宝塚月組「All for One」

月組を観るのは久しぶりですね! 明日海りおさんが月組にいらっしゃった頃はよく観てたのですが組替えしてからは「PUCK」くらいしか観ておりませんでした。今回は「三銃士」をモチーフにした小池修一郎氏の新作ということで、宝塚大劇場での評判もいいので久しぶりに観てみることにしました。

「舞台は太陽王と呼ばれたルイ14世が治めるフランス。銃士隊の新入りダルタニアンは王の剣の稽古相手に任命される。しかし王はダンスのレッスンに熱中し、剣術には興味を示さない。ある日ダルタニアンは、ブルボン王家を揺るがす王の秘密を知ってしまう…。ルイ14世の為に立ち上がるダルタニアンの愛と勇気の冒険を、共に戦う三銃士との友情を交え、壮大なスケールで描き出す浪漫活劇。」というのが公式のあらすじ。このルイ14世を演じるのが娘役の愛希れいかさんという時点で「んっ?」となるのがヅカファンですね。男役から娘役に転向したとはいえ現娘役トップがルイ14世? 男役トップとのロマンスは? と思ったら、案の定「ルイ14世は実は女だった」というのが芝居の序盤でそうそうに明らかになります。

王家に産まれたのは男女の双子、「双子は不吉」の言い伝えにより女の子のほうは捨てられそうになるが、うっかり取り違えられて王家に残ったのは女の子、捨てられてしまった男の子は一体どこへ? 仕方なく残った女の子のほうに男の格好をさせてルイ14世に仕立てたものの、年頃になった彼女はドレスや女性らしい格好に憧れを抱いてしまう。そして女の子の姿に身をやつして町へお忍びで出たルイ14世=ルイーズは偶然ダルタニアンと出会ってイイ雰囲気に。王宮でふたりきりの時にダルタニアンに事実を明かすルイ、そして男の姿でキスしてるところをモンパンシェ公爵夫人や家臣たちに見られてしまって大騒ぎ……。といった、まあどこかで聞いたような「いかにもラブコメ!」なエピソードが続きますが、まあベタとは言え素直に面白くて楽しいです。

なんやかやあって旅芸人一座の座長の息子・ジョルジュが実はルイ14世の生き別れの双子であることがわかり、ルイーズを救うため、そして王家を牛耳ろうとするマザラン枢機卿一派を追い落とすためにダルタニアンたちはジョルジュをあるべき王位に戻そうとする……という展開。王宮で演じられる劇中劇が双子の取り違えを描いたものだったりするあたり、「ハムレットの劇中劇だ……」と思ったりして、「三銃士」「とりかえばや物語」「ハムレット」などがミックスされて既視感ありまくりな感じではありますが、それでも、楽しいのは正義。面白いのは正義。ラストの絵に書いたような大団円まで、飽きずに楽しめる作品でした。

ダルタニアン役の珠城りょうさん、いいですね。二番手の美弥るりかさんより下級生という関係性がダルタニアンと先輩アラミスの関係性にハマっていて、なるほどこの三銃士の設定はいまの月組向きだなと唸りました。正直なところ、今まで写真や映像で見てるだけだと珠城さんの良さにピンときて無かったんですが、舞台でセンターに立ってるところを見て納得しました。まず単純にデカイ! 身長は172cmらしいのですがそれより大きく見えますね。胸板が厚いというか肩幅があるというか、仮面をつけて登場しても後ろ姿でそれと分かるデカさ。「ガタイがいい」としか表現できないデカさです。そして今回ダルタニアンというキャラのせいもあるかと思うのですが、とても健康的な明るさがあるというか、包容力と鷹揚さがあってガタイだけでなく雰囲気も「大きい」感じ。わたくし屈折した役ほど輝く明日海りおさんとか黒い役ほど輝く望海風斗さんとかがご贔屓なものだから、なんというかこの爽やかさと健康的な雰囲気に「ま、まぶしい……!宝塚にはこんなトップさんもいるのね……!?」と思いましたよね。月というよりまさに太陽。健康的すぎてトップとしては色気や危うさが足りないとかの不満を感じる方もいるかもしれないんですが、これは素敵な個性だと思いました。「結婚するなら珠城りょう一択」と言われるのも納得でした。この影のない健やかさと安心感、確かに理想の結婚相手!

そんでもってこの芝居のキモはやっぱりルイ14世役の愛希れいかさんではないかと思うのです。男のふりをしてる女、という設定を声も使い分けて可愛くコミカルに見せるの、さすが元男役というか。ちゃんと演技が上手くないと成立しない役ですもんね。娘役としては身長は高めなんでしょうけれど珠城りょうさんが相手だとしっかり小さく見えます。いいコンビ!

ダルタニアンを支える三銃士は、女性にモテモテで色気たっぷりの流し目アラミス(美弥るりか)、冷静沈着でヒゲも凛々しいアトス(宇月颯)、酒飲みで陽気な可愛らしいポルトス(暁千星)とキャラの描き分けも完璧。特に、群がる女たちだけでなく客席にも全方位で流し目を振りまいて観客を釣りにかかる美弥るりかさんのソロナンバーは楽しいですね。また王家を牛耳ろうとするマザラン枢機卿(一樹千尋)とその甥で護衛隊の隊長ベルナルド(月城かなと)一派もいかにもわかりやすい悪!役!という感じのキャラ設定。ルイ14世=ルイーズに言い寄り「エア壁ドン」「柱ドン」を決めるも「壁じゃないから」という理由だけですげなく扱われるベルナルド、悪役ながら面白さとカッコよさのギリギリの顔芸で笑いをもってってました。というか護衛隊4名を引き連れた隊長ベルナルド、どうみても「るろうに剣心」の御庭番衆をつれた四乃森蒼紫ですよね。終盤の立ち回りでレイピア二刀流になる小池先生のセルフパロディ雪組も見てるヅカオタなら「るろ剣でみたやつ!」と気づいて爆笑するやつです。

あとモンパンシェ公爵夫人役の沙央くらまさん、専科の男役なんですよね。すごい吹っ切れた感じのコミカルな演技で笑いをとってました。あの年齢の男役であの足の露出はOKなの……!?と思いましたが、楽しそうに生き生きと演じていらっしゃいました。そして今回気になったのはジョルジュ役の風間柚乃ちゃん!! 旅芸人一座の中にあってシュッとした感じの佇まい、これはまあもちろん「実は王族」の設定があるからなんでしょうが、やはり目をひきますね。出てきて即座に「あっこの子がルイの双子……」と推測できるオーラありました。夏目雅子さん・田中好子さんの姪御さんということで名前だけは知ってましたが、やっと顔と名前が一致しました。しかもラストのショーの群舞でオペラグラスの視界に飛び込んできたものだからついつい目でおってしまうオペラ泥棒。今後が楽しみですね。

小池先生のあてがきもあるんでしょうけれど生徒たちの個性が色とりどりで、「ああ、月組いいなあ、キャラもたってるしみんなキラキラしてるし、素敵な組だなあ!」と久しぶりにみて思いましたよね。観なければいけない組が増えてしまうのは嬉しい悲鳴。困ったものです。それと、個人的には今回の作品、小池先生の「芸術性とかオリジナリティとか作家性とかそんな物は犬にでも食わせとけよ、俺ぁ劇団ファンの観たい物を見せるんだ」といった感じの「座付き作家としての心意気」的なものを感じました。組内のポジションやキャラまで考慮した描き分け、お見事でした。「楽しい」は、正義!(二度言った)

花組邪馬台国雪組のキャプテンネモと推し組にいささかアレな作品が続いていた同行者が、休憩時間に思わず「いいなあ!面白くて!」と結構なボリュームの音声で悔しそうにつぶやいたのが面白かったです)
月組公演 『All for One』 | 宝塚歌劇公式ホームページ