宝塚雪組「凱旋門/Gato Bonito!!」


出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


凱旋門エリッヒ・マリア・レマルクの小説による−」は18年前の作品の再演。第二次世界大戦前夜のパリ、ドイツからの亡命者である外科医のラヴィックとロシアからの亡命者ボリスとの友情、ラヴィックと女優志望の女性・ジョアンとの恋、ホテルに集う各国からの亡命者たちの行く末を描いた物語です。全体的に重苦しいトーンの物語ではありますが、振付家でもある謝珠栄先生の演出でダンスシーンが多く、見応えのある演出になっていたと思います。今回、舞台美術と盆回しを多用した演出がとてもよかったです。建物を載せた盆がぐるぐる回ってパリの町並みを駆け抜ける様子なんかが表現されていて「装置使いが上手いなぁ!」と感心しました。

古い作品だけあって曲調はちょっと古く感じるものも中にはありましたし、衣装も地味めなので「宝塚を観た!」という満腹感には欠ける演目ではありましたが、まあ悪くない作品だったと思います。望海さんファンとしては芝居のしどころや萌え場は少ないものの、歌う場面が多くて聴き応えがありましたね。望海さんや美穂圭子さんなんかの超絶歌上手な方のお歌をバックに展開するシーンが多くて、「贅沢な使い方だなあ!」と思いました。センターでバリバリ歌える人が二番手ポジションで狂言回しですからね、たいへん贅沢感あります。

轟さんの舞台を見るのは実は久しぶりですね、もしかして生で観たのは15年前の花組レビュー誕生までさかのぼってしまうんじゃないでしょうか。ちょっと声が出てないという評判は聞いてて、確かにお歌の高音パートとか苦しそうな部分はあったのですが、それでもちゃんと歌詞を聞かせるあたりのテクニックで乗り切るのはさすがベテランだなあと思いました。「ザ・男役」が身に染み付いてるという感じでちょっとした仕草が本当にサマになるし、ラブシーンの娘役を扱う手付きとかは本当に上手いなあとしみじみしました。とはいえ、やはり轟さんがセンターに来ることにより組子全体の番手が一つずつ下がっちゃうのは組ファンとしてはちょっと物足りない部分は正直あります、再演だからあて書きでない役を演じることにもなりますし。二番手の彩風さんも彩凪さんも朝美さんもせっかくの路線メンバーが全体的に出番が少なく、「もうちょっと組子の芝居が見たいなあ」という不満はありました。雪組は次の公演がファントムで、これも4番手以下は印象に残る場面が少ない作品ですし。望海さんトップ就任してからはひかりふる路以外全部再演モノが続いてしまっているので、ちょっとそろそろあてがきで下級生に芝居させてあげてくださいという気がしています。

ヒロインの真彩希帆ちゃん、上手くなったなあーと思いました。ジョアンは女性の共感を得るようなキャラではないし難しい役だと思うんですけどね。誰かに依存してないと行きていけなくて、男を次々乗り換えていく、というタイプの女性。ボーイフレンドの急死で何の対応もせず街をさまよい歩き、ラヴィックに拾われてあっさりそちらに依存、やがてラヴィックが国外追放になって会えなくなると今度はアンリに……と、まあでも「いるよなあこういう女性」と思いますし、彼女なりの切実な処世術であることが伝わってくる役作りだったと思います。友だちになりたいタイプではないけれど、舞台の上の登場人物として観る分には魅力的だったと思います。

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出典:宝塚歌劇団公式ホームページ


さてショー「Gato Bonito!! 〜ガート・ボニート、美しい猫のような男〜」。こちらは「ザ・藤井大介!」という感じで非常に暑苦しいラテンショーでした。とても楽しくて体感5分です。雪組の前回のショー「SUPER VOYAGER!」も楽しいショーで好きな作品ではあったのですが、それでも「娘トップの出番少ない」「トップコンビのダンス少ない」「望海さんのエロみが控えめすぎる」とか物足りない点もあって。今回ガートボニートを観たらそれらの不満がすべて満たされていたので「大介先生わかってらっしゃる〜!好き〜!」ってなりました。

組子のアクセサリーがチョーカーじゃなくてがっつり「首輪!」って感じの首輪だったり、トップさんが登場するなり謎のベッドに這いつくばって観客を誘うように歌ったり、2〜5番手の男役がお背中全開の男だか女だかわからない中性的なエロい格好でトップ男役とエロく絡んだりとか、その挙げ句トップが二番手の首に噛み付いて二番手が恍惚な表情になったりとか、なんかもう「だ、大介先生!性癖がダダ漏れです〜!」って正直思ったりしましたけどね。いやあ楽しかった。


出典:ローチケ演劇宣言


前半のアルゼンチンタンゴの場面が大好きでした。あれは安寿ミラさん振付かな? 望海さんがタイを緩める仕草にドキッとするし、激しく足を絡ませるようなセクシーな振付もかっこいいし。真彩ちゃんの身体の反りが美しくてたいへん良いです。プロローグでもこの場面でも望海さんと組んで真彩ちゃんがばっと後ろに反り返る振付があって、そこが大変絵になるんですよねえ。歌舞伎の女形の方が殺される時とかによく後ろに反り返るやつやりますけど、ほんと身体の柔らかさと支える体幹がすごいなーと惚れ惚れしますね。ほかのカップルのダンスも振付それぞれ違うらしいのでゆっくり観たいんですけど、結局ご贔屓ばかり目で追ってしまって他が見られなかったのが残念……映像待ちですね。

藤井先生のショーでありがちな「何か混沌とした世界に現れる白い神様」のシーンは今回も健在で、サバンナに猫神様降臨、みたいな謎シーンになっていたのですが。でも圧倒的カリスマに「今日裏切られても 明日いいことがある」って歌い上げられると「そうだ明日を信じよう」みたいな気持ちになる不思議。最初映像で観た時は謎だと思いましたが、なんだかんだ嫌いじゃない場面です。

終盤、大階段で「二番手彩風さんが歌い上げ、トップの望海さんが踊る」という場面もなかなか胸熱でありました。ダンサーの咲ちゃんが歌って歌ウマなだいもんがばっきばきに踊ってましたからね。普通なら逆にするところをこの構成で見せてくれたのありがとう藤井先生、と思いました。しかも咲ちゃんの歌詞「そんなに欲しがるなら 今夜だけは抱いてやる」とかそんなものすごい歌詞咲ちゃんに歌わせて……もう……(感謝)そこからの男役群舞もひたすらカッコよくて「ああ かっこいい あーあーかっこいい」と完全に心の中が語彙消失してました。

今回本当に「トップコンビ」の魅力が十二分に発揮されたショーだったと思います。お互いに煽りあいながら歌う「コパカバーナ」の熱量、アルゼンチンタンゴのシーンやラストのデュエットダンスの挑発的な駆け引き、ほんと「ファンの観たかったトップコンビの魅力!」って感じで最高でした。真彩ちゃんは本当に色っぽくなったと思うしあの強い目ヂカラいいですね! お歌だけじゃなくダンスでも見せ場が多くてよかったと思います。中詰で咲ちゃんにヤキモチ焼くような素振りをみせるところもカワイイし、やりあってる咲&真彩を見て「ははは仕方ねえな」みたいな笑顔を見せる望海さんもかっこよくてあーもうほんと楽しかったです。

今回実は生まれて初めてSS 席で観劇したんですけど、ほんと舞台が近すぎてお口ポカーンとなる感じでしたね。オペラグラス無しでオペラ以上に近くてクリアに見える!という謎の感動が。銀橋渡っていく生徒さんからの目線と笑顔もがっつりいただいて本当に至福の時間でした。天国ってあるんだな!