キンキーブーツ(日本版)@新国立劇場中劇場

トニー賞のパフォーマンスが楽しそうだったので気になっていたんですよね、キンキーブーツ。小池徹平くんも三浦春馬くんもまあ舞台のキャリアはあるし悪くはないだろう、でも来日版観れば十分かなーくらいに思っていたんですよ、最初は。爽やか系イケメンふたりがさわやかに微笑むポスターも明らかに普段芝居を観ない人向けのPRっぽい作りだったので、まあ無理してチケット取ることもないだろう……と。

私を含め同じようなテンションだった周囲の演劇ファンの空気が一変したのは公開稽古での「Sex is in the heel」の映像が出回った瞬間。三浦春馬が高いピンヒールを完全に履きこなし、セクシーな仕草で、キレッキレで力強く踊る動画を観た瞬間に「なにこれすっごい」「これはチケット取らなきゃあかんヤツじゃない……?」とTwitterのTLがザワザワし始め、雪崩を打つように私を含め友人たちもチケットを押さえはじめましてね。そして初日。ゲネプロの舞台映像でドラァグクィーンの衣装をつけた三浦春馬の姿を観た瞬間、「よし、これは間違いない……!」と、軽率にチケット買った自分を褒めてやりたくなりました。私なんてシアターオーブのチケット抑えたにも関わらずガマンならずに新国立劇場の当日引換券買ってしまいましたからね。だってオーブより新国のほうが席が近くてよく見えるに決まってるんですもの!
さて前置きが長くなりましたが、本題。
いやーぁぁぁぁよかったですわ日本版。演出も美術も衣装もBW版をほぼそのまま移植してるのでまあ悪いわけがないという感じです。ちょっと音響に難があるのと、日本語歌詞とはいえ英語交じりなのとで、やや歌詞を聞き取りづらいという面はありましたけれど。また翻訳のせいなのかこちらの理解不足なのか物語を端折りすぎなのか、ストーリー展開に「あれっ?」と思う箇所もありましたが(ドラァグクィーン用のブーツを作りはじめたはずなのにミラノに出品するときにドラァグクィーンをモデルに使わないとチャーリーが言い出すあたりとか)、まあミュージカルにはよくあることだったりするのでそれはそれで(そんなこと言い出したらレミゼはどうなる……)。そんなこんなで多少の難はあれど、にぎやかな演出の楽しさがもう!最ッ高!でしたよ。振付家が演出してるだけあってとにかくダンスとパフォーマンスで魅せる作品でした。トニー賞のパフォーマンスにも登場したベルトコンベアの「Everybody Say Yeah」や、ラストのブーツお披露目の「Raise you up」なんかのショーとしての楽しさは、もう絶品。それはもう自然に笑顔で手拍子してしまうような楽しさで、本当にハッピーな気分と満足感を胸いっぱいにかかえて家に帰ることができました。物語のテーマとしては「多様性を受け入れよう」ってところをメインに、父の理想通りに生きられなかった息子の葛藤、中小企業の奮闘や恋愛が絡まってく感じですね。まあ確かにコレは多様性の物語が大好きなトニー賞に選ばれるだろうなあといったところ。

それにまあ何がすごいってやはり三浦春馬の凄さに尽きると思うんですよね。新感線のジパングパンクも観てるので歌って踊れるってのは知ってたし、大舞台で決して見劣りしない役者だというのは知っていましたけれど、それでもこのローラ役は正直予想の遥か上だったというか。ローラの登場の瞬間、あれはほんと「ミュージカル界に新たなスター、爆誕!」って感じでしたよ。そりゃ、さすがにミュージカル畑出身の俳優さんに比べるともう少し歌に声量とパンチがあれば……とは正直思いましたけれど(こないだ帝劇でエリザベート見たばかりなもんでほんとすみません……)、いえ、そんなことどうでもよくなるようなあの肉体とダンスの説得力。登場ナンバーでのあの筋肉とダンスを観たら、もう彼は「ただのさわやか若手イケメン俳優」じゃないって一目瞭然ですもの。女性なら誰でも高さ15センチのピンヒールを履くのがどんだけ足に負担をかけることか身体で実感していると思うんですけれど、それを履いてあれだけ踊りこなすって、一ヶ月の稽古期間くらいじゃできないと思うんですよ。相当な時間と努力で稽古前から鍛えないとあんなふうにバッキバキに踊れない。だから、あの肉体とほんの数分のダンスを通して、気の遠くなるような長い時間をそこに見て感動してしまうんだろうな……とそんなことを思いました。ゲネプロの映像みた瞬間から「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチやってくれませんか……」と思ってしまったくらい。それって最上級の褒め言葉ですもん。あのムッキムキにマッチョな上腕二頭筋と、女性にしか見えないセクシーな脚から腰のライン、ほんと一見して男だか女だかわからない身体つきになってて、「プロや……!」と思いましたねえ。

しかも、すごいのはそれだけじゃなくて、中盤にローラが男の格好で靴工場に現れる場面。本当に「似合わない男の服を着て、居心地が悪く、防御力が完全に落ちてる状態」に見えるんですよねえ。三浦春馬が男の格好をしてたら普通にイケメンに見えるはずなのに、すごく似合わなくて残念な状態になってる人がいる、と一発でわかる。ローラにとってはあのドラァグクイーンの格好とピンヒールは自分らしさを表現するための戦闘服であり、心を守る鎧と盾なんだなあと、そんなことがちゃんとひと目で伝わるのがすごいなーと。

「男性の体重を支える丈夫なブーツを」とチャーリーが頑丈な(でもだっさいデザインの)ブーツを作った時、それを見たローラが「女性らしさはこの細いピンヒールにあるのよ!」と言わんばかりに踊る「Sex is in the heel」のシーン、稽古場動画やゲネプロ動画で何度も見てしまったけど本当に大好き、もう何度見たかわからないし、それでもまだ繰り返し観てられる。振付家はたぶん「ヒールを履いた女性の足の美しさ」を最大限引き出すような振付をしたんでしょうね。とても攻撃的で力強くて、フェティッシュな美しさのあるダンス。しかもこの女性的な動きのダンスをドラァグクィーン役の男性たちが踊るわけで、なんというか「歌舞伎の女形」や「宝塚の男役」みたいに、性別を逆転することによって生じる過剰な色気やカッコよさみたいなものがあるんですよね。それでこれをまた三浦春馬がキレッキレに踊るんですよ! オリジナルキャストの動画も見たけどダンスのキレの良さだけなら正直三浦春馬の方が上なんじゃないかと思いました。本当にすごい。三浦春馬だけでなくエンジェルズの皆さんのダンスも素敵なんですよねえ。「設定的に彼らは男のはずだけどあのダンス女性にしか見えない……」と思いましたもんね。思わず公式サイトで確認してしまったけどやっぱり男性ダンサーですもんね……いやほんと見事……。もうほんとこれは何度でもおかわりしたい作品でした。円盤……でませんか……でませんよね版権ものだものね……

私が観たのは初日が開けてまだ間もない時点だったので当日券も余裕で取れてたみたいですが、次の週末にはもう当日券の抽選に漏れてしまう方も多かったようですね。口コミの威力とあの動画の威力ハンパないです。いやーそれにしても本当に楽しかった。舞台を観る楽しみというのはこういう作品に出会うことにあるのだなあ! 至福!