NODA・MAP「逆鱗」


出典:TOKYO HEADLINE

近年の野田さんの作劇王道パターンにのっとった展開の舞台でしたね。「あるモチーフを用いて何かについてテンポよくコミカルに語っていく前半、それがある別のテーマについて語っていることが明らかになるシリアスな後半」といったような構成で、「エッグ」「ザ・キャラクター」「ロープ」「オイル」あたりを思い出す人も多かったんじゃないでしょうか。冒頭のモノローグがラストに繋がるパターンのアレでした。

以下、どうしてもネタバレしないと感想が語れないので、これからご覧になる予定の方はご注意下さい。まあ私も劇評やらTwitterやらでなんとなく「今回のテーマは◯◯◯かー」というのはわかった上で観てたので、知っていてももちろん面白く観られるとは思うのですが。やはり「あっ、今回のテーマはそういうことなのね」と気づく瞬間のあの驚きがあったほうが楽しめると思うんですよね。
今回は人魚ショーを行うために人魚を募集する水族館が舞台。そこへ人魚の松たか子がやってきて……とめまぐるしく展開する物語。席が2階席だったので「ちえっ、あんまりいい席じゃないなー」と思っていたのですが、人魚を演じるアンサンブルのみなさんの動きや水中を表現する照明などのステージングがすごく綺麗で、「あっこれ俯瞰で観たほうが楽しいやつだ」と嬉しくなりました。振付はイデビアン・クルー井手茂太さんなんですね。美しかったです。

後半、魚の鱗に書かれた暗号「NINGYO EAT A GEKIRIN」の字がアナグラムで「NINGEN GYORAI KAITEN」になり、「人魚=人間魚雷」であったことがわかり、一気に物語の舵が第二次世界大戦期に切られます。終盤、特攻兵たちの上官を演じる阿部サダヲの凄さったらなかった。出撃を命じながらそれぞれの兵士の心のなかの声を語り、それを十数回きっちり繰り返してなお中だるみすらさせず緊張感を高めていくあの場面、すごかったなあ。

そしてラストの松たか子の声ね! Twitterでも「ラストの声が耳から離れない」というような感想を見かけていたので何かあるんだろうなとは思いながら観ていたけれど、それでもあの叫び声を聞いた瞬間は本当に身体が震えたものね。「うわぁ、みんなが言ってたのこれか!」ってなりましたもんね。オイルの時もそうだったけど、野田さんの舞台の松たか子は本当に何かの依り代のよう。何かが憑依してるように見えて鳥肌が立ちます。

第二次世界大戦中の日本軍の過ちを描く」という意味では「エッグ」に近い作品ではあるんですが、「エッグ」で感じた「日本の体制に対する怒り、糾弾、批判」というようなトーンはやや薄く、どちらかといえば「海の底に沈んでしまった兵士たちへの悲しみ、鎮魂、追悼」というような色合いが強かったように思えました。ちょうど観たのが「3.11」の翌日だったので、津波で海に沈んだ人々への鎮魂の意味を勝手に感じてしまった部分もあるかもしれません。パンフレットの中に野田さんの「逆鱗はエッグのようにはしたくない」というコメントがあって、具体的にどこがどうとは書かれていなかったのですが、おそらくその辺がエッグから逆鱗で変えてきた部分だったのかなあなんて思いました。

余談。池田成志さんがTwitterで数日前から眼の不調をつぶやいておられて、ツイート通り舞台ではアイパッチをつけて登場してたのだけど。まあうさんくさめのキャラにあっていてそんなに違和感はなかったな。ただ中盤で使われる映像のほうは修正できなかったようで、「映像中ではアイパッチつけてないのにそこから出てくるとアイパッチ姿」という微妙に違和感のある状況が生まれていました(笑)

野田地図 第20回公演「逆鱗」
http://www.nodamap.com/gekirin/

出演:松たか子 / 瑛太 / 井上真央 / 阿部サダヲ / 池田成志 / 満島真之介 / 銀粉蝶 / 野田秀樹 ほか

作・演出:野田秀樹
美術:堀尾幸男
照明:服部基
衣装:ひびのこづえ
選曲・効果:高都幸男
振付:井手茂太
映像:奥秀太郎
美粧:柘植伊佐夫
舞台監督:瀬崎将孝