劇団☆新感線「髑髏城の七人」Season春


出典:ステージナタリー「360°回転の客席と疾走する景色!「髑髏城の七人」小栗旬、新劇場に颯爽と登場」

別記事にも書きましたが「客席の周りを360度舞台が取り囲み、座席が回転する」という何がなんだかわからない新劇場の柿落とし公演を観てきました。劇場好きとしては「演目がどうであれ一度は観てみたい」と思っていた劇場だけに、新感線が柿落としを飾るというのはそりゃもう朗報だったわけですが。しかし「キャストを4パターン変えて1年間のロングラン」と言われると、「もう観る前から髑髏髑髏髑髏髑髏でお腹いっぱいだよ!」という気がしなくもありません(←そもそも全バージョン観る前提なのがおかしいんですが)。

とはいえ新劇場の柿落とし公演、しかもその初日(!)のチケットを手に入れることができて、すっかり浮かれて劇場に向かいました。なんだかんだ言って一番乗りで新作新劇場を観ることができるのはワクワクしますからね。先に結論だけ言うと「色々とハード面での課題はあるけど、役者はそれぞれハマり役で面白かった」という感じです。初日なのでさすがに物語のグルーブ感には欠けましたが、これはおいおい良くなっていくでしょうし、なによりこれだけの機構の劇場でトラブルらしいトラブルもなく無事終演したのですからそれだけでまずはよしとする感じではないでしょうか。(十数年前は新感線の初日といえば出来が大変アレだったので、ソレを思えばもう文句ナシとすら言えます)

さて、ネタバレらしいネタバレもないですが、これからご覧になる方は以下は薄目でどうぞ。



物語は2011年の「ワカドクロ」バージョンをベースにした感じで、大きく変更になっているのは天魔王(成河)のキャラでしょうか、それに伴い天魔王と蘭丸(山本耕史)の関係性も調整が入ってる感じです。古田さんや染五郎さんが演じた天魔王は圧倒的に強いダースベイダー的なラスボス感だったのですが、成河くんの天魔王は「足が悪い、顔が焼けただれている」の特徴を持ち、まるでリチャード三世のよう。卑しさと人徳のなさ、器の小ささが全面に出ています。蘭丸のことを「兄者」と呼ぶなど、これまでのような主従関係ではなくなっていますね。

全体の構造的にも、1997年版&2004年版では「沙霧の視点から観た捨之介と天魔王」が中心軸になってる作品だと思うのですが、2011年のワカドクロと今回の作品は捨之介と天魔王を別の俳優が演じていることから、ほぼ群像劇に近くなっている気がしますね。2004年版までは「沙霧+捨之介」のメインストーリーを追っていけば初見の観客も迷子になることはなかったと思うのですが、今回はキャストの見せ場のバランスのせいか「天魔王・捨之介・蘭丸」の三人の因縁をめぐる物語がメインになっている感じで、後半に入るまで「物語がどこに進んでいくのかわからなくて気持ちよく話に乗れない状態」になってないかなーとちょっと心配になったりしました。まあ前半がだいたい「登場人物紹介」で、休憩前のシーンからやっと物語が転がり始めるのは新感線あるあるなんですけれど。髑髏城の場合は休憩後の蘭丸の翻意からが本番なので、前半あまり話が進まない印象があるんですよね(とはいえ後半の怒涛の展開でその前半のもんにゃりが帳消しになるんですけれど)

客席を舞台が360度囲っているのですが、使用してない部分のセットはぐるりとスクリーンで覆って隠している感じです。そして場面転換も一度スクリーンを閉じて客席回転、次の場面のセットのところのスクリーンをオープン、という流れで転換していきます。転換の間は暗転するわけではなく、その都度スクリーンには映像が投射されますので、スーッと草原を移動している感じがあったり、髑髏城を下から上に駆け上っていく感じがあったりと、かなりアトラクション感があるのは新鮮でした。ただ、この舞台機構って「セットをいちいち転換せずに客席を回すからスピード感あふれる芝居ができる」ってのがウリだったと思うんですけど、もともといのうえさんの演出って暗転しないし場面転換もスピーディなんですよね。従来に比べるとむしろ「スクリーン閉じる→客席回す→次の場面オープン」の流れでスピード感は削がれてるように思いました。まあこの辺は初日のぎこちなさもあるかもしれませんので、後々改善されていくかもしれませんが。映像や舞台セットは全体的にモノトーンの水墨画のようで、無界屋でさえもちょっと簡素です。印象としては黒澤映画的な画面作り。この劇場機構であれば動かさないことが前提なのだからもうちょっと美術だけでびっくりするようなガッツリしたやつを……と期待していたのですが、無界屋なんかはむしろいつもよりシンプルな印象でした。鳥バージョンでは極彩色に変えたりしてメリハリつけるんでしょうかね? 川や雨の本水は「おー」と思いましたけれど。

あと、贋鉄斎の仕事場や天魔王の間など、場面によってはこの舞台の開口部分が狭くて、サイド席からだと視界にストレス感があるんですよね。席位置によっては完全に見切れて見えない演出もあるでしょうし。無界の里や川の場面などほぼ90度開口する時はかなり開放感あるんですけれど。前方センター席ならどの場面もさほど気にならないでしょうが、後方席やサイド席からだと場面によってはちょっとイライラモヤモヤします。ただまあスクリーンが180度がっつり囲っているので、映像効果は後方席からのほうがよく分かるかと思います。客席回ってる感もたぶん後方席のほうがわかりやすいんじゃないかと思いました。

小栗くんの捨之介はワカドクロのキャラを踏襲してる感じで、今回も「女好きで遊び人」ではなくなってますね。自分のしたことのせいで熊木衆を追い詰めてしまったことに負い目を感じているため、沙霧を助けようとすることに説得力は出ています。天魔王の成河くん、これまでの天魔王像をガラリと変えてきていて、キレッキレです。あー成河くんでリチャード三世観たいなあ!と思ったり。片足が悪い、という身のこなしなのにアクションはキレる、というこの難しい立ち回りを見事にこなしていて「ファー!」となりました。身長がちょっと低いから従来の天魔王像だとちょっとビジュアル的に弱いかもと思っていましたが、このキャラ変更はいいですね、実に似合っていて説得力あります。まあ正直天魔王と蘭丸の関係性は過去作のほうが好きは好きなんですけれど、どう出てくるかわからないトリッキーな天魔王というこのキャラ改変はこれはこれで良いですね。

山本耕史くんの蘭丸、もう一切笑いのないシリアスな役でカッコイイが過ぎて逆に笑ってしまうヤツでしたね。そもそも登場シーンの決め台詞言いながらの立ち回り、アレ97年版では粟根さんがでっかりそろばん振り回しながらキメてるやつじゃありませんでしたっけ。みんな爆笑しながら「かっこいー(笑)」ってなってるヤツだったと思うんですが、もう今回は一切笑いナシで西川貴教みたいに風あびながらキメていて、笑うところじゃないのに笑ってしまいました。まあしかしさすがに身のこなしでまだまだ余裕ある感じだったので、今後はもっとキレッキレになっていくんでしょうね。楽しみです。まあしかし山耕さんならきっと「女好きで遊び人」の捨之介と天魔王の二役でもこなせるんだろうけどなー、蘭丸よりそっちを観たいなー、と思わないでもないのですが。

そして特筆すべきは沙霧役の清野菜名ちゃん。いやーすごい!ものすごく滞空時間長いジャンプでアクションに見応えがあります。兵庫にドロップキックきめた時とかあまりの見事な飛び蹴りで本気で笑ってしまいました。彼女でアクション映画一本撮れるな、と思いましたよね。脚本的に前半の沙霧と捨之介のからみがちょっと減っているのが残念、もっと見せ場があってもいいのにと思いました。

で、贋鉄斎の古田さん。もう出てきてひとことセリフ言っただけで客席の空気を一気に温めてくれます。すごい。安心感ハンパない。登場シーンは少ないのに出て来るたびにまったく外さず完璧なタイムリーヒット打っていくんですよね。なんという頼れる四番打者。そして問題の百人斬り、あの場面はなんというかもう、ズルい。観た方ならわかると思うんですが、すごく頑張ってるはずの小栗くんにまったく目がいかないんですよね、もう古田さんしか目に入らなくて。いのうえさんの演出とはいえ、アレはさすがに小栗くんが可愛そうになりました(笑)。

りょうさんの極楽太夫は従来よりも蘭丸に対する気持ちが恋愛感情に近いところにありそうな役作りでしたね、これまでは割と同士としての連帯感だったと思うんですが、今回は個人としての恋愛感情が強そうな印象でした。それだけに兵庫の哀れさが際立つというか。その兵庫を演じた青木崇高くん、まあ予想通りキャラにあってる感じでしたね。まだややぎこちない感はありますが、直情的な兵庫のイメージそのもので悪くなかったと思います。

というわけでとりとめなく感想だらだら書いてしまいましたが、若いキャストが多いだけに後半の伸びが楽しみな感じでしたね。まあなんやかんや言って個人的には「97年の髑髏城こそ至高」派というめんどくさいファンなので、それ以降の作品は心のハードルを下げて観ている感は否めませんし、あの時のような居ても立っても居られないような興奮は無いのですけれど。しかし、新感線がこれだけの大プロジェクトを成し遂げる劇団になってしまったというのにはやはりどこか感慨深いものがあります。いくら客演が多いとはいえ「劇団」の形でこれだけの観客を動員できるのは四季・宝塚の他にはもう新感線くらいしかいませんものねえ。

あ、そうだ。最後のカーテンコール、「これやってくれないかなあ」と思っていた演出をそのまんまやってくれたので、「ああいのうえさん解ってらっしゃる!大好き!」と思いました。