「パラサイト 半地下の家族」

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いやー、凄い映画でした。面白かった! 各種映画賞を総ナメにするのも納得の内容です。胸がザワザワするようなこの宣伝美術は前からみかけていて、「なんか嫌だなあ、北九州監禁殺人事件とか尼崎連続変死事件みたいなやつなのかな」と思って尻込みしていたのですが、そういう類の話ではなかったです。貧乏な家族が金持ちの家族に少しずつ寄生していく話ですが、この貧乏家族も北九州や尼崎の犯人ほど邪悪ではないので、そこは安心して見ていられました。前半は意外とコメディタッチで笑える場面も多かったです。格差社会を描いてるとはいえ重苦しい社会派ドラマではなく、むしろサスペンス要素たっぷりのブラック・コメディといった感じでした。ハラハラドキドキのエンターテインメントな映画でしたね。

とはいえ、見てる間はジェットコースターに振り回されてる気分で楽しんでいたのですが、見終えて映画館を出た瞬間に襲ってくる「これをエンタメとして消費して本当にいいのか……?」というザワザワした気持ち。笑い飛ばすには貧乏暮らしの描写がリアル過ぎるんですよ……ラストも勧善懲悪なわけでもなく後味が重くて……。しかも見てたのがTOHO日比谷なもんだから、ミッドタウンのちょっとお高めのキラキラしたお店の前を通ってるうちになんかもうすっかり心が滅入ってしまい、イルミネーション輝く地上に降りる頃には気持ちが死んでしまいました。思わず駅と反対方向の東京宝塚劇場のグッズショップに駆け込んでヅカ充することで心を癒やしてしまいましたよね……

 

以下、ネタバレ含みます。
まだ映画を見てない方はネタバレ踏まずに映画を先にどうぞ!

 

 

 

 


冒頭の貧乏なキム家の半地下の家での暮らしの描写、笑える雰囲気で描かれてるんだけど、絶妙にリアルで心を削られますね。窓の外には小便する酔っぱらい、トイレは水圧の関係で高い位置に便器がある、テーブルの上にいる便所コオロギ、パスワードを設定されたせいでタダノリできなくなったWi-Fi……。一方でパク家の家が広々とした庭園に広々とした清潔な部屋で、なんとも画面に映える作り。あれが全部セットだというのもびっくり。

家族4人とも無事にパク家への侵入を果たすまでの過程はコンゲーム風味のコメディ展開。パク家がキャンプに行ってる間に豪邸内でうかれて我が物顔で過ごすキム家……のところに追い出した家政婦がやってくるあたりから物語がどんどん予想外の方向へ転がっていきます。(ここから本格的にネタバレしますよ未見の方は気をつけて)パク家にやってきた元家政婦は中に入ると物置部屋の隠し扉の下へ突進。核シェルター代わりの地下室には元家政婦の夫が住んでいて、キム家の正体に気づいた元家政婦と夫は証拠の動画を送信直前の状態でキム家を脅す……というまるで予想外の展開に。「天上界に住む金持ち家族」「半地下に暮らす貧乏家族」のさらにその下に「完全に地下に住み金持ち家族の食料をくすねて生きる男」の存在があったわけで。すったもんだの果に元家政婦と夫を地下に閉じ込めたところへ、大雨でキャンプを中止したパク家が帰宅するという電話が。大慌てで隠れるキム家、夜食を準備する家政婦役の母親、というドタバタの展開にハラハラしつつもクスクス。

どうにか隙をみてパク家から脱出した父親と子どもたち、でも半地下の家に帰るとそこは大雨のせいでほぼ水没。便器からはどす黒い水が溢れ出すという地獄絵図……。キム家が避難所の体育館で一夜を過ごす一方で、のんきなパク家は朝から息子の誕生日パーティの準備にかかる……という対照的な描写が続きます。この一連のどたばた展開の中で時々挟みこまれているのが、パク家の夫婦がキム家の父・ギテクの匂いに対する不快感を表す描写。確かにあの黴臭い部屋やトイレの近くで過ごしてたらどうやっても匂いって染み付いてしまうものだろうけども、匂いに顔をしかめられるのって直接「貧乏人」と言葉で言われたりするのよりも、こう、ダメージがありますよね……。そして積もり積もったその「匂い」に対する気持ちが最後の悲劇の引き金になる描写もお見事。(とはいえ、パク家の娘ダヘがあれだけ近くにいるキム家の息子ギウの匂いに気づかないのは違和感があるので、ダヘはアレルギー性鼻炎とかなにか匂いに鈍感な理由がほしかった気も)

華やかな上流階級の誕生日パーティの開催中に、いろいろあって悲劇のピタゴラスイッチが連鎖的に起こっていくあたりはもはや開けた口を手を覆って見いってしまいました。諸々の伏線のはりかたもその積み重ねも実にお見事。最終的にパク家は大きなダメージを受け、キム家も悪事の報いはうけることに。行方不明になったギテクの居場所を突き止め「金持ちになってあの家を買い取ろう」と決意するギウの妄想も切なく、あの家の地下に引きこもって暮らすギテクのその後にも思いを馳せてしまい、なんともいえない気持ちになる着地点でした。しかしパク家のあの少年、もうトラウマが酷すぎてあの後立ち直れないのでは……なんにも悪いことしてないのに……かわいそうに……。

よくある「金持ちは成金で悪」「貧乏人は善良で清貧」という描き方ではなく、だからといって詐欺を働くキム家もそこまで邪悪というわけではなく、その描き方が面白いなあと思いました。キム家もちょっと小狡いだけの普通の人たちで、家族も仲良しで結束力あったりするんですよね。あんなに広い家なのになんだかんだリビングのテーブル囲んで酒盛りしちゃうあたりめっちゃ仲良しじゃん、と思ってしまいました。だからこそ娘と父をそれぞれの形で失ってしまい優秀な浪人生だった息子に障害が残ってしまうのもめちゃめちゃ後味が悪いんですけど……。

すでにカンヌでパルムドールを受賞してますが、アカデミー賞もどこまで賞レースに食い込めるか楽しみです。外国語映画賞はおそらく間違いないんでしょうけど、作品賞にもノミネートされていてびっくり。監督賞や脚本賞どころか編集賞美術賞までノミネートされてますもんね。すごい。発表が楽しみです!

 

 映画見た直後に「パラサイト面白かったけどエンタメとして消費していいのかというザワザワ感で心が死んでしまった」とツイートしたのだけど、後からこのインタビュー読んだら「とにかく2時間ずっと感情のジェットコースターに乗っているような、ほかに何も考えられない状態にしたい。心のなかがザワザワして、いろんな思いを巡らせるといった状態には、映画を観たあとにそうなってほしいんですね。」と監督が語っていて、うわあ!まさに思うツボ!と思いましたね……。