「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」

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出典:ぴあエンタメ情報

 

この映画を見た舞台ファンの方の称賛コメントが立て続けに目に入ったので、気になって見てきました。19世紀末のパリを舞台に、「シラノ・ド・ベルジュラック」ができるまでを描いたバックステージ物です。2016年に舞台作品として上演されたものの映画化らしいですね。崖っぷちの劇作家エドモン・ロスタンが、「構想ゼロ、脚本は真っ白」の状態から、演技の素養のない息子をいい役につけたがる借金まみれのベテラン俳優コクランや、衣装係のジャンヌに熱を上げる友人俳優レオ、脚本に難癖をつける面倒な大女優マリアなどクセの強い人々の間ですったもんだしつつも、3週間後の初日までに芝居を作り上げる……という物語。終盤はコメディとはいえやや出来すぎな感もあるものの、劇場で繰り広げられる芝居愛あふれるドラマには胸が熱くなりました。初日を迎えた劇場のあのなんともいえない高揚感と吐きそうな緊張感、芝居好きならきっと大好きなやつだと思います。

「初日の一週間前に予想もしないピンチで突然舞台の制作が打ち切られる」という状況も、このコロナ禍の状況で観ると身につまされるものがありますし、オノレのカフェでうなだれるスタッフキャストの姿に思わず感情移入してしまいますね……。そしてなんとかこぎつけた初日、「人の埋まった劇場」で観客と舞台のキャストの間で生まれるあの一体感、本当に「良かったねえ」と思ってしまうやつでした。

19世紀末のパリということでムーラン・ルージュがワンシーン出てきたり(いままさに月組が「ピガール協奏曲」でやってるあたりですね)、衣装係のヒロインが急遽代役で舞台に立ってしまうあたりで「クリスティーヌ……!」と思ってしまうファントム脳が作動したり(ファントムもこの時代の劇場の話ですしねえ)、宝塚ファンにはおなじみの時代のおなじみの場所の物語ですね。衣装も美術のビジュアル面も素敵でした。うっとり。途中で出てきた娼館にいたロシア人がアントン・チェーホフだったのも笑ってしまいました(あんなとこで会うとかある???)。エンドロールでは実在のコクラン本人の映像が出てきて「ふわぁ!」となりましたし、歴代のシラノ俳優の映像、実在した登場人物のポートレートが(チェーホフも含めて)出てきて、愛がありましたねえ。エドモンに着想を与えるきっかけになるカフェの店主・オノレさんもかっこよかった!あとそうそう、冒頭の開幕がオケのチューニング音と客席のざわめきなんですよね。細かいところだけどあれは本当に観客の「わくわくする瞬間」だから嬉しかったです。

しかし、エドモンがレオになりすましてジャンヌにラブレターを書くうちに芝居が立ち上がっていく様子にわくわくしつつも、作品のためならなんの悪意もなく人を騙し、ジャンヌへの言葉をそのまま舞台に乗せてしまうエドモンの作家としてのエゴや狂気も透けて見えるんですよね……。基本コメディなんで悪いようには描かれてないものの、人としてどうなんだ感はありました。まあ言うてもジャンヌやエドモンの妻・ロズモンドも、ふたりとも「男の才能」に惚れるタイプの業の深い女性のようで、エドモン本人よりも彼が生み出した作品や言葉に惚れている感があるので、お互い様なのかもしれません。割れ鍋に綴じ蓋。

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