに共感するべきお話。ううんしかし、ふたりの女の間でフラフラする久松が許せんよ! あんたさえしっかりしてればこんなことにはならんだろ! 簡単に死ぬとかいいやがって! と、思わずだめんず批判が心の中で渦巻くのは否めないよね。お染もまた空気読めない女で……いやこれはこれで恋に一途な娘らしさととらえることはできるんだけど。でも七之助さんがカワイイからどっちかというとお染視点で応援してしまったりね。福助さんももちろん可愛く演じてるんだけど、どっちかというと福助さんはあばずれっぽい女性や女将さん的な女性のほうが好きです。個人的に。好きな男が他の女とできてたくらいで(いや、身を引く意味で髪を落としたらしいんだけど)そんな急いで尼にならなくてもいいじゃん! って思うしね……あと出家を決めたのに綿帽子で出てくるとかなにそれ……とも思うし……。いや、まあ、野暮なツッコミなのは承知ですが。

さて「春興鏡獅子」は8月前半が勘九郎さんで後半が七之助さん。私が見たのは七之助さんのほうでした。まあ何が嬉しかったって、老女役で小山三さんが出てたこと。この暑い8月に、もうあと2日で93歳になろうという小山三さんが、あの重たい衣装つけてもなお元気に立ち振る舞っていたのがね、もうそれだけで涙が出そうでした。台詞も三階までちゃんと明瞭に聞こえるし、早足で歩く場面なんかでも足取りは確かだし。まあなんて若々しい92歳かとびっくりしますよね。それこそあと3年でチビ中村屋がお披露目だから、それまでがんばって見届けてね小山三さん……!って思いました。

七之助くんの鏡獅子ははじめて観るかな。勘三郎さん勘九郎さんのはみたことあるけど。ほぼ安定した踊りっぷりでとてもキレイだったけど、ちょっと扇捌きでもたついたとこもあってヒヤッとしたり。しかし後半の獅子の場面、ひときわ大きな音でバンッと段から舞台に降りた瞬間の迫力と気迫に、はっと息を飲んだのだけど。その瞬間、いわゆる「ジワがくる」というヤツが客席に起こって、ちょっと鳥肌が立ちましたよね。わああーこれが「じわ」か! と思って。玉三郎さん見てる時でもたまにあるけど、私が見てる限り玉三郎さんの時は観客がみんな息止めちゃう感じで、舞台からハケた後に「はあ〜」と溜息ついて緊張がほぐれる……みたいなのが多かったような気が。コクーン歌舞伎なんかでも息を飲む瞬間はあったけど、立ち回りの派手なシーンとかだと客席の空気の微妙な動きが解ることって少ない。今回みたいに「じわっ……」と空気が動くのって、実はあんまり実際には見られないんだよなあ。

そういえば今回の胡蝶は鶴松くん18歳と扇雀さんの息子・虎太郎くん15歳。なんかもっと小さい10歳くらいの子たちがたどたどしく一生懸命踊るイメージだったんだけど、さすがにふたりとも落ち着いてしっかりした踊りだった。「ああ、本来はこういう振りなんだなあ」と思ったり。あと筋書きの鶴松くんの写真がもう昔の子供っぽい写真じゃなくて18歳の青年らしくなってて、「わあー成長した……!」って思いましたよね。清水大希くん時代から見てたからちょっと感慨深くて……そうか、歌舞伎ファンのおばちゃんてみんなこんな気分なのね……もう私もすっかりおばちゃんの域に入ってきたわけだな……。うん……。

http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2013/08/post_62.html

一、新版歌祭文 野崎村(のざきむら)
お光   福助
久松   扇雀
お染   七之助
久作   彌十郎
後家お常 東蔵

二、新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)    
小姓弥生後に獅子の精 七之助
胡蝶の精       虎之介
胡蝶の精       鶴松
用人関口十太夫    宗之助
家老渋井五左衛門  由次郎