宝塚宙組「天は赤い河のほとり/シトラスの風」


出展:宝塚歌劇団公式ホームページ

真風涼帆さん&星風まどかさん新トップコンビお披露目公演、行ってまいりました! 2.5次元はお任せ!な演出家・小柳奈穂子先生でも、さすがに単行本28冊分を1時間半にまとめるのは厳しいのではないか……と思っていましたが、やはりストーリー面についてはちょっとダイジェストすぎて感情移入しそこねた感がありました。タイムスリップした女の子と古代ヒッタイトの皇子様の恋物語、王位継承者争い、ヒッタイト・エジプト・ミタンニが拮抗する外交情勢……と、てんこ盛りのお話なので、やっぱり一本物でないと難しいですよね。

どう考えても尺が足りない中、それでも見せ場を作って各キャラに割り振っていたので、脚本に苦心の跡が見えた感じでした。せっかく狂言回し役がいたのにラムセスにあんなに長い説明セリフ言わせなくても〜という気もしましたし、ナキアとネフェルティティの少女時代の回想描写もどこか似たような雰囲気で「ストーリー的にコレいるかな……?」と思ったり。下級生へ出番を与えるための座付き作家のおしごと……と思いつつも、そこに時間を取るよりはもっとメインのふたりが惹かれ合う過程を見せて、と思いましたけれど。

まぁストーリー面ではちょっと不満もありましたが、それでもカイル(真風涼帆)・ラムセス(芹香斗亜)・マッティワザ(愛月ひかる)の1,2,3番手がバーン!と登場するオープニング、そしてあの耳に残るテーマ曲、という演出には「ああーもうここだけで5万点!」と思いましたよ。ビジュアルの強さがすごい。92期のトップ、93期の二番手三番手、本科予科を同じ時期に過ごした生徒たちのトライアングルってかつて前例あったんでしょうかね。しかも真風175cm、芹香173cm、愛月173cm、ヅカ男役の中でもとりわけ長身の男役たちがセンターに立つこの絵ヅラ! 最高か!

そして175cmの真風と星風まどかちゃんのこの身長差カップルぶり……絵ヅラがつよい……(もういい)。まどかちゃんも162cmあるからちっちゃいってほどでもないんですけどね、でも見た目20cmくらいは身長差ありそうに見える不思議。壁ドン、お姫様抱っこ、抱き寄せてのキス、ひざまずいてのプロポーズ……とまあ少女漫画的な胸キュンシーンが、まあ絵になること! イケメン真風と童顔まどかちゃんにはほんと少女漫画設定がよくお似合いだわ……と思いました。

あとみんな言ってるけどラムセス芹香斗亜のチャラみがいいですよね〜。あの「俺の嫁になれソング」曲調といい可愛らしい内容といい最高じゃないですか。共白髪どころか「ミイラになるまで」って。褐色肌に金髪だしもうキャラが最高。銀橋でカイルと激しくどつきあう場面も最高でした。黒太子マッティワザの愛月ひかるさんも出番少ないけどビジュアルの強さで印象に残りました。どうせなら「おんな子どもも冷酷に殺すソング」一曲歌い上げてほしかった。

なんだかんだあって最後はカイルの戴冠式(と、ふたりの結婚式?)の大団円ハッピーエンドで、「ああ、いいお披露目ですね!」という気持ちになりましたね。多少アラはあっても祝祭感と幸福感であたたかい気持ちになります。そういえば星組のお披露目もスカピンだったから最後しあわせな披露宴感あったなあ、それに比べて雪組のギロチンエンドなんだったん……作品としてすごい好きだったし良かったんだけどなんでお披露目でなぜあの仕打ち……月組の珠様お披露目も死別の苦い終わり方だった……悲劇は芝居ができる組の宿命なのかよ……などと思ってしまいましたよね。いや作品としては圧倒的に「ひかりふる路」や「グランドホテル」の方が好きだしリピートできるんですけどね。複雑なファン心。


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さてショー「シトラスの風」。1998年初演の作品ということでちょっとクラシカルな宝塚レビューといった印象でした。あの尖りに尖ったショー「BADDY」の後にこの王道すぎるショーは物足りないんじゃないか……と懸念していましたが、まあなんだかんだ美味しくいただけるのが宝塚のいいところ。印象に残る場面もあり「清く正しく美しく!」な王道宝塚レビューを楽しむことができました。オープニング、舞台に広がる娘役のスカートの裾の美しいこと!

まあなんといっても芹香斗亜さんのPARADISOですよね。キキちゃんがただ銀橋を下手から上手に歌いながら移動するだけで他に何も出てこない場面なんですけど、まあ、もう、なんというんでしょう、これほど完璧な「THE・男役」を観たことがあろうか……というほどのカッコよさ。ドラゴン柄の白ロングチャイナに斜めにかぶった白ハット、その帽子のつばから見える片目と唇の美しさ……あの一曲でどれだけの女性を沼に落としたことか。キキちゃん罪深い! 花組の時もずっと観てたはずなんですが、宙組にきたら急にキャラの輪郭が際立った気がするんですよね。適材適所ってあるんだな……! と思いましたよ。

そして「明日へのエナジー」の力強いゴスペルナンバーも実に良かったですね。お衣装はB席ビューだと黒学ランに赤Tシャツのヤンキースタイルに見えてしまう瞬間もありましたが気の所為だと思うことにしました。宙組のパワフルな力強さがバーン!と押し出された名場面でした。

しかしまあこの圧倒的正統派さわやかレビューの後にまた次は星組のキラールージュで中毒性高いサイトー先生のキラキラ歌謡ショー、さらにその後は雪組のドエロいフェティッシュな変態ギラギラ18禁ショー「ガートボニート」が続くと思うと宝塚って本当に恐ろしいところだな……と思いますね……(震えながら)