宝塚花組「邪馬台国の風/Santé!!」
公演概要の発表の時から微妙に嫌な予感のしていた「邪馬台国の風」。「まさかみすず学苑CMみたいな角髪じゃないよね……?」と思っていたのでポニーテールのビジュアルにホッと胸をなでおろしていたのもつかの間。宝塚大劇場の初日から評判はアレコレと漏れ聞こえていたのである程度は覚悟をして観劇したのですが。いやー。(しばし言葉を失いながら)……いやー。なんていうか、すごく懐かしい雰囲気の作品でした。20年くらい前の作品を、そのまま手を加えずに当時の演出のまま再演してみました……みたいな? ちょっと久しぶりに見るアレな作品に、口から魂が抜け出ていくんじゃないかと思うほどでした。これを繰り返しリピートする花組贔屓の皆さんはお疲れ様ですとしかいいようがない。
舞台は古代日本、激しく対立する邪馬台国と狗奴国。幼い頃に両親を狗奴国の兵に殺されたタケヒコは武術を身につけたくましく成長。お師匠様を殺されたことをきっかけに山を降りて邪馬台国の兵にスカウトされる。タケヒコはかつて命を助けたことがあるマナという娘と再び邪馬台国で出会うが、彼女は手の届かない存在の巫女になっていた……という物語。
設定としては特に悪くないんですけれど、まあ話の展開や演出はツッコミどころ満載。子役タケヒコが棒術の練習をしながら袖に駆け込んだと思ったらその棒を持って大人タケヒコが登場、というまるで「ベルばら」オマージュな演出には、思わず同行者と肩を震わせて笑ってしまいましたし。「お前は大きくなるのが早いなあ」というお師匠の言葉もウケ狙いなのか違うのかよくわからないテンションの言い方で思わず失笑。「卑弥呼様がオノコを帳に侍らせた〜」みたいなド直球の歌詞を2回リピートして歌い上げるのもなんか雪組の「スサノオ」(2004)みたいで懐かしいですね。「大切なことだから2度言ったんですね、わかります」と心の中でつぶやかないと正気を保てない、いたたまれなくて間がもたない、そんな気分でした。
これでも宝塚大劇場の初日と比べるといろいろと改変があったようで、前のバージョンを見てる人から見るとだいぶ良くなっているそうなのですが、まあ、言葉を選ばずにぶっちゃけて言うと「久しぶりに見る駄作」という感じでした。15年前くらいに私がヅカを見始めた時はこういう作品結構あったと思うのですが、最近は若手〜中堅の演出家先生がいい作品を作ってらっしゃるのでここまでスッカスカなのはあまりお目にかからなかったんですよね。あまりに平面的な奥行きのない演出に「せめて盆は回そう?セリも使おう?」と思っていたら後半いちおうそれぞれ一箇所使う場面は出てきたのですが、音楽のまったくない無音のシーンで使うものだから装置の稼働音が2階席まで聞こえてくる有様で、「盆とセリを使う時は音楽かけよう?」と思いましたよね。
「まあ明日海りおもトップになって長いし……大劇場作品も6本目ともなれば、ハズレ作品に当たることも仕方ないよね……」などと贔屓の自分を慰めたくなる内容ではあったものの、アレなのは脚本と演出であって、生徒さんには罪はない。なんていうか、みな頑張っていました。こんな内容でもちゃんと演技で埋めて絵面で魅せようとする生徒さんたちの頑張りには素直に拍手をおくりたいです。
しかしまあ10〜15年くらい前のトップさんの贔屓だった方は強い。「◯◯さんの時はこんなんばっかりだった」「新作書き下ろしでのアタリ作品なんてトップ時代のうち1本しか無かった」「時代物は衣装見てれば間が持つからまだいいよ、スーツ物の駄作なんて地獄よ?」みたいな話がボロボロ出てきて皆さん鍛えられてるなあ、と……。
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さて休憩時間にひとしきり毒を吐いて、気を取り直してショー「Santé!!」。「2〜6番手路線男役が女性の姿で登場」の場面から始まるのですが。本来は女性が女性の格好してるだけでなんにも違和感ないはずなのに、メイクは男役のままだし皆さんもう男役が身体に染み付いていらっしゃるせいで、ほんとこの宝塚のショーに登場する「女性の姿の男役」はひとことでいって「女装」感があるというか、ぶっちゃけオカマっぽい圧の強さがありますね。嫌いじゃないんですけれど。キレイだし。
4月にみた全国ツアーの「EXCITER!!2017」も同じ藤井大介先生演出のショーだったのですが、今回の「Santé!!」も客席降りアリ、ウインクがばちばち飛んできて、花組男役のオラオラ感が前面に出たショーでしたね。「全力で!お客様を!釣らせていただきます!」という組子たちの熱さが感じられるというか。2階席で観てたので落ち着いて観られましたけど、1階席で見ていたら正気を保てた自信がありません。通路際の席がとれていたら私もグッズのサンテグラス買って前のめりで生徒さんにサンテしてもらっていたことでしょう。
しかしこのショーの白眉はやはり大階段黒燕尾の場面でしょうか。安寿ミラさん振付で、匠ひびきさんサヨナラ公演「Cocktail」の大階段の場面を再演。トップさんもスパンコールのないシックな黒燕尾で、まさに正統派ド直球の宝塚の様式美を見せてくれる場面というか、「これぞ!黒燕尾!」とファンが嬉しくなる場面でした。見応えありました。芝居で落ちた気分を取り戻して余りある熱気あるショーで、「ああ!宝塚の!ショーを!観た!」と満足感とともに劇場を出ることができました。