リメンバー・ミー




ピクサー新作! 「家族の物語」とか「泣ける映画」とか「感動のなんちゃら」とか言われるとまあその時点でテンション落ちちゃう系の人間なんですけど、まあそんな気持ちで見ていても、泣きますね。これは。というか一緒に観ていた8歳の長女が終盤30分くらいずっとしゃくりあげる級の嗚咽で「具合悪いのかな?」と思うレベルでした。年齢的に「死」の概念がなんとなくわかってくる頃だからなんでしょうかね、同じくらいの年齢の子と一緒に観てきたTwitterママ友も何人か「子が号泣」とつぶやいていましたし。小学校低学年くらいの子は家族の死というテーマに対してセンシティブなのかもしれません。映画が終わったらすぐ帰る予定だったのですが、「こんな気持ちで帰れない……」と感動しすぎて虚脱状態のオタクみたいな状態になって、サーティワンにピットインして親子でもそもそとアイスつついてクールダウンしていました。なんというかそんなテンションの映画でした。帰ってきてからも親子でずっと「♪リメンバー・ミー ほにゃららら〜 リメンバー・ミー♪」とうろ覚えのサビばかりを繰りかえす有様でしたよ。

あらすじ。舞台はメキシコ。音楽家として夢を追いかけるために妻イメルダと娘ココを捨てたリヴェラ家の高祖父。リヴェラ家は代々靴屋として生計を立ててきて、イメルダの教えから音楽を全て禁じていた。そんな中、12歳の少年ミゲルは伝説のミュージシャン、エルネスト・デラクルスにあこがれて家族に隠れてギターを弾いていた。そんな中、一年に一度だけ亡くなった先祖がこの世にやってくる「死者の日」がやってくる。死者をこの世に迎えるために祭壇に飾られた高祖父の写真は、顔の部分が破り取られていたが、ミゲルはその手にあるギターがデラクルスの白いギターであることに気づく。自分はデラクルスの孫の孫ではないかと思ったミゲルは、音楽コンテストに出るためにデラクルスの霊廟に忍び込んで祭壇のギターを借りようとするが、そのギターをかき鳴らした途端に死者の国へ足を踏み入れてしまう。現世に戻るためにはマリーゴールドの花びらと家族の許しが必要なのだが、祖先のイメルダたちは現世に戻る条件に「音楽禁止」を課そうとする。ミゲルは無条件で現世に戻るため、デラクルスに会って許しを得ようとする。偶然死者の国で出会ったヘクターという男がデラクルスを知っているというので、ミゲルはヘクターをガイド役に死者の国で冒険を始めるが……という物語。この先もすったもんだありますがネタバレになるのでここまで!(wikipediaにあらすじ出てますが最後まで詳細が書いてある超ネタバレのアレなので、未見の方は薄目でも見ないようにしてくださいね)

ピクサーらしい緻密な脚本、さすがです。「ええー! そっち!」「ああー! そういえばアレ伏線〜!」って心の中で叫んでしまうやつですよ。「チョリソー喉につまらせて死んだ」のアレがああ来るかー、とか。ひぃばあちゃんがボケはじめていたのすらポイントだったとか、ああもうー。ネタバレなのでこれ以上書きませんが! 死者の国では死者は永遠の命を持つのかと思いきや、「生者の国に写真が飾られなくなり、生きてる人に忘れられると死者の国での死が訪れる」という設定もいいですね、よくいわれる「第二の死」が訪れるわけです。だけどこれは「死んだ人を忘れさえしなければ、死者の国から現世にやってこられる」ということで、大切な人を喪った人に対しても優しい設定だなあとちょっと思いました。

ストーリーもいいんですが、ビジュアル面、「死者の国」の世界観も素敵です。死者は骸骨の姿で出てくるものの、よくある「暗く恐ろしい死者の国」のイメージではなく、マリーゴールドの鮮やかなオレンジ色が敷き詰められた橋から始まって、温かみと懐かしさのある雰囲気の巨大な街。「魂を導くガイド」と呼ばれるカラフルな聖獣アレブリヘの存在も、ファンタジーの世界観として最高。最初はミゲルを追いかける恐ろしい存在だったアレブリヘも、クライマックスでは頼もしい存在に。ミゲルが暮らすメキシコの街と「死者の日」の祝祭感の描写もいいんですよね、カラフルなんだけど素朴な感じとか。

「俺は有名人を知ってるんだ」なんていう人にたいていロクな人間はいないのですが、ミゲルが出会った時のヘクターはまさにそんな感じの胡散臭いタイプの人間で。でもなんとなく憎めないし、ヘクターがギターを借りに行った先でのチチャロンとのエピソードでちょっと人の良さも見えたりして。コンテストでミゲルと一緒に歌い踊る場面でのバディ感もいい……と思いながら見ていたらあの展開ですからね。あああ、ヘクター! 好き!ってなりますよ。大きな穴に落とされたミゲルとヘクターの場面あたりからもうグズグズになってしまいました。ヘクターが語る家族の思い出話、その上で主題歌の「リメンバー・ミー」を聞いたらもう、泣くしかないやつですよ。まあしかし、泣ける泣けるといってもちゃんとハラハラドキドキのアクションなのが安心のピクサー映画。こんだけ泣かしておきながらも、デラクルスのコンサートの場面でのすったもんだも手に汗握るドキドキハラハラ展開でとても良かったです。最終的に無条件での帰宅をゆるしてくれるママイメルダ、一年後の死者の日の場面でのイメルダたちが仲良く笑い合ってる場面、ほんと良かったです。泣いた……。

ラクルスの吹き替えが橋本さとしさんで、最初の「リメンバーミー」もあの声でゴリゴリのゴリ押しに歌い上げるの、「ああさとっさんだ!」って感じで好きでした。終盤の展開も「ああ!これぞまさに橋本さとし!」って感じの展開で「そうだった、この後半の展開は吹き替え声優のキャスティングから逆算できるやつだった!」とちょっと思いましたよね(←あっそれもうネタバレ)。イメルダ役は松雪泰子さんだし、コンサート場面でのデラクルス&イメルダの歌はなんとなく新感線劇団員の匂いのするデュエットになっていたり。そういや主役ミゲルの吹き替え、石橋陽彩くんというらしいですがほんと上手かったですね。なんと13歳! お歌も上手いし声の演技も全然違和感なかったし。調べたら東宝フランケンシュタインの子役だったんですね、知らなかった。吹き替えといえばミゲルのお父さんが「歌のおにいさん横山だいすけおにいさんだったのも気づきませんでした。まあこちらはチョイ役といえばチョイ役ですけれど。

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同時上映の「アナと雪の女王」の短編、「家族の思い出」がちょっと賛否両論なようでして、まあ単純に長編映画の併映短編としては長い22分の尺の問題が大きいんでしょうけれど。確かに、「家族」とクリスマス行事という「伝統」の形式的な部分にやたらこだわるあたりの脚本がなんだかちょっとモヤっとする部分はありました。「お城の扉を閉ざしてからはクリスマスの伝統は無かった」ってあたりに「アナと雪の女王」の時も言われていたエルサの両親のアレな面がまた垣間見えますね、ひと目を避けてもクリスマスパーティくらいやればいいじゃん!ってなっちゃいますが。描写はなかったけどエルサに手を焼いて両親も病んでたのかな……とか色々考え込んでしまいましたよ。両親が亡くなってから何もしなくなったっていうんならわかるんですけどね……。


このアナ雪短編の「家族の思い出」「家族の伝統」をテーマにした物語、リメンバーミーとあえてテーマをあわせて統一性をもたせた脚本なんでしょうけれど、同時上映で見るとなんか「家族家族家族!家族みんな一緒に過ごすのが正義!」みたいなゴリ押しに見えなくもなくて。「ああー本編のリメンバーミーもこの調子で家族ゴリ押しだったらどうしよう〜」とちょっと思いましたが、本編のほうはちゃんとその辺丁寧に見せてくれて自然に受け止めることができたので良かったです。でも、あとで気づいたんですが原題は「家族の思い出」じゃなくて「Olaf's Frozen Adventure」なんですね。邦題も「オラフの大冒険」じゃ駄目だったのかなーとちょっと思いましたよ。冒険モノの気持ちで観たかった。

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ベイマックス」「モアナと伝説の海」の時も言われてましたが、どうしても日本でのディズニー・アニメの宣伝って「泣ける感動ストーリー」のゴリ押しになってる気がするんですよね。まあそのほうが客がはいるという実績があってのことなんでしょうけど、私たちみたいに「アクション映画なら見に行く」「感動モノとか泣けるとかそういうのいいから」みたいな映画ファン層もいるわけじゃないですか……実際見たらまあ宣伝に偽りありとは言わないけど、「もっとこのアクション要素前面に出していこう?」って思うわけで。「リメンバーミー」はモアナやベイマックスほどアクション性が強いわけではないですが、それでも異世界ファンタジーとしての世界観の素晴らしさとか、ドキドキハラハラの追走劇アクションなんかも要素としてはあるわけで、あんまり泣ける泣けるいわなくても良いのになぁ〜とかちょっと思ったりもしました。まあ、泣いたんですけど(←結局それ)。