宝塚宙組「NEVER SAY GOODBYE」@東京宝塚劇場

宝塚歌劇団公式ホームページより ポスター画像

宙組のコーラス力とフィナーレの破壊力に気持ちよく殴られる作品でした。楽しかった!(いや作品テーマ的には決して楽しい内容ではないのだけど)

この作品は初演の和央ようかさん花總まりさんサヨナラ公演も観ています。当時はなんとなくモヤっとした感想であんまり名作という印象はなかったんですが、今回見てその理由に思い当たりました。1930年代のスペイン内戦というあまり縁のない設定なので、こちら側が前提となる知識に欠けること(まあ設定がわからずともメインの筋立てが迷子になることはなく観られるように作ってはありますが)。そしてもうひとつ、女帝と呼ばれた花總まりさんの退団公演なのに役がそこまで大きくないように感じられたこと(ベルばらのアントワネットやエリザベートなどタイトルロールいくつも演じてる方なんだからもう少し見せ場があっても…と)。それと、ラストが戦地に向かう主人公でそのまま帰らぬ人となることを匂わせるラストなので、まあ退団公演らしいといえばらしいんだけど、こんな悲しい終わり方あるかよ…の気持ちにもなったこと、でした。

今回はトップコンビの退団が絡まない公演なので、ストーリーの筋立てがそんなに気になることも無かったですし、娘役トップの扱いも通常モードの宝塚という感じで物足りなく思うこともありませんでした。むしろあの花總さんの役を潤花ちゃんは臆さずよくやり切ったなと思うほどで。そして戦争がテーマだったりそこにソ連の影響があったりと現在の世界情勢がつい脳裏に浮かんでヒリヒリする状況であることも心に響く要因のひとつだったかなと思います。ここはまあ「現実を忘れたくて宝塚に来たのに」という観客にはきついものもあるかとは思うのですが、「戦争」が遠い昔の遠い国の絵空事でなく、身近なテーマとして受け止められたので、「いまそこにあるドラマ」として心に刺さったのかなと思います。

まあそれしてもワイルドホーンさんの楽曲はほんとキャッチーでメロディアス。どの曲も耳のこりが良くて口ずさみやすい! 宙組の重厚なコーラスとあいまってとても聴きごたえのある作品に仕上がっていました。真風さんは冒頭で若干チャラそうな売れっ子カメラマンと見せかけておきつつ、ホテルの部屋でキャサリンに写真を見せてポーランド生まれと語るあたりからぐっと感情移入させてきて良かったですね。
潤花ちゃんも大人っぽい雰囲気なので自立した女性ヒロインがよく似合う!歌よりもダンサーな方という印象でしたが、歌も良かったですね。宙組トップ娘役になってからほんととても魅力的になってるのでまだまだ辞めないで…の気持ちです。長期で残ってくれないかな…まだまだいろんな役で観たい娘役さんです。

芝居の最後はジョルジュが戦地に向かいもう戻らないことを匂わせて終わるので、「戦争良くない…人間は愚か…」みたいなずっしりした気分になってしまっていてフィナーレへの気持ちの切り替えが難しく…。いやそんなん雪組でも散々ファントムとかワンスとか「悲劇から一転陽気なフィナーレ」ってやってきたんですが、やっぱり「戦争」ががっつり重いテーマだからでしょうね、芹香斗亜さんのソロ銀橋渡りが始まってもなかなか気持ちが浮上せずしょんぼりしていました。まあそうはいっても大階段群舞が相当にヤバいやつで「私が宙組ファンならこの群舞のためだけに通える」と思いました。マントぶんぶん振り回しながら煽ってくるあの男役群舞なんすか…あんなんヅカオタが大好きなやつじゃないですか…!

そんなわけで重厚なコーラスと重厚なテーマに打ちのめされた挙句、フィナーレの男役群舞に無事命を取られて帰ってきました。見応えありました!