ミュージカル『INTO THE WOODS』@日生劇場

梅田芸術劇場公式ホームページより

 

宮本亜門演出版と映画版は観ていますが久しぶりの日本上演ですね。そんなに中毒性の高い大ヒットミュージカルというわけではない気がしつつ、映画版の感想を振り返ったらやっぱりモヤモヤした感想を書いてました。演目だけならスルーしてたような気がするんですが、望海風斗さんが退団後初の舞台出演…ということで、ご贔屓の元気な姿を観るために行ってまいりました。

 

子供のできないパン屋夫婦がシンデレラの靴と赤ずきんの頭巾とラプンツェルの髪を集めたら子どもを授けると魔女にそそのかされ、それぞれの物語に介入していき、シンデレラと赤ずきんラプンツェルは本来の物語のその後を生きていかざるをえなくなる…とざっくりそんなあらすじ。ハッピーエンドの物語から放り出されたそれぞれのキャラクターが途方に暮れるあたりがほろ苦い話で、「この先どうやって生きていけば…?」みたいな状況は割と閉塞した今の状況とシンクロするものがあったと思うんですけどね。巨人の妻の襲来なんかは震災やコロナなんかの災厄と重ねやすいエピソードだと思うのですが。

 

その「ハッピーエンドのその後」や、ナレーターを殺した後の登場人物たちの行方…みたいなメタ展開の部分がうまく演出されていたかというとそうでもなく。訳詞のせいなのか歌唱力の問題なのか音響の問題なのかはわかりませんが(日生劇場で音響が…ってことは無いか…センターブロックだったし…)歌詞も聞き取りづらく、なんだか物語の芯がわかりづらいまま、モヤァ…と終わった感じがしました。まあ映画版もモヤァとしてたのでもともとそういうストーリーだと言われたらそれまでなのですが、そこをきちんとこういう解釈ですよと構成して見せるのが演出家の仕事では…と思ったのが正直なところです。スコアどおりに進めてるだけで演出意図があんまり見えてこない舞台だった気がしました。黒衣のパフォーマーの使い方なんかは好きなやつだったので、面白いところもあるにはあったのですが。

 

望海さんの魔女はさすがの歌唱力で、コミカルな芝居もしっかり笑いを誘っていましたが、宝塚時代を知ってるとそれでも「やや出力押さえ気味かなー」と思う芝居でしたね。まあ主役ではないし全体のバランス的には押さえ気味で正解なのかな、二番手時代の望海さんを思い出すなどしました。
印象に残るのはやはり王子ふたりですね、「Agony」は映画版でも印象的なナンバーでしたが、歌のやたら上手いバカ王子ふたりが客席を温めてくれました。廣瀬友祐さんと渡辺大輔さん、ほんとこのふたりがいて救われた…!という舞台です。シンデレラの継母・毬谷友子さんも継姉の湖月わたるさん、朝海ひかるさんもさすがのうまさ。むしろ脇役じゃもったいない方たちですよ…。

 

一部主要キャストの歌唱力が…ということでSNSで悪評が立ってしまった作品でしたが、これは歌いこなせなかったキャストよりもそもそもキャスティングした人の責任では…という気がしましまね。ソンドハイムのメロディってトリッキーな展開するわ不協和音でてくるわで、正確に歌える人が歌って初めて正解がわかるやつじゃないですか…。アランメンケンさんとかワイルドホーンさんとかのわかりやすいキャッチーなメロディラインだったら多少音程がアレでも「それてもまあメロディラインは解る」と思えるからそこまでストレス無いんですが、ソンドハイムさんのは「そもそも正解のメロディラインがわからない」になってしまってストレスがすごいな、と思いました。
ふだん他の舞台でポップス調のお歌ならちゃんと歌えてるキャストですらもナンバーを歌いこなせてるとは言い難く、「このお歌は正解?」と不安になるくらいだったので、これはミュージカル初心者のキャストにはキビシイ演目だった気がします。